「スネークでいい」
「さあ、バトルだよん!」
ちゅらさんは掛け声と共に走り出した! ……杉浦とは反対の方向に。
「えええええぇぇぇぇぇェェェェェ!?」
「っ!?」
この行動には流石の杉浦も驚いたようです。
「うっしゃおらあああああぁぁぁぁぁ……」
ちゅらさん、声が小さくなるにつれ、そのピンク色のシルエットは見えなくなってしまいました。
「…………」
「…………」
「……まさかあのピンク野郎、逃げ出した?」
「……たぶんね」
「…………」
「…………」
「……ぐすっ」
「……泣くなよ、槇原としあき」 そりゃあ泣きたくもなりますよ。何ですか? 僕のピンチに颯爽と現れて、「としあき君には指一本触れさせないよん!」だなんて宣言しておいて……。
「……そりゃあまぁね、やっぱりあいつにも事情があったんだよ。どうしてもこの場を離れないといけない理由があったんだよ、たぶん」
慰めてくれてありがとう……って何であんたそんなに優しいんですか? さっきまで僕の命を狙ってたくせに。
「それじゃあさ、死のうか槇原としあき。……仲間に裏切られて悲しいとは思うけどさ、これが私の仕事なの」
「…………」
僕が黙って下を向いていると、杉浦はため息を一つ、アイスピックを振り上げました。
「何か後味悪いけど、さ〜よ〜な……ん?」
突然、杉浦がアイスピックの動きを止めました。
「なあ槇原としあき。何か聞こえないか?」
あれ……ホントだ? これは……声?
「……ぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああアアアアアアアアア!」
声はこちらに近づいています! ああ、あの目に悪いピンク色のシルエットは!
「ちゅらさんんんんんん!」
「なにっ?」
「とうっ」と言う景気のいい掛け声と共にちゅらさんは空高く舞い上がりました。
「くらえっ! ちゅらさんキィィィィィッッックッ!」
鬼のようなスピードで降ってきたちゅらさんによって、目の前にいた杉浦が校舎まで蹴り飛ばされます。その距離、実に三十メートル。
「どうだー!」
「助かったぜちゅら……もしかしてさっき走り出したのは女装をつけるため……?」
「そうだよん、ちゅらさんキックは助走する距離が長ければ長いほど威力が増す必殺技なのさ。あと漢字間違ってるからね、私女装しなくてもちゃんと女だからね」
そうだったんですか。てっきり僕を置き去りにして逃げ出しちゃったのかと思いましたよ! ……とは言いません。へそ曲げられて帰られると困るので。
「必殺技の解説はこれくらいにしておいて、おーいパラサイトドリーマー略してぱらどりー!」
「ちゅら! 何で敵にわざわざ声をかけてるんだ? せっかく倒したんだから今のうちに縛り上げるとかさ」
そう言って杉浦が飛ばされていった方へ走り出そうとした僕を、ちゅらさんが手で制します。
「何するんだよ!」
「としあき君、まさか君はこれで彼女を無力化出来たと思っているの?」
「そりゃあそうさ、だってあんなすごい早さでコンクリで出来た校舎に叩きつけられたんだぜ? いくら未来から暗殺者だって……」
「危ないよっ!」
ちゅらさんは僕をお姫様だっこで抱えると、ジャンプして校舎の屋上まで登りました。
……おおすごい。空中でもう一回跳ねた。
屋上に降り立つと、ちゅらさんは僕を下ろし下を見るように指示しました。何があるって言うんでしょうか。て言うかちゅらさん凄いです。二段ジャンプって……。
「あれが……パラサイトドリーマーの力だよ」
そう言ってちゅらさんが指さす先には、大きな花が咲いていたのです。あっ、さっきまで僕たちが立っていた場所だ。
「何じゃありゃ」
「とっしー、あれ全部アイスピックだよ」
「はぁ? 何言ってるんだよ、アイスピックであんなもん作れるはずが……ってマジだ」
よーく目を凝らして見ると、確かにあの巨大な花は全てアイスピックで重なり合って出来たものでした。
「まさかあれって……」
「とっしーの予想通り、あのパラサイトドリーマーが作ったものだよ」
「……ありえないだろ? あんなもんを作り出すなんて人間には不可能だ」
「今更気づいたの? パラサイトドリーマーは人間じゃないよん」
「……じゃあ一体何なんだよ」
「昨日、としあき君は未来の世界で人間でありながら人間を創った……って話をしたよね」
「したよ、でもそれがどう関係して……まさかな」
「そのまさかだよ。君が創り出したんだよ、パラサイトドリーマーは」
「…………」
「まっ、詳しい話はまたあとで。今は目の前の敵に集中集中!」
そう言ってちゅらさんは自分の服に手を突っ込み、中から小さな蛇と猫を取り出した。……あっ、ハブラレルヤ君。
「とりあえずとっしーは傷の手当てを」と、ハブラレルヤ君をこっちに投げてよこし、自分はもう一匹取り出した猫を肩に乗せ、屋上のドアと向かい合う。
「なぁちゅら、その猫は?」
「イリオモテヤマネコのイリーだよ」
「……未来の世界では絶滅危惧種の動物をペットにしていいのか?」
「……ば、バレなきゃいいんだよバレなきゃ」
「犯罪者め……」
僕とちゅらさんがくだらないやりとりをしている間に、杉浦は確実に近付いてきています。
えっ? 何でそんな事がわかるのかって? それは……。
「坊主、お嬢。敵さんは今この校舎の二階いる。おそらくあと三分もしないうちにここへ来るぜ」
「ありがとう、レルヤー」
「……スネークでいい」
はい。ハブラレルヤ君が喋り出しました。
何でもハブラレルヤ君は自分が認めた相手とだけ会話が出来るらしいのです。……何このいらない新設定。
「よし、応急処置だが、これである程度は動き回れるだろう」
そう言ってハブラレルヤ君は僕の胸にたてていた歯を抜き取り、ちゅらさんの四次元ブラジャーの中に戻ろうとします。
とりあえずお礼を言っておかないと駄目ですよね。喋れるようになったんだし。
「あの……ハブラレルヤ君、ありがとう」
「スネークでいい」
……何この蛇。BIG BOSS気取りですか。てかお前正確にはハブですから。蛇じゃないですから。
何となくハブラレルヤ君とは喋れるようになって少し損をしたような気がします。
「スネークでいい」
僕の心の中の言葉に反応しないで下さい。
さて、あと三分もしないうちに杉浦はここにやって来ます。
いくら未来から来たとはいえ、女の子に守ってもらうなんて情けない話しです。がしかし、頼れるのはあなただけ。よろしくお願いしますよ、ちゅらさん。




