平和な日常
「宿が決まるまで、どうしましょう?」
「預けてた荷物を取りに行くか」
ルナが次の行動を提案した。
遠征に行く場合、持っていかない物を冒険者ギルドの保管庫で預かってくれる。
有料だが、遠征に行けるランクなら余裕で払える値段だ。
保管庫に引き換え札を持って行くと、いつもより監視の人数が多い。
「ぬいぐるみを盗まれないように、ですよ」
俺たちが荷物を引き取ると聞いて、保管庫の職員はあからさまに安心した顔になった。
「そんなに、ぬいぐるみが人気ですか?」
うちの女性陣三名は熱狂してるけど、他の人も同じような感じになったのか。
「もう、貴族まで押しかけてきて大変でした。国が希望者を捌いてくれるようになって、少し落ち着きましたがね。
ここに三体もあると知られたら、いつ襲われるかわからないと心配でしたよ。
今、一体盗んで闇で売ったら、相当な稼ぎになります。
順番が貴族の後になる平民の金持ちが、今一番危ないかもしれません。特に、成金は強引ですからね。
お気をつけて」
ルナがぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。
「荷物の中にしまって、人に見せない方がいいと思いますよ」
「そんなに……なのね?」
ルナがしぶしぶ荷物に入れた。
成金が冒険者を裏で雇って、別の冒険者を襲わせることもありうるのだ。
Cランクということは、上にBランク以上の冒険者がいる。強さと高潔さは、必ずしも比例しない。
「全部手作りだから番号を振って、盗まれたら誰のものか辿れるようにしておけば……。
いや、転売じゃなく個人で可愛がるなら、その後市場に出てこないか」
ふと思いつきを口にした。
「いえ、中古販売やオークションでの不正摘発ができるだけで、助かるぬいぐるみが出ますよ。ギルドマスターに教えてあげてください」
「自分で言えば?」
「アイディアを盗んで手柄にしちゃ、マズいでしょ。
それに、トーマさんは僕よりもギルドマスターと話す機会が多いんですから」
一瞬、何を言っているのかと思ったが、保管庫の担当なら問題が起きない限りギルドマスターと接触しないのか。
「まあ、この後も会うけどさ」
「すでに、一職員の僕より会話した回数は多いと思いますよ」
と真面目に言う。他の職員たちも背後でうなずいていた。
「ため息吐かれて『また、大変なことを持ち込みやがって』って言われるの、地味にへこむんだけど」
「それは、ギルドマスターに限らず、僕らも思ってますね」
「マジか?」
「マジですね。一角ウサギの肉に関しては、美味しい物を教えてくれて感謝してますけど」
職員に苦笑された。
なんだか、トラブルメーカーだと言われた気分になった。心外だなぁ。
「そういや、なんでだろうねん。トーマが来てから、話題に事欠かない」
サァラが小首をかしげる。片手を荷物の中に突っ込んでいるのは、ぬいぐるみをなでているんだろう。
「そういう星回りに生まれたとか?」
職員が、荷物の引き換え札をまとめながら言った。引き換え札と荷物につけていた札を、セットにして棚に片付けるのだろう。
「占い好きなのん?」
「魔女に恋占いをしてもらうとか、女の子の方が好きじゃないです? デートで彼女に付き合わされたりしますよ」
さらりとデートの話をされた。幸せそうで、いいな。
あれ? そういえば、俺、そういう健全なデートしたことないかも。
荷物を持って、冒険者ギルド内の食堂に移動した。昼と夜の間、客が少なくなる時間帯だ。
アルコールが入っていない飲み物を注文した。
「三人の中で誰が一番トーマと相性が良いか、占ってもらわない?」
ルナが突然言い出した。
ぶふぉっと吹き出してしまった。
そういうハーレム発言は、どうかと思いますが。なんか、聞き耳立てられてる気配がする。
「ルナって、占いとか好きなのん?」
サァラはミルクティーにフウフウ息を吹きかけて、冷ましながら不思議そうな顔をする。
この三人の間では、今までそういう話題が出たことないのか?
「恋占いとか、相手がいないとできないじゃん。姉さんたちがきゃっきゃしてるの、羨ましかったんだよ」
「ルナは兄弟が多いのか?」
そういえば、家族の話とかあんまり聞いたことないな。俺も自分の家族の話をしたくないから、振らないし。
「違うよ。ビキニアーマーの弟子たち」
「そんな集団があるのか?」
「この間、師匠と会ったじゃん。師匠が道場を持ってるんだよ」
はわわわ。ビキニアーマーって、そういう流派みたいなものなの?
背後で、冒険者がつぶやくのが聞こえた。
「俺、そこで雇ってもらいたいわ」
師匠って、一角ウサギが金になるって聞いたら、初心者を押しのけて狩ってきた猛烈な人だぞ?
平和な会話に討伐から日常に戻ってきたと実感し、安心して、俺たちは油断した。




