職人街の宿
俺たちは、冒険者ギルドのギルドマスターに押さえてもらった宿に向かった。
そこは職人ギルドの客にもよく紹介される、信用できる宿だそうだ。
先ほど日の入りの鐘が鳴った。街は家路を急ぐ職人や酒場に向かう職人で、落ち着いた賑わいを見せていた。
「へぇ、冒険者街とは雰囲気が違うね」
ルナが目線だけで周囲を観察する。顔ごと動かしてキョロキョロするのは、部外者だと宣伝するようなものだ。
「あはは、冒険者街だとこの時間には酔っ払いが管を巻いてるからな」
この国の職人街には初めて来たが、どこの職人たちも似た雰囲気を持っている。
明日も生きているかわからない冒険者に比べて、堅実な生活をしていると思う。
この落ち着いた雰囲気が、俺は好きだ。
「あの看板にゃ」
サァラがいち早く宿屋の看板を見つけた。
木造の、どこか懐かしい感じのする宿だ。
昔働いていた山猫亭を思い出す。
「ああ、あんたたちが冒険者ギルドの紹介ね」
恰幅のいいおかみさんが、カウンターで顔を上げて俺たちを見た。
「お世話になります」
ルナが代表して挨拶する。
「よくお越しくださいました」
おかみさんはにかっと笑うと、ルナに宿帳に記入するよう促した。
「あ~、何泊する?」
ルナは振り返って、俺たちに尋ねた。
「今後の予定は、立てづらいわよね。明日、いい依頼が出ていたら遠征するかもしれないし……」
フォンが顎に手を当てながら、返答した。
それに気付いたおかみさんが明るく笑い飛ばす。
「ああ、なら空白で良いよ。職人は技術交流で長期滞在が決まってることがあるからさ」
そして、ちゃらっと音を立ててカウンターに鍵を二つ置いた。
ルナが一つ取り、もう一つを俺が取る。
宿屋の息子さんが部屋に案内してくれた。
まずは、ベッドが四つある部屋だ。
ホテルのでかいベッドが一つある部屋より、こっちの方が落ち着くよな。
この後三人で、誰がどのベッドにするか、わちゃわちゃしながら決めるんだろう。
微笑ましく思いながら、俺は息子さんと部屋を出た。
「……何か他にご用がありますか?」
息子さんは一瞬怪訝な顔をしたが、すぐに客向けの笑顔を作った。
「え? 俺の部屋はどこですか?」
俺は鍵を見せながら訊く。
「四人部屋なので、別行動する場合に備えて鍵を二つお渡ししていますが」
「え、四人部屋?」
「はい。そう承っておりますが」
ギルドマスターか!
「ど~したの?」
サァラが顔を出した。
木造だから、扉を挟んでも声が聞こえてしまうんだな。
「男部屋と女部屋に分かれるつもりだったんだけど、四人部屋だって……」
「ああ。じゃあ、ベッドはどこがいい? まだ決まってないから、早く参戦するにゃ」
サァラに手を引っ張られた。
思わずよろけたのは背中の荷物が重いからか、倫理観がどうなってるんだと目眩がしたからか……。




