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異世界転生して授かったスキルが「漢検3級」だった件〜チュートリアルだと思ったらただの地名だし、職質を受けた〜

作者: HOT-T
掲載日:2026/05/26

久しぶりに書いてみた異世界もの。

相変わらず頭の中が狂っていると実感できました。

 俺の名はカッペイ。どこにでもいる高校生。

 幼馴染のモトナリと遊園地に遊びに行き、そこで「手を繋ぎながらコソコソしている黒ずくめの怪しい男たち」という、色んな意味で気になる同行を夢中で観察していたら、高所から足を滑らせて死んだ。無念である。


 だが、あまりに不憫な死に方だったということで、神様なる存在が異世界に転生させてくれることになった。

 現代知識と神様チートで無双して可愛いヒロインたちをゲットだぜ!と、俺は二つ返事で異世界行きを決めたのだ。

 あの時までは、輝かしい未来しか見えていなかった。


「おぬしを転生させる先じゃが……」

「やっぱ、お約束のチュートリアル的な場所に転生させてくれるんですかね?」

「ちゅーとりある……えーと、ああ、なるほど。初心者向けという意味か。あいわかった、お主の願い叶えてやろう。そして、お主に与える特別なスキルじゃが――『漢検3級』じゃ」

「漢検……えぇぇっ!?」

「新たな生を励むが良い。さあ、行ってくるのじゃ」

「待って、ファンタジー世界で漢字検定って何!? 『薔薇』とか書ければいいの!?」


 俺の切実な抗議を完全無視し、神様はまばゆい光と共に俺を異世界へと送り出した。


 気づけば、俺は活気ある雑踏の中にいた。

 周囲の景色は、まさに夢にまで見た王道RPGの街並みそのもの。

 レンガ造りの家々、行き交う馬車。本当に異世界に転生したのだ。


「ここから俺の、最高の第2の人生が……」


 漢検が一体どう役に立つのかはさっぱり分からない。

 だが、最初は死にスキルに見えて実は……みたいな、後から覚醒するテンプレ展開だろう。そうに違いない。


「やってやるぜぇ!」


 決意と期待を胸に、腹の底から叫びをあげる。

 すると、その大声に反応したのか、槍を携えた兵士風の男たちが、ギチギチと嫌な金属音を立てて近づいてきた。

 その空気感は完全に、お巡りさんの職務質問である。


「すいません、ちょっと気になったんですけど。身分証とか拝見させてもらっていいですかね?」

「え? いや、そういうものは……」

「冒険者資格証とか、健康保険ライセンスとか、その手の証明書でいいんですけど」

「いや、だからそういうのは持ってなくて」

「えーと、じゃあこの街でのご住所とかは?」

「今来たばかりなので、ないです」


 あからさまに怪訝そうな表情を浮かべ、兵士たちは顔を見合わせた。


「旅行者か? いや、手ぶらだしな……。身分証くらいは持ってるだろ、普通」

「怪しいな。一度、署で話を聞くか」


 兵士の一人が、顎に手を当てながら相方に耳打ちする。声が筒抜けだ。


「そうだな……。すいません、お兄さん。ちょっとね、最近この辺物騒だったりするんで。安全なところでお話とか聞きたいんですよ。ね?」


 親切そうな笑顔の奥の目が、完全に獲物をロックオンした警察官のそれだった。

 マズイ。マズイマズイマズイ。完全に一発アウトの不審者として扱われている。

 異世界転生初日に不法侵入で逮捕とか、どんな前代未聞のチュートリアルだ。


「あ、いや……それは困るというか、その、俺は怪しい者じゃなくて……!」

「だってあなた、身分証の類を何一つ持っていないですし……」

「いや、だからそれは、その、色々と事情が……」


 何か、何か一つでもいいから、俺の身分を証明できるものはないのか!?

 藁にもすがる、いや、神にも祈るような気持ちで、ズボンのポケットに手を突っ込んでガサゴソと探る。

 すると指先に、見覚えのない四角く折りたたまれた紙の感触が触れた。


(これだ……! これしかない!)


