流行と無神経
温かいスープをさっと四人分よそった。
まずはルナに手渡す。
「体の中から温まったら、先に風呂に行かないか? 旅の汚れを落としてから、ゆっくり食事してさ」
このままだと、ルナと俺のベッドがちょっと汚れるかなと。細かくてごめんだけど。
「お風呂は一階にあるから、階段を降りてあの人たちに見つかるのは嫌だわ」
フォンが嫌そうに言う。
「そう言われて見れば、そうか」
風呂上がりの状態を見られるのも嫌だよな。
「寝るときはあたいとフォンのベッドをくっつけて、そこで四人で寝ればいいにゃ」
サァラが「わかってるって」という顔でニヤけた。
フォンが「どういうこと?」とサァラを見る。
「トーマは意外と潔癖症にゃん。ベッドが汚れるの、嫌なんだよね?」
怪我が治るまで一緒に生活していたから、サァラにはいろいろバレてるんだ。
昔から「男のくせに細かい」って言われてきたから、できるだけ隠そうと思ってるんだけど。
「ズズッ。あたしは気にしないから、こっちに移動する?」
「ルナ、目を擦ったら駄目よ」
「だから、四人で寝ればいいって言ってるん」
……カオスだ。みんな好き勝手にしゃべってる。
「トーマは毎日お風呂に入る生活をしてきたでしょ? そうじゃないあたいから見たら潔癖症に見えるよ。
けど、風呂に入るのが嫌いって人を見ると嫌悪感が湧く。臭くて迷惑だしね。
どっちも『あたい基準』で、上か下かって話にゃ」
ん? 何の話だ?
「だから、トーマのきれい好きは『男だから変』とかそういう話じゃないん」
「そうね。私たちが『女だから』と言われて嫌なように、『男だから』と言わないよう気をつけるわね」
あ、俺も気を使われてるのか。
「もう何日も野宿してるんだから、気にしないようにすればできるよ」
はは、と軽く笑う。
「元、宿屋の従業員としては、『疲れ果てても風呂に行ってくれ』って思うけど」
シーツの洗濯が大変なんだ。
「ん~。『他の客から嫌な思いをさせられたから仕方ない』って……相殺してくれないかな?」
ルナが下手くそな笑顔を作る。
「それもそうか」
それとこれとは話が別だろうとか、野暮なことは言わない。仲間の笑顔が戻ったことを、大切にしよう。
宿から差し入れてもらった酒を飲む。少し濁った酒精の強いやつだ。
「服飾の流行って、そんなに気にしないでいいと思うぞ」
ほろ酔いでルナに話しかける。
「あれってさ、商業ギルドと職人ギルドで話し合って、流行させたい色とかデザインとか決めてるんだぜ」
ホテルでその会合が開かれていて、料理や飲み物を運んだときにちらっと耳に入ってしまった。
討伐依頼に出ている間は酒を控えるから、久しぶりにふわふわして気が緩んでいた。
前職とはいえ、仕事中に知ったことだから口外しちゃいけなかったかも。
「そんで、売れるはずの物を用意して、『さあお買い上げください』ってやってんの。
自然発生的な流行なら、ぬいぐるみみたいに大騒ぎになるだろ」
「にゃるほど」
サァラの尻尾がゆらゆら揺れてる。
「そうじゃない場合、誰かが仕掛けてるって考えた方がいいな。
想定内の盛り上がりだから、騒ぎにならないんだ」
ルナを見ると、納得してくれたのか表情が明るくなった。
よかった。
――そう、ここでやめておけばよかったのだ。
「流行を追うのは、似合うかどうかよりも『流行に敏感な私』っていう自己満足でさ」
一番オシャレに金をかけているフォンの顔が、すんと無表情になった。
あ、やべ。俺もあいつらと同類って思われたか。




