第二章 出逢い
「にゅう? ここどこだー? わー!! 私、人の上に座ってる、ってこれ誰?」
ん・・・何か騒々しいな。それに何か重いものが乗っているような感じがする。
俺はうっすらと目を開けてみた。
目に入るのは星空と高校生くらいの女の子。確かにトンカツ食べて風呂に入って自宅で寝た記憶はあるのだが。
「あー、夢だこれ。」
俺は再び寝ることにした。何かおいしいものが食べられる夢ならともかく、こんなわけのわからない夢を見るのはごめんだ。
「わー、夢じゃないよー。た、たぶん。だって、私はここにいるし。うん。」
何かわけのわからない事をごちゃごちゃ言っているが、気にせず眠ることにする。
「あれ?もしかして私の夢なのかな?んー、んーーー、んーーーー」
「うるせーーーー。」
たまらず飛び起き・・・ようとしたのだが重くて起きられない。
「とりあえず、そこどけ。」
「わっ、ごめんよー。よいしょっと。」
女の子は俺の腹から腰を上げる。俺も目が冴えてしまったので(夢の中で目が冴えるというのもおかしな話だが)起きることにした。
「ねー、あなたは誰? そしてここはどこ?」
女の子はいきなりそんな事を聞いてくる。俺が聞きたいくらいなのだが。
「俺は、鷹神信二だ。ここがどこかなんて知るか。お前は?」
「へー、信二君って名前だったんだ。ん? 私はねー・・・えーと、えーと、あれ? 私は誰だ?」
付き合っていられない、俺はやっぱり寝ることにした。
「わー、寝ないでよー。ほんとにわからないんだよ。」
ゆさゆさ、女の子が俺を揺すってくる。
「うがー、やめろー。ここはな、たぶん夢の中だ、俺は自宅で寝た記憶があるから断言できる。夢からさめればお前も自分が誰だかわかるし、こんなわけのわからんとこからも出られるし、めでたし、めでたしだろ。わかったらお前も寝ろ。」
いっきにまくしたてる。これで女の子も黙るだろう。と、思ったのだが。
「ねえ、ここ私、覚えてるような気がする。ぼんやりだけど。ねー信二君、信二君ってばー。」
全然黙らなかった。しょうがなく上体を起こしてまわりを見やる。
「お前、ここ公園じゃねーか。」
そこはよく見知った公園だった。
いつも通勤中通る道の病院の向かいにある少し広めの公園。真ん中には噴水があり、夏には小学生や中学生がよくそこで水遊びをしているのを見る。
ここがその公園だとしたら、俺はここまで歩いてきたのか?これは夢じゃなく現実なのだろうか。だとしたら早く家に帰らないといけない。
俺は歩き出した。後ろから女の子の呼ぶ声が聞こえたが知ったこっちゃない。20mほど歩き、公園から道へ足を踏み出した。踏み出したと思ったのだが、その1歩は道ではなくさっきまで俺がいた場所の地面を捉えていた。
「あれ?信二君、出てったと思ったのに、なんでここにいるの?」
知るか、俺が聞きたいくらいだ。なんなんだ今のは。俺はもう1回走って出ることにしてみた。しかし、結果は同じ。公園の敷地から出るはずの1歩は最初にいた場所を捉えてしまう。
「信二君それどうやるの?手品?おもしろーい、ね、もう1回やって。」
焦る俺とは対照的にキャッキャと喜ぶバカが1名。
「手品でもなんでもねーよ。この公園から出ようとしたら自然とこうなるんだ。」
ふいに、女の子の表情が翳った。
「せっかく、やっと会えたんだから、出て行こうなんて言わないでよ。」
「は?どういう意味だ?」
よく、わからないことをいう子だ。
「んー、なんとなく、ね。ほんとなんとなく。ねーそんなことよりお話しようよ、出られないんだったらどうせすることないでしょ?」
女の子はそう聞いてくる。確かに手持ち無沙汰なのは認めるが・・・
「話をする前にお前、名前思い出せないのか?」
とりあえず話しをするにしても名前がわからないというのは不便でしかたない。
「んー、『か』がついていたような気がするんだけどー。」
「じゃー、かな、でいいな。」
「うわ、てきとー。でも、うん、それでいいよ。」
女の子、もとい、かなは二つ返事で了承してくれた。
「よし、じゃあ、かな?」
「ん?なに?」
「おやすみー。」
俺は眠ることにした。とにかく夢なら早く覚めて欲しい。こんな夢、どちらかというと悪夢だろう。
「ちょっ、ちょっと待ってよー、お話しする約束は? ちょっとー、起きてー。」
やっぱり悪夢だ。 覚めようにも覚ましてくれないなんて・・・