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ゆいこのトライアングルレッスンM〜タクミの決意〜

掲載日:2026/02/22

「体験入学?」

「そ。今日の中学生クラスにオレの従兄弟が参加するんだと」

 従姉妹のカナから連絡があったのは昨夜のことだった。

 オレのバイト先の塾に弟の『むっくん』ことムサシが体験入学するからよろしく、と言われた。ついでに、塾が終ったら自宅まで送り届けるように、との指示付きで。

 年下の従兄弟の面倒を見るくらいならば大したことはない。

 問題なのは体験授業の担当がオレということだった。

 生徒たちの前で「先生」を演じるオレを親戚に見られるとか、憂鬱でしかない。

 そんなわけで、塾へ向かうオレの足取りはいつもよりかなり重かった。

「あーもー!あいつの前で授業するとか、最悪。まるで父兄参観じゃないか」

 ヒロシがポンポンとオレの背中を叩く。

「もしも入塾したらお前の受け持ちになるかもしれないんだろ?まぁ頑張れよ」



 塾の近くの交差点に、ユイコが一人立っていた。

「ヒロシ、タクミ!会えてよかった~。…はい、これ!」

 手には小さな紙袋が2つ。

 ヒロシと1つずつ受け取り、中を見ると丁寧にラッピングされたチョコが入っていた。

「今日バレンタインでしょ?塾生の女子達より先に渡したくて待ってたんだ」

「サンキュー!おおっ、手作りじゃん!」

 ユイコのチョコのお陰で、憂鬱な気分が一瞬で吹き飛んだ。

 すぐに開けて食べたかったが、我慢我慢。家でゆっくり味わおう。

「ありがとう、ゆいこ。…寒かっただろ?これやるから持ってろ」

 ヒロシはポケットに入れていたカイロをユイコに手渡した。

 こういう気配りが出来るから奴はもてるのだろうな。

「あったか~い!ヒロシ、ありがとう!」

 長いこと外で待っていたのだろう。ユイコの鼻の頭は赤くなっていた。

「あ、そうだ!ねえねえタクミ、今日むっくんが体験入学に来るんだって?」

「…なんでお前がそれを知ってんだよ」

「カナちゃんから聞いた」

 オレに電話をした後、ユイコにまで連絡していたらしい。

 この間のライブ以降、頻繁に連絡をとっているのだそうだ。

「余計なことを…」

「中学生クラスだから授業が早く終わっちゃって会えないのが残念。よろしく伝えておいてね~」

 そう言うとユイコは塾へ入っていった。

 せっかくユイコからチョコをもらい気分が上がっていたのだが、現実に引き戻されたオレが頭を抱えていると、ヒロシがポツリと言った。

「まぁ…頑張れ」


 バイトが終わり出入り口に向かうと、ムサシが待っていた。

「おう、待たせたな。じゃあ、帰るか」

「あれ?ユイコねえちゃんは?」

「ユイコ?あいつは高校生クラスだから、まだ授業中だ」

「ふーん」

「さっさと帰るぞ」

「…待つ」

「は?誰を?」

「ユイコねえちゃん」

「何言ってんだ。カナが心配するだろうが」

「ねえちゃんには連絡した。だから、大丈夫」

 頑として譲らないムサシ。まさか、こいつ…

「なんだよ、お前。ユイコのこと好きになったのか?」

「!」

 ムサシが赤くなった。

「そ、そんなことない!ただ、挨拶したいだけ」

 なんか、もやもやする。

 ユイコに会わせたくなくて何度も帰るように言ったが、こいつはてこでも動かなかった。

 そうこうしているうちにヒロシがやってきた。

「お疲れ。タクミ、先に帰ったんじゃなかったのか?」

「おう、ヒロシ。…いや、こいつがユイコを待つって聞かなくてさ~」

「…はじめまして、従兄弟のムサシです。ヒロシ先生、ですよね?」

(オレには『先生』と言わないくせに…)

「中学生なんだから、早く帰れよ。カナが心配するだろうが。送っていくって言ってんだろ」

 その時だった。

「……あれ?むっくん?」

 目の前にユイコがいた。

 ムサシと言い合っているうちに高校生クラスの授業が終わってしまったようだ。

 ユイコが嬉しそうに駆け寄ってくる。

「うわあ~久しぶり!こんな時間までどうしたの?もしかしてタクミ達と待っててくれたの?」

「べ、別に待っていたってわけじゃ…」

「元気そうで何より!ここの塾生になるのかな?そうしたらまた会えるね」

 真っ赤になりながらぶっきらぼうに答えるムサシ。

(こいつやっぱりユイコに気があるんじゃないか)

「もういいだろ。さっさと帰るぞ」

 奴の首に腕を回してユイコと引き離した瞬間、カバンの隙間から小さな紙袋が落ちた。

 ムサシが拾ってオレに渡す。

「ほら、チョコ落とすなよ。…あれ?これ、ユイコ姉ちゃんの?」

 中に入ったカードにはユイコの名前。それを見たムサシの顔色が変わった。

「ふふん。そうさ、ユイコがオレのために作ったチョコだよ」

 我ながら大人げないと思いつつも、これ見よがしに紙袋を見せつける。

「……」

 ムサシの表情が陰った。

「あ、あのね、むっくんのは…」

 慌てるユイコの後ろでヒロシが何かを渡した。

「も、もちろん、むっくんのチョコもあるよ!はい!受け取ってくれると嬉しいな」

 それはヒロシがもらった紙袋だった。

 ムサシの顔がほころぶ。

「あ…ありがと!ユイコねえちゃん!!」

 紙袋を片手に満面の笑みを浮かべたムサシがオレの顔を見上げる。

(ヒロシのやつ…)

「ほら、もういいだろ。帰るぞ!」

「ユイコねえちゃん、ヒロシ先生、さようなら」

「むっくん、ばいば~い!」

「気をつけて帰れよ」

「じゃ、オレはこいつを送っていくから。またな」

 ユイコとヒロシ。二人並んで手を振る姿がなんだか切なくて、オレは目をそらした。



 帰り道。

 大事そうに紙袋を抱えるムサシにオレは言った。

「お前もユイコのことが好きなんだな」

「……」

(無言かよ)

 ため息をつくと、夜空に白い息が舞い上がった。

「絶対に負けないからな、お前にも、あいつにも」

「ゆいこのトライアングルレッスンM」に投稿した作品です。

特別企画の「むっくん回」なのに、ひろし推しの私にはむっくんメインの話が書けませんでした…


残念ながら不採用でしたので、こちらで供養します。

楽しんでいただけたら幸いです。

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― 新着の感想 ―
同じシチュエーションでのたくみ視点が読めて、嬉しいです。 ひろし視点を知ってるからこそ、ラストのたくみが、セツナイです。
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