 救われた思いで引っ張り出し、大急ぎで広げる。

 そこに印刷されていたのは、なんと――『日本漢字能力検定・3級合格証明書』の文字だった。


「あ、身分証ですか。すいませんね、拝見します」

「え、あ、いや、これは……」


 俺が困惑する間もなく、兵士がにこやかに資格証を取り上げた。

 ……待てよ? よくよく考えたら、これって「なろう」の鉄板イベントじゃなかろうか。


 この異世界では、漢字が『失われた超古代の神聖文字』として普及しているのだ。

 つまり、その3級の資格を持つ俺は、現地人から見れば「選ばれし最高峰の頭脳の持ち主」……!

 兵士がこの紙を見た瞬間、「お、お引止めして大変申し訳ありませんでした、大賢者様!」と態度を急変させて顔パスになる。 

 よし、勝った! そういう展開だな!?


 まじまじと合格証書を見つめていた兵士が、ふっと顔を上げた。


「うん。なんかよくわからないんで、これはお返ししますね。とりあえず署の方で詳しく話を聞かせてください」


 現実は非情、かつ無情であった。


 連行された俺は、「なんかよく分からんけど、とりあえず怪しいから」という超絶ざっくりした理由により、留置所に三日ほどブチ込まれた。

 異世界初手から前科(仮)がつく転生者がどこにいる。

 三日目の朝、もうダメだ、俺の異世界ライフはここで終わりだと白目を剥いていたところ、聖職者らしい服を着たオジサンが現れた。

 無償弁護とかいう、この世界のリーガルなセーフティネットのおかげで、俺はなんとかシャバに出ることができたのだ。


「とりあえず一時的な滞在許可は取れたがね。早く職に就かないと、一発で『ノズマンセ』になるぞ」


 おじさんは気の毒そうな顔で、俺の肩をポンと叩いた。


「え? ノズマンセ……?」

「本当に何にも知らないんだな。家無しの無職、つまり浮浪者のことだよ」


 悲報。俺、異世界に転生してソッコーでホームレス扱いになる。


「あ、あの、贅沢は言わないんでとりあえず働きたいんですけど! どうすればいいですかね!?」


 食い気味にすがる俺に、おじさんは困ったように眉を下げた。


「まあ、仕事をするにも、まずは『住所』が必要だからな。とりあえずうちの教会を仮の住所として登録してあげることはできるが……それも期限は一週間だしなぁ」


 なんなんだこれ。この異世界、日本の役所や不動産審査より現実が厳しすぎるんだけど。

 神様、チュートリアルってこういう意味じゃない。


「えーと、じゃあ、ほら! 『冒険者』とかそういうのありますかね!? 俺、そっち系の知識なら現代日本でそれなりに蓄えてきた自負があるんですけど!」

「冒険者か」


 おじさんは顎をなで、なるほどと頷いた。


「確かにあれなら、登録さえ通ってライセンスを取れば即日働けるな。知識があるなら挑戦してみるのも手か。……よし、あそこに冒険者ギルドがあるから、今から登録に行こう。俺が身元保証人になってやるよ」


 よし来た、これだよこれ!!

 やっぱりファンタジーといえば冒険者ギルドだ。

 ライセンスさえ手に入れば、住所がなかろうが「漢検3級」しかなかろうが、こっちのもの!

 おじさんという最高の保証人をゲットした今、ここから俺の、怒涛の人生逆転劇が幕を開ける――!!


「冒険者ギルド、チュートリアルノ支部にようこそ」


 鼻息荒くギルドの重厚な扉を押し開けて、わずか数秒。

 にこやかに微笑む受付嬢から放たれたその言葉に、俺の脳内には激しい衝撃が走っていた。


「……チュートリアル、ノ……? え?」


 ロボットのようにぎこちなく首を回し、隣の聖職者オジサンを見る。

 オジサンは、いたたまれないものを見るような、深い哀れみのこもった視線を俺に注いでいた。


「……知らなかったのかい、カッペイくん。ここは『チュートリアルノ』。ナダ共和国の北西部に位置する、のどかな地方都市の名前だよ」


 待って。

 チュートリアルの街って、そういう意味――!?!?


 違う! 神様、お前それ盛大に間違ってるからな!!

 そもそもあんた、俺が「チュートリアル的な場所に~」って言った時、一瞬『えーと、ああ、なるほど。

 初心者向けの手引書のような場所か』って完全に理解してたよね!?

