第四章 過去への入り口
何時間くらい遊んだだろうか。俺の体感ではもうとっくに日が昇ってもおかしくない時間だと思うのだが。
「なー、かな、今何時だ?」
かなに訊ねてみた。
「んー、わかんない。でも夜はまだまだ明けないよ。だって…」
そこでかなは口をつぐむ。
「だって…なんだ?」
「ううん、なんでもない。それより今度はさ、これしよ?」
かなはどこから持ち出したのかグローブとボールを持ち出していた。
「キャチボーゥ」
何故か発音の良くキャッチボールと言い放ち10mほど離れたとこまで掛けていた。
「いっくよー。」
シュッ
小気味良い音をたてて放たれたボールは、俺の遥か頭上を通り越していた。
「にゃはは…」
かなはバツの悪そうな顔でこちらを見ていた。俺は
「ノーコン。」
とだけ言い放ちボールを拾いにいく。
それからもキャッチボールと言うよりは俺のボール拾いと言ったほうが正しい行為を延々続けているうちになんとかジャンプしたりすれば、届く範囲にかなはボールを投げられるようになってきた。
「ねー信二君」
シュッ・・・パン。
「なんだ?」
シュッ…パンッ。
「信二君はさ、好きな人とかいるのー?」
シュッ…パンッ。
「いねーよ。」
シュッ…パンッ。
「ずっといないのー?」
シュッ…パンッ。
「ああ、小さい頃からずっとだ。」
シュッ…パンッ。
「そっかー。でもお母さんとかお父さんとかは好きだよね。」
シュッ…ポロ。
俺は立ち尽くしていた。その質問には答えることができない。嫌いなわけじゃない。でも好きなわけでもない。わからないのだ。
「ちょっと、信二君どうしたの。」
駆け寄ってきたかなの声でふと我にかえった。
「お、悪い。」
「もしかして私、変な質問しちゃった?」
「いや、そういうわけじゃないんだが。」
そこで、どういうことだか、ふと、かなには話してもいいかな、などと思っていた。十数年、胸に秘めてきたこの思いを、夢の中の自称記憶喪失少女に話すなんてどうかしていると思うが。でも何故だか、かなには話したかった。
「なあ、かな、ちょっと俺の話、聞いてくれるか。」




