異分子
フォンが何かを見て、驚いた顔をした。
足元の荷物を覗き込み、がさがさと何かを探している。
「フォン、どうした?」
ルナが尋ねるが、返事がない。
「何? 言ってくれたら一緒に探すにゃ」
サァラは荷物の脇に座り込み、フォンに顔を近付けた。
「……ない」
フォンは顔を上げ、俺の方を指差した。
「あれ、私の……」
俺? 何?
俺の後ろで、ぷっと吹き出す声が聞こえた。
人の気配を感じていなかったので、ぎょっとして振り返る。
小柄な鼠獣人の子がぬいぐるみを片手に、残りの手を腰に当てて立っていた。
「ふふ~ん、これでしょ」
ワイルドベアの討伐に出る前に絡んできた、彼女だ。
「盗んだのか?」
ルナが半月刀の柄に手をかける。
「気が緩みすぎじゃない? 冒険者として、どうかと思うよ」
ハスキーな声でそう言って、ぽーんと放物線を描くようにぬいぐるみを投げた。
フォンは急いで立ち上がり、ぬいぐるみに手を伸ばす。
そこにその女の子が駆け寄り、フォンの首元に人差し指を添えた。
一瞬の出来事だった。
「ほら、これであんたは死んだよ。指じゃなくて、刃物だったらね」
「な! ふざけんにゃ!」
サァラが毛を逆立てた。
「あんたたち隙だらけ。ぬるい依頼を受けて豪遊して、勘が鈍ってるんじゃない?」
睨まれても怯むことなく、言いたい放題だ。
「あはは。やっぱり、トーマはあたしの元で修行すべき。
ビキニアーマーの修行したあんたなら、学ぶ環境によって伸びが違うってわかるでしょ」
ルナは反論せず、唇を噛みしめた。
「修行すべき」と言われて、一瞬だけ心が揺れる俺。
だが、こんなやり方は違う。一緒に行動したいと思えない。
「人の気持ちを弄ぶようなやり方は、嫌いだ」
「ええ? だってさ、あんなクソみたいな依頼受けてるの、時間の無駄じゃん」
「モンスターを討伐するのは、自分の技を磨くことだけが目的ではないわ。
戦う術を持たない人々を助ける。その代わりに報酬をいただく。
それは無駄なことではない」
フォンが平坦な声で、話す。彼女の安っぽい挑発には乗らないが、怒りが滲み出ている。
「Bランク冒険者ミナス、あなたには心構えの教育が必要なようですね」
冒険者ギルドの職員が俺たちを呼びに来て、この騒ぎを見つけたようだ。
「このトゥルメル支部に来てから日も浅い。ちょうどいいですね。
明日、初級者向けの座学を受けるように」
「ただの職員に命令する権利ないでしょ!」
ミナスはヒステリックな声を上げた。
職員は眼鏡をくいっと上げて、言い放つ。
「私は、この支部で幹部として働いています。
秩序を乱す者に対して指導する権限を持ち、放置することは職務怠慢とされます」
ミナスは職員を睨みつけるが、反論できない様子。
「念のために訊きますが、明日のご予定は?
所属する『迷宮の紅爪』は休止状態ですから、講義を受ける時間はありますよね?」
「受ければいいんでしょ」
「結構。すっぽかしたら更なるペナルティを科しますよ」
厳しい声で鼠獣人に釘を刺す。
「では、『花猫風月』さん。ギルドマスターがお待ちです。行きましょう」
俺たちにはお手本になりそうな笑顔を見せ、次の行動に誘導した。
「ふむ、『花猫風月』。……トーマさんが『花』なんですかね」
廊下を歩きながら、そんなことを言出す。
え……そうか?
文字が誰を指すかを考えたら、確かに……いや、ちょっと待て。平凡な俺が『花』なんて、おかしいだろ。