 理解した上で、「よし、じゃあ初心者用だから漢検3級(笑)でいいな!」って感じで送り込んできたんだよね!?

 地名とゲーム用語の奇跡のダブルミーニングに騙されて、ただの辺境の街に漢検3級の無職を放流したのかよ!!


 脳内で神様の胸ぐらを掴んで全力で前後に揺さぶっていると、カウンターの奥から冷え切った声が飛んできた。


「すいません、そこに突っ立ってると他のお客様の迷惑になるので、どいていただけますかね」


 受付嬢、顔はめちゃくちゃ可愛いのに言葉が辛辣すぎる。


 神の勘違い、謎の地名、死にスキル、そして愛想ゼロの受付嬢。

 もうどこから、どの順番でツッコミを入れればいいんだよこの異世界――!!


「……読める、読めるぞ……!」


 辛辣な受付嬢から差し出された『冒険者登録申請書』に目を落とした瞬間、俺の脳内に小さな奇跡のファンファーレが鳴り響いた。

 ちゃんと異世界の文字が読めるし、書ける。

 そうだ、よく考えたらここまで普通に会話が成立しているんだから、神様も「言語理解」の加護だけは最低限きちんとお恵みしてくれていたのだ。


(神様、さっきは一瞬でも無能呼ばわりしてすまなかった。あんた最高だよ!)


 言語チートの喜びに浸りながら、俺は羽ペンを走らせる。

 カウンターの向こうでは、受付嬢たちが「ねえ、何あの人……急に書類見て震えながらニヤニヤしてるんだけど。やばっ」「関わらない方がいいよ、ノズマンセ予備軍だし」と、凄まじい防壁を築いた陰口を叩き合っている。

 だが、今の俺にはそんな雑音は聞こえない。


 いいんだよ、今に見ていろ。ここから俺の人生は大逆転するんだ。

 あの冷たい受付嬢だって、半年もしない内に「カッペイさん、よくぞお越しくださいました! 今日の依頼なんですけど……っ」とか言って、憧れと熱い恋心を孕んだ眼差しを向けてくるに決まっている。

 脳内ではすでに、俺のハーレムルートの第1章が始まっていた。


 さて、書類も終盤。最後に『保有スキル・特技欄』が目に入る。

 ここには、とりあえず例のやつを書いておくか。

 もしかしたらギルドのシステムが「漢検3級」を未知の神聖文字スキルと誤認して、バックグラウンドでエラーを起こしてバグ転生無双が始まるかもしれないし。


――【保有スキル:日本漢字能力検定3級】。

 よし、完璧だ。


 「あの、よくわからないもの書くとかふざけないでください。それ、とりあえず二重線か何かで横線引いて消してくれたらいいんで」


 スッと差し出された細い指先が、俺の『漢検3級』の文字を冷酷に指さした。

 受付嬢の目は、完全に「履歴書の特技欄に『英検5級』とか書いてきた痛い就活生」を見るそれだった。

 バグも起きない。古代文字の覚醒もしない。ただの不真面目な悪ふざけ扱い。

 やっぱり、これっぽっちも役に立たないぞ、漢検3級!!


 申請書を提出してから、ギルドの隅にある薄汚れた長椅子で待たされること約三十分。

 ついに名前を呼ばれた俺が案内されたのは、なぜか学校の教室のように机と椅子が整然と並べられた、やたらと静かな一室だった。


 手渡されたのは、数枚の紙と一本の鉛筆。


「……あの、すいません。異世界のギルド試験って、こう、模擬剣を持ったベテラン冒険者と実技試験をやったりとか、そういうのじゃないんですか?」


 恐る恐る尋ねる俺に、試験官の受付嬢は冷ややかな一瞥をくれた。


「試験内容は、本部の要件さえ満たしていれば各支部の裁量に任せられているんです。ウチのチュートリアルノ支部は『筆記試験派』なんです。ほら、時間がもったいないのでさっさと席に着いてください」


 どこまでも、どこまでも事務的……! 役所かここは!

 だが、俺はすぐにニヤリと心の内で不敵な笑みを浮かべた。

 筆記試験。なるほど、頭脳戦か。いいだろう、受けて立つ。

 これでも俺は、前世で古今東西、数々の名作RPGをしゃぶり尽くすようにやり込んできた男だ。

 ダンジョンの複雑な謎解き、隠し通路のギミック、賢者の出す難解なクイズ――そんな数々の修羅場をくぐり抜けてきたこの俺のゲーマー脳に、死角など存在しない!


