悪☆おねいさん(ダーク☆おねいさん)
はい。治りました。
謎の医療系毒蛇『ハブラレルヤ君』の「かみつく こうげき」により、僕の包丁による刺し傷とやらはきれいさっぱりなくなりました。
ハブラレルヤ君。君、気持ち悪いけどなかなかやるね。
しゅー。
僕と毒蛇の間に、ヌメヌメした友情が誕生した瞬間である。
「おー、治ってるじゃん」
ピンクちゃん(仮)が現れました。その手にはコンビニの袋が握られていました。中身はなんだろうね。
「何買ってきたんだ?」
「あぁこれ? 今日の晩御飯だよん」
なるほど晩御飯ね。
言われてみれば窓から見える空も茜色に染まっているし、部屋の中も薄暗い。僕のお腹も空いてるしナイスタイミング、ピンクちゃん(仮)!
……って、なんで晩御飯買ってきてるのピンクちゃん(仮)。ここは寮だからご飯は住み込みで働いているオバチャンが作ってくれるんだよ?
「いやぁそれは君達寮生の分だけでしょ? そこに私の分のご飯は置いてないはずだよぉ」
それに、と付け足しピンクちゃん(仮)はコンビニの袋を机の上に置きました。
……数学の教科書の上に置かれると、あまりいい気はしないなぁ。
「私がとしあき君の部屋にいることがみんなにバレたら面倒だよねん?」
「……確かにそうだな」
僕が在籍中の『南極高校』には二つの寮があり、男女それぞれが別の寮に住んでいます。基本的に自分が住んでいない方の寮への立ち入りは禁止されています。不純異性交遊とかあったらいけないですからね。
玄関にいるだけで大目玉なのに、男子の部屋から女子が出てきた日にはもう……。
「退学になるよなぁ……」
僕は去年にも先生達が度肝を抜かす、とんでもない悪事を働いてしまっているので、もう後がないのです。あうあぅ。
「まぁそんな訳で、とりあえず買ってきたご飯食べようよっ!」
どうぞどうぞ、ご自由に。
「あれぇ? としあき君は食べないの。せっかくとしあき君の分も買ってきたのに」
なんで僕の分も買ってくるんですか。寮のご飯があるって言ったじゃん。
「だってとしあき君、食べないもんね。寮のご飯」
そう言うとピンクちゃん(仮)は袋の中から弁当を取り出し、ケースを取り始めました。
「おっ、このっ、このこの! ……なかなか取れないなぁこのテープ」
「……なんで俺が寮の飯食わないこと知ってんだよ」
僕はピンクちゃん(仮)にそう尋ねました。だっておかしいでしょう。どうして僕が寮のご飯を食べていないことを知っているのでしょうか。
「あっ、こうやったら外れるのか。それじゃ、いただきまーす」
無視しないで僕の質問に答えてくださいよ。
「んー? なんで私がとっしーが拒食症だってことを知ってるかってぇ?」
いや、拒食症じゃないです僕。変な設定つけないでください。
「それはね……」
ゴクリ。僕は生唾を飲み込みます。まるで本やテレビの中の世界の主人公になった気分です。
さぁ、早く言ってください。僕の心の準備はとっくに出来ています。
「私、未来から来たんだっ」
……未来、みらい、さらい、サライ、24時間テレビ、夏、祭り、盆踊り、お墓参り、霊、お化け、礼子、才谷、綾子……。
「あぁ相馬探偵事務所の方から来たのか」
「今なんて言った!? たんてぇ!? 空耳ってレベルじゃないよっ!?」
このリアクションを見るに、さっきのピンクちゃん(仮)の言ったことは冗談じゃないみたいですね。
……未来か。
「……ちょっとちょっと、なに『はぁ、この子頭がかわいそうな子だ。俺がしっかり守ってやらないとな……』みたいな目してるのっ! 私は至ってノーマルだよ! 頭が残念な子じゃないよっ!」
「自覚が無いのか……かわいそうに」
「やめれー! 私をそんな目で見るのやめれー!」
どうやら僕はとんでもないものを自宅に呼び寄せてしまったのかもしれません。こういう場合はどの番号にかければよいのでしょうか。やはり110番通報が妥当でしょうか。
「……どうしても信じてもらえないみたいだね」
だって信じようが無いんですもん。
「……としあき君が寮のご飯を食べない理由」
「なんだよ急に」
「……これを聞いたら私の言うことを信じてくれる?」
「……言ってみろよ」
僕はピンクちゃん(仮)の提案に乗ってみることにしました。何故なら僕が食べない理由を知っているのは、僕を除いて二人しかいません。ピンクちゃん(仮)にわかるはずがないのです。
「君は見てしまったんだよね」
…………。
「寮のオバチャン……いやあの時は綺麗なお姉さんさんだったよね? 彼女が、みんなのスープの中にむ」
「わかった! あんたの言うことを信じる。だからその先は言うな!」
……何でこの女の子は僕の秘密を知っているんだ?
……そうです。あの日、僕はたまたま夕食の前に、少しだけ厨房を覗き込んだのです。
一ヶ月ほどオバチャンがいない時がありました。聞いた話ですが痔の手術を受けていたそうです。
オバチャンがいない間、その代わりとして、まだ二十代前半の綺麗なお姉さんが朝食と夕食を作ってくれるということになりました。
色気の欠片も無いオバチャンに飽き飽きしていた男子は、そのお姉さんに心を奪われました。
ある者は花束を贈り、ある者はデートのお誘いをし、ある者は告白までしました。
僕には好きな人がいます。しかしそれでも僕はそのお姉さんの魅力に取り憑かれてしまいました。
あの日僕は、他の男子と同じ様にお姉さんに気に入られようと、食事を作るのを手伝うことにしました。 そして厨房に入り、見てしまいました。
お姉さんが今まで見たことのない歪んだ笑みを浮かべ、僕達の夕食のスープの中に……その、毒々しい色をした、その、虫の……幼虫を入れている姿を……。
僕は最初、お姉さんが何をしているのか分かりませんでした。
……でもすぐに分かりました。
そのスープを飲んだ寮生が食中毒を起こし、大変な事になったからです。ちなみに僕はその日ご飯は食べませんでした。……いや、食べられませんでした。
お姉さんは警察に連れて行かれました。愉快犯だったそうで、この学校に来たのも、大きな事件を起こしたかっただけだったそうです。 それから僕は寮で出されるご飯が食べられなくなり、いつも友人の家でご馳走になるか、外食をするようになりました。
……今でもお姉さんのあの歪んだ顔を思い出すと震えが止まりません。
「これで私が未来から来たって話、信じてくれるぅ?」
どうやらピンクちゃん(仮)の言っている事は本当ようです。
「……ああ、信じるさ」
「それはよかった! それでは私がこの時代に来た理由と目的を……」
ちょっと待ってくれ。
僕はまだ君の名前を知らない。教えてくださいな。
「あれ? 私まだ名乗っていなかったっけ?」
うん。
「そうでしたか」
ピンクちゃん(仮)は姿勢を正すと、僕に正面に向きかえり言った。
「皇 ちゅら⑰歳。未来のあなたに頼まれて、助けに来ましたこの時代。いろいろ不便はありますが、どうぞよろしくお願いします」
……なんか変なリズムをとりながら説明されたよ僕。なんで自己紹介にところどころ「チェケラッチョ!」って入るんだよ。
不安だ。
「……とりあえずよろしくな、ちゅら」
「こちらこそ、トッシー!」




