第三章 童戯
それから、何度も寝ようとしたのだが、かながその度に揺すって起こしてくるので結局眠れなかった。
「ねー、かなと一緒に遊ぼうよー。ね、鬼ごっこしよ?」
鬼ごっこなんて…ガキがする遊びだろ。しかもこんな真夜中に、2人でして楽しいのか?
俺がそんなことを考えながら黙っていると、かなは突然駆け出した。
「じゃー、信二君が鬼ねー。早く捕まえないと罰ゲーム、恥ずかしいモノマネ10連発―。」
なんて元気の良いやつなんだろう。俺はそこに座ってじっとしていた。すると、かなが泣きそうな顔で戻ってきた。
「追いかけてくれないと鬼ごっこにならないよー。」
このままじっとしていて泣かれでもしたらたまらないので、俺はしぶしぶ追いかけることにした。
これでも子供の頃から足だけは速かった。かなも女の子にしては足が速いほうだったが所詮は女の子、すぐに捕まえた。
「ほらタッチ。今度はお前が鬼だぞ。」
それから延々と走り回ったが俺が捕まることはなかった。ずっと鬼をやって走り回っているのにかなは凄く楽しそうに笑顔を振りまいている。それは、まるで小学生くらいの女の子のように。
ガキがやる遊びをあれだけ楽しめるのも珍しいな。
そんなかなを見て俺も自然と笑顔になっていた。
「ねー、次はあれしよーよ、かくれんぼ。」
また、ガキの遊びの提案をしてきた。ま、かくれんぼなら走り回ることもないだろうし、ままごとなんて言われるよりもましか。と、思い俺は付き合ってやることにした。
「じゃー、信二君、鬼ねー。100数えるまで目開けちゃダメだよ。」
言いながら、かなは駆けていった。この強制で俺が鬼という理不尽ルールは、どうにかならないのだろうか。しかし、かなの無邪気な笑顔を見ているとそれも悪くないかと思っている自分がいて、なんだか妙な気持ちがした。
夢の中で出会った少女にこんな感情を抱いている自分がどうしようもなくおかしかった。
「98…99…100。よし、じゃー探すか。」
って、見えてるんだがな。木の裏に隠れているつもりらしいがピンクのパジャマの端が思いっきりひらひらしてる。かなはそれを必死に隠そうとしているのか、手をぱたぱたしてその部分を押さえつけようとしている。そのせいで、結果、手も見えてしまっているのだが。
はぁ、これはスルーしてあげるべきなのだろうか。俺は、わざとその方向とは反対側にいき一生懸命探すフリをしてみる。振り返ると、かながしたり顔でこちらを見ている。そうやって顔を出しているもんだから、もう上半身はほとんど隠れていないと言ってもいいだろう。
「はぁ…あいつ、相当隠れるの下手だな。」
俺は、そろそろか、と思いかなの隠れている方へ向かう。かなは慌てて身を引っ込めるが、今度はお尻のほうが見え見えだった。
「ほら、見つけたぞ。」
「わー、見つかっちゃった。 でも、かな隠れるの上手だったでしょ?」
あれの、どこが上手だったんだか。だが、俺が「ああ」と答えてやると、凄く嬉しそうな顔をして、しかも
「まー、信二君が探すの下手だったっていうのもあるけどね。」
などと言いやがる。開始2秒で見つけましたが?などということは、大人な俺は言わない。
それから、かなが思いつく限りのガキっぽい遊びに延々付き合ってやった。かなは、何が楽しいのか終始笑顔を絶やさなかった。俺は、そんなかなを見ているのが楽しかった。