 よし、かかってこい異世界の超古代魔法クイズ!

 俺は気合をみなぎらせ、1枚目の問題用紙を勢いよく引っくり返した。


【問1】

赤、青、緑、黄の4チームがトーナメント方式で「ランラドッカ」の大会を行い、引き分けはなかった。1回戦では赤と青、緑と黄がそれぞれ対戦した。次のことがわかっているとき、優勝したチームはどれか。


① 赤は1勝した

② 緑は大会を通じて1回も勝てなかった

③ 黄色は2勝した


1.赤 2.青 3.緑 4.黄 5.この情報だけでは判断できない


「何だよこれぇぇぇええええ!!?!?!」



 思わず声が出そうになり、慌てて口を両手で塞ぐ。

 超古代文字でも魔王の呪文でもない。

 日本の就職活動で死ぬほど見かける、『SPIの数的推理(論理パズル)』の文章題が目の前に鎮座していた。

 兄貴が頭を抱えてたの覚えてるわ


 待て、まず「ランラドッカ」って何だよ!? 聞いたこともねえよ! ルール分かんねえのにトーナメントやってんじゃねえよ!

 いや、落ち着け、よく読めば競技の内容は関係ない。完全なる純粋なロジック問題だ。

 えーと、赤が1勝で、緑が0勝で、黄色が2勝……。4チームのトーナメントってことは、1回戦で2試合、決勝で1試合の合計3試合。その中で黄色が2勝してるってことは、黄色が1回戦と決勝を勝って、つまり……。


(……あーーー、まじで分からん! 考えるだけで脳ミソが爆発する!)


 前世のRPG知識が1ミリも役に立たない。

 「大賢者」の気分から一瞬で「勉強不足の高校生」に引き戻された俺は、深く考えるのを放棄した。


「……まぁ、こういうのはだいたい『黄色』って決まってるんだよ!」


 祈るような気持ちで、解答欄の『4.黄』に力強く丸をつけた。

 神様。俺、これ本当に「チュートリアル」の段階にいるんですかね……?



【問5】

自分は議論の際、感情より事実を優先させる


1.非常にそう思う

2.まあまあそう思う

3.どちらかというとそうかもしれない

4.あまりそうは思わない

5.全くそう思わない


「だからなんで、今度は『性格診断テスト』が始まるんだよ!!!」



 思わず問題用紙を机に叩きつけそうになった。

 就職活動か! 俺はこれから企業にエントリーシートでも提出するのか!?

 RPGの、冒険者の知識が必要な問題はどこへ行ったんだよ!

 俺が前世で培った「弱点属性の相性」とか「ポーションの効果的な使い方」とかの出番は!?


 ゼィゼィと荒い息を吐きながら、ヤケクソで『2.まあまあそう思う』に丸をつけ、怒りのデスロードばりにページを捲っていく。

 そして、問17に差し掛かったその時、俺の目は釘付けになった。


【問17】

マッチョベアーと遭遇した際に、最も行ってはいけない行動は何か。

「……そうだよ! これだよ! こういうのを待ってたんだよ!」


 俺はガタッと椅子を鳴らして歓喜した。

 これぞファンタジーのギルド試験だ。危険な魔獣との遭遇時の対処法。

 RPG鉄人の知識がようやく火を噴く時が来た。

 ――いや、待て。「マッチョベアー」って何だ? ただのベアーじゃなくて、マッチョ? 

 不穏な名前に首を傾げつつ、選択肢に目を落とす。


1.生卵を食べる

2.背中を向けて逃げる

3.そばを通り過ぎる際にあいさつをしない

4.ポージングの邪魔をする


「意味わからねぇぇぇええええ!!!???」


 俺の感動を返せ。

 野生動物の対処法として「背中を向けて逃げる」がダメなのは前世の知識でも分かる。

 だが、他の選択肢の治安が狂いすぎている。



 生卵を食べる? なぜクマの前でロッ〇ーの真似をしなきゃいけないんだ。

 あいさつをしない? マッチョベアーは礼儀にうるさい頑固親父なのか?

