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夢現物語  作者: 矢口 希
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第一章 日常

コツ、コツ、コツ、コツ。

 自分の足音以外の音が聞こえない寂しい街。俺がこの街に生まれて、もう20年になる。

子 供の時はこんな田んぼと畑しかないようなこの街が大嫌いで、「大人になったら絶対にこの街を出るんだ。」なんて密かに思ってたりもしたが、大きくなるにつ れこの街が好きになっていき、いろいろな事情から高校には進学せず、この街の会社に勤め、この街で一人暮らしをするようになった。

 どうやら俺は一生この街を出れないみたいだ。

 それからこの街は序々に片田舎から、ちょっとした町にまで変貌をとげた。それでも町と呼べるのは中心部くらいで片鱗は今でもど田舎丸出しなのだが。

「はぁ・・・」

 なんとなしにため息をついてみる。吐く息は白い。

 山の上にある街なので、11月というのに気温は氷点下を下回ることもあるくらいだ。

 今の会社に勤め始めてもう5年が経った。だいぶ仕事にも慣れてきて、最近では重要な案件をまかされるほどにもなった。

 なにしろこんな町の小さな会社だ。若者は皆、ここを離れていくか大企業に勤めていく中で、俺は貴重な存在だった。入社当初はその期待がかなりプレッシャーになっていたのだが、今は心地よいくらいだ。

  好きな街に住み、良い環境の会社に勤め、何不自由ない暮らしをしている。してはいるのだが、何かが物足りない。最近になってそんな不満が出てきているのも 確かだ。毎日穏やかに流れていく時間、変わりばえのない毎日を消化していくだけの人生、そんな事に物足りなさを感じるのは、やはり俺がまだ若い証拠なのだ ろうか。

 コツ、コツ、コツ。

 今日は残業でだいぶ帰りが遅くなってしまった。俺は、家路を急ぐことにした。

 ガチャリ

 5年前から住んでいるアパートの部屋の鍵を開ける。2LDKでバストイレ別、駐車場付で家賃が25000円という安さも、ここが田舎故のことだろう。

 帰りに寄ったスーパーで買ったものを冷蔵庫に入れ、まずは一息いれることとする。

 プシュ

「この帰ってきてからの1杯と風呂上りの1杯は格別だよなー。」

 とりあえずグラスについだ1杯を飲みほし、缶に残っているビールをまたグラスについでから、夕食の準備にとりかかる。今夜は豚肉が安かったのでトンカツにすることにした。

 家に帰ってからすることは、たいてい毎日同じだ。ビールをグラス1杯飲んだあと2杯目を飲みながら飯を作り、飯を食べた後は風呂を洗ってから入り、風呂上りにビールを飲みながらパソコンをいじる。そしていい時間になったら寝る。変わることといえば、夕食の献立くらいだ。

 ちなみにテレビはあんまり見ない。朝に「めざますTV」を見ておけば、常識レベルの社会情勢はおさえられるので、それくらいを見ておけば問題ないと思っているからだ。バラエティ番組などの、楽しそうな雰囲気はどうしても性に合わないと思う。

「ふー、いい湯だった。」

 今日もトンカツが上手に揚がらなかったことを除いては良い日だった。残業で帰宅が遅くなっていたので、今日はパソコンをいじらずに寝るとしよう。

 俺は布団に入り、明日は何か変わった1日になりますように、などと柄にもなく願いながら眠りについた。


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