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『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第七章 どんな冒険者になりたいか

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平和な日常

「宿が決まるまで、どうしましょう?」

「預けてた荷物を取りに行くか」

 ルナが次の行動を提案した。

 遠征に行く場合、持っていかない物を冒険者ギルドの保管庫で預かってくれる。

 有料だが、遠征に行けるランクなら余裕で払える値段だ。


 保管庫に引き換え札を持って行くと、いつもより監視の人数が多い。

「ぬいぐるみを盗まれないように、ですよ」

 俺たちが荷物を引き取ると聞いて、保管庫の職員はあからさまに安心した顔になった。


「そんなに、ぬいぐるみが人気ですか?」

 うちの女性陣三名は熱狂してるけど、他の人も同じような感じになったのか。


「もう、貴族まで押しかけてきて大変でした。国が希望者を捌いてくれるようになって、少し落ち着きましたがね。

 ここに三体もあると知られたら、いつ襲われるかわからないと心配でしたよ。

 今、一体盗んで闇で売ったら、相当な稼ぎになります。

 順番が貴族の後になる平民の金持ちが、今一番危ないかもしれません。特に、成金は強引ですからね。

 お気をつけて」


 ルナがぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。


「荷物の中にしまって、人に見せない方がいいと思いますよ」

「そんなに……なのね?」

 ルナがしぶしぶ荷物に入れた。


 成金が冒険者を裏で雇って、別の冒険者を襲わせることもありうるのだ。

 Cランクということは、上にBランク以上の冒険者がいる。強さと高潔さは、必ずしも比例しない。



「全部手作りだから番号を振って、盗まれたら誰のものか辿れるようにしておけば……。

 いや、転売じゃなく個人で可愛がるなら、その後市場に出てこないか」

 ふと思いつきを口にした。


「いえ、中古販売やオークションでの不正摘発ができるだけで、助かるぬいぐるみが出ますよ。ギルドマスターに教えてあげてください」


「自分で言えば?」

「アイディアを盗んで手柄にしちゃ、マズいでしょ。

 それに、トーマさんは僕よりもギルドマスターと話す機会が多いんですから」


 一瞬、何を言っているのかと思ったが、保管庫の担当なら問題が起きない限りギルドマスターと接触しないのか。


「まあ、この後も会うけどさ」

「すでに、一職員の僕より会話した回数は多いと思いますよ」

 と真面目に言う。他の職員たちも背後でうなずいていた。


「ため息吐かれて『また、大変なことを持ち込みやがって』って言われるの、地味にへこむんだけど」

「それは、ギルドマスターに限らず、僕らも思ってますね」

「マジか?」

「マジですね。一角ウサギの肉に関しては、美味しい物を教えてくれて感謝してますけど」

 職員に苦笑された。


 なんだか、トラブルメーカーだと言われた気分になった。心外だなぁ。



「そういや、なんでだろうねん。トーマが来てから、話題に事欠かない」

 サァラが小首をかしげる。片手を荷物の中に突っ込んでいるのは、ぬいぐるみをなでているんだろう。


「そういう星回りに生まれたとか?」

 職員が、荷物の引き換え札をまとめながら言った。引き換え札と荷物につけていた札を、セットにして棚に片付けるのだろう。


「占い好きなのん?」

「魔女に恋占いをしてもらうとか、女の子の方が好きじゃないです? デートで彼女に付き合わされたりしますよ」


 さらりとデートの話をされた。幸せそうで、いいな。

 あれ? そういえば、俺、そういう健全なデートしたことないかも。




 荷物を持って、冒険者ギルド内の食堂に移動した。昼と夜の間、客が少なくなる時間帯だ。

 アルコールが入っていない飲み物を注文した。


「三人の中で誰が一番トーマと相性が良いか、占ってもらわない?」

 ルナが突然言い出した。


 ぶふぉっと吹き出してしまった。

 そういうハーレム発言は、どうかと思いますが。なんか、聞き耳立てられてる気配がする。


「ルナって、占いとか好きなのん?」

 サァラはミルクティーにフウフウ息を吹きかけて、冷ましながら不思議そうな顔をする。


 この三人の間では、今までそういう話題が出たことないのか?


「恋占いとか、相手がいないとできないじゃん。姉さんたちがきゃっきゃしてるの、羨ましかったんだよ」

「ルナは兄弟が多いのか?」

 そういえば、家族の話とかあんまり聞いたことないな。俺も自分の家族の話をしたくないから、振らないし。


「違うよ。ビキニアーマーの弟子たち」

「そんな集団があるのか?」

「この間、師匠と会ったじゃん。師匠が道場を持ってるんだよ」

 はわわわ。ビキニアーマーって、そういう流派みたいなものなの?


 背後で、冒険者がつぶやくのが聞こえた。

「俺、そこで雇ってもらいたいわ」


 師匠って、一角ウサギが金になるって聞いたら、初心者を押しのけて狩ってきた猛烈な人だぞ?


 平和な会話に討伐から日常に戻ってきたと実感し、安心して、俺たちは油断した。


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