私は悪くない side弓使いのセリア
ああ、腹が立つわ。
あのトーマというガキは、疫病神だった。
私はエルフの里で生まれた。
セリウィエラナ、光り輝く娘と名付けられた。
エルフは他の者たちと違い、貴族階級などはない。村長と相談役がいるくらいだ。
そんな中で、私は村長の娘として育った。
それは、もう、特別な女の子でしょう?
村で一番人気の男の子と結ばれるのが当然でしょ。
いつも声をかけてあげたし、荷物を持つ栄誉を与えた。信頼の証よ、感謝なさい。
それなのに、あんな平凡な女を選ぶなんて。
信じられない。彼は間違ってる。
問い詰めたら、「お前なんかを好きだったことは、一度もない。友達と遊ぶのも邪魔しやがって。金輪際、俺に近づくな。彼女に手を出したら殺してやるからな」なんて言うのよ?
ひどい。あり得ないわ。
お父様に彼の目を覚まさせてあげて、と訴えたの。
このまま結婚するなんて駄目よ。村の真ん中の世界樹に誓うなんて、許せない。
お父様は、私をゴミを見るような目で蔑んだ。
「ああ。彼からの訴えは本当だったのだな。つきまとい、奴隷のようにこき使ったと」
お母様は私をぶった。
「何を勘違いしているの!
村長というのは、世界樹様のお世話を一番上手にできる人が務めるのよ。
その娘というだけで、あなた自身はちっとも偉くないのよ」
お父様の手伝いに駆け回り、身だしなみも適当なお母様。その分、私が着飾って、村長一家らしくしてあげているんじゃない。
「そもそも前の村長が事故で亡くなって、その補佐をしていた私が村長になっただけだ。
力不足だから、寝る間も惜しんでお世話しなくちゃいけない。そのせいで、お前に構ってやれなかったのは悪かったと思うが……」
お父様は頭をかかえた。
「なによ。村長になれたのは私のおかげじゃない」
あまりにも悔しくて、つい口を滑らせた。
両親からは表情が抜け落ちた。
「今、なんと言った?」
それから、私は縛られて、家の倉庫に監禁された。
そして、彼の結婚式の日。
私は見張りをしている弟に、縄を解かせた。
反省している、遠目で見たら諦められそうと言って。
世界樹は強くて美しい。
普通に火をつけても、燃えることはない。
切ることは禁忌で、落ちた枝を大切に使う。
みんなの、特別な、宝物。
だから、穢れたものは近付けさせない。
それも、村長の役目の一つ。
ねぇ、幸せの絶好調にいるんでしょ。
私にひどい言葉を投げつけて、いい気なものね。
愛を世界樹に誓って、その瞬間に枯れたらどう思う?
私が味わわされた絶望の、一欠片くらいは感じるべきじゃない?
例えば、姉に裏切られた弟の血を染みこませた矢が、世界樹のてっぺんをかすめたりしてね。
下の幹は太くて堅いけれど、枝先はまだ柔らかいはず。
さあ、とくとご覧あれ。
私は矢が届く、限界の距離から射た。
続けて、白い衣裳の二人に矢を放つ。
ああ、じわじわと赤いシミが広がっていく。紅に染まっていくのはキレイね。
阿鼻叫喚の結婚式をじっくり見ていたかったけれど、急いで逃げた。
高笑いしたいのも堪えた。
ふう。なんて理性的な私。正義の一矢だもの……。
世間知らずだった私は、あっという間に奴隷商に捕まった。
気持ち悪いジジイに買われたり、呪術師に髪を切られたり、辛酸をなめたわ。
長年かけて、「ハーフエルフ」と言えば狙われないことに気付いた。
冒険者として十年ごとに拠点を変え、エレッサの街に辿り着いた。
火魔法を使える女の子とペアを組んだ。
次に、いきがっている二人組の青年を見つけ、パーティーを結成。
リーダーを買って出たガルドが、面倒なことを押しつけられるヤツに声をかけようと言い出した。
確かに、ギルドとのやり取りや細々とした面倒くさいことは多い。
だけど、この時に断っていればよかったと、つくづく思う。
トーマは弱っちいのに、ワイバーン討伐の裏方で活躍したとかで注目されているし。
私はCランクだから討伐招集を受けたけれど、怪我をしていると言って断ったわ。
戦いに集中できる日々は予想以上に快適で、気が緩んだ。
破竹の勢いのパーティーがいると、ギルドニュースの取材まで来てしまった。
多少不便になってもトーマを排除しなければ。
トーマがいなくなってせいせいしたと思ったのに、予想以上にパーティーはガタガタになった。
ブルーノはモンスターによって盾の持ち手を換えないせいで、動きに精彩を欠いた。
ガルドは致命傷を与える場所がわからず、高額な素材を駄目にすることが増えた。
ヴェリーはただ攻撃をするだけで、安全対策を怠っている。
せっかくCランクに上がったのに、あっという間にDランクに落ちた。
なんと、私も道連れにDランク落ち。
ついに、ファイアーボールをブルーノにぶつけてしまう事故が起きた。
しばらく、まともに依頼を受けられない。
そして、実力を疑われてEランクまで落とされた。
下手に注目を集めていたせいで、いつもよくしてくれるギルド職員も手心を加えられないと言う。
そろそろ、こいつらを見捨てて次の街に行くかと検討していたら、いきなり捕まった。
トーマが生きていたのか。悪運の強い奴め。
二百年以上前の黒歴史まで持ち出された。エルフのくせに執念深いな。
エレッサの冒険者ギルドの牢屋から、領主様の牢屋に移された。
更に目隠しをされて運ばれたので、私は自分が今どこにいるのかわからない。
でも、揃いの制服やキビキビとした所作から、すごいところに来たのはわかる。色仕掛けも全部スルーされている。仮病も通じない。
今、私の右手には拷問用の器具がつけられている。
素直に答えないとギリギリと締め付けられる。やめてよ。弓が引けなくなっちゃうでしょ。
私が渡り歩いた中に、いくつか犯罪組織があったので、それも吐けってことらしい。なに便乗してんのよ。そういうの、許されるわけ?
やめろっつってんだろうが! 痛ててててて……ひぃ! やめて、許して、ごめんなさい!