 そして極めつけは『ポージングの邪魔をする』。なんだそれは。

 遭遇した瞬間、そいつは森の中でキレッキレのサイドチェストでも決めてるのか?

 それを「ナイスバルク!」とか言って褒め称えないと惨殺されるのか!?


 世界観のクセが強すぎる。

 完全に脳のキャパシティを超えた俺は、ブルブルと震える手で、最もこの異世界の「ヤバさ」を象徴していそうな選択肢に丸をつけた。


「……4番。4番だよ畜生! 邪魔しちゃダメなんだろ、ポージング!!」


 神様。俺の『漢検3級』、マッチョベアーのバルクを審査する時に使えたりしますかね……?


【問50】

「熱中」とよく似た意味の単語は何か。


 1.没頭 2.熱塊 3.辛酸


「……何で、ここで急に『ガチの漢検』の問題が出てくるんだよ!!?」


 思わず三度目の絶叫が喉まで出かかった。

 おい待て。これ、俺がスキル欄に書いたから急遽追加されたのか?

 それとも、この世界の文字の試験が、神様の言語理解チートの翻訳バグで勝手にこう変換されているだけなのか?

 いや、深く考えるのはやめよう。役に立っているのか立っていないのかすら分からんが、今の俺には分かる。

 熱中と似た意味は、間違いなく『1.没頭』だ!


 こうして、精神的な大ダメージを負いながら、俺は全50問の過酷な試験を終えた。



 採点を待つ間、俺は半ば絶望に震えていた。

 だが、答案用紙をチェックしていた受付嬢の表情が、途中でガタッと変わる。

 その目は、驚愕のあまり大きく見開かれていた。


(……キタ、これ。まさか、奇跡の全問正解!? 『10年に1度の天才が現れた……!』とか言って、ギルドマスターが奥から出てくるパターンのやつか!?)


「合計30点。おめでとうございます、ギリギリ合格です」


「ギリッギリだったんかい!!!」


 合格ラインの低さにも、自分の点数の低さにもツッコミが追いつかない。


「特に最後の問題(問50)、これ特殊な古典文字の知識がないと解けない難問だったんですけど、よく分かりましたね。これが解けてなかったら不合格でしたよ。危なかったですね」


 受付嬢が、少しだけ見直したような目で俺を見る。

 ……マジかよ。何はともあれ、役に立ったよ、漢検3級!! ありがとう日本漢字能力検定協会!!


 何はともあれ、これで俺の冒険者ライフは遂に始まった。

 住所不定無職からの大逆転、ここから俺の無双&ハーレムルートが爆発するんだぁぁぁあああ!!!



(数年後)


「はい、釈放ね。カッペイ君さぁ……ホント、いい加減に気を付けてくださいよ?」


 ガチャリと重々しい鉄格子が開く。

 兵士に促されてトボトボと牢屋から出る俺を、呆れ顔の受付嬢――今や俺の専属受付嬢であり、恋人でもあるカナメが迎えに来ていた。


「本当にあんたって人は……。低層階のダンジョンに置いてあるツボやタルは、普通に近隣住民の『所有物(私財)』のことがあるから勝手に割るなって、新人用の手引きに太字で書いてあったでしょ!?」

「いや、だって……あの中にポーションとか金貨が入ってると思うじゃん。そのページは読んでなかったんだよ……」

「言い訳しない! 本当に世話が焼けるんだから」


 ハァ、と深いお説教混じりのため息をついたカナメだが、すぐに表情を和らげて俺の腕に自分の腕を絡めてきた。


「とりあえず、お腹空いたでしょ? お昼は『スペーンフオムレツ』でいい?」

「……あぁ、喜んで。カナメの作ったやつが一番美味いし」

「ふふ、ならよろしい。……あ、それとね? そろそろ実家の親に紹介したいから、あんまり頻繁に捕まるようなことはしないでよね? お父さん、ああ見えて結構お堅いんだから」

「ぜ、善処します……」


 現代知識での無双? そんなもの、コンプライアンスの塊みたいなこの異世界では一瞬で前科がつくだけだ。

 でも、俺の手には、あの冷徹だった受付嬢の温かい手のぬくもりがある。


 漢検3級から始まった、俺の「ちょい待て」だらけの異世界ライフ。

 波乱万丈な俺の明日は――一体どっちへ行くんだろう。

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