勝手に広がる世界
ギルドマスターは続けた。
「魔族がダンジョンを利用しようとしているという説は、否定されているらしい。
こっちは大陸が違うんだ。海を飛び越えて情報を集められるなら、今すぐに征服されてもおかしくない。
『魔族の陰謀だ』と言っているのは、一部の過激派だけということだ」
「両親と……育ての親が『過激派』だと?」
フォンの顔から血の気が引いた。
「その可能性が高いってことだ」
彼はフォンを気の毒そうに見た。
身内が犯罪者と言われるのは、どんな気分なんだろう。
「過激派による十年以上前の犯行だ。
大陸の国とは、犯罪者を引き渡す習慣は無いから、やるなら国同士で改めて話し合う必要がある。
ぶっちゃけ、被害者に貴族がいるか、昔の話を掘り返すメリットがあるかで対応が変わってくるだろうな。
お前を脱出させた奴らはこの国にいるのか?」
ギルドマスターの目が鋭くなった。
「……いえ。独り立ちしてこの国に来ましたので」
フォンは一瞬言い澱んだが、素直に答えた。
「じゃ、妖精の国からの要望が来たら、その時相談しよう。
こっちで勾留しているチンピラ妖精も、どうするか早いとこ決めたいんだけどな。」
チンピラ妖精? なんというネーミングセンス……。
「……ありがとうございます」
フォンは浮かない顔をしている。
情報を小出しにされても、どう考えていいかわからないよな。
誰が正しいのか、どの情報が嘘なのか、すっきりしないままだ。
ギルドマスターが別の書類を手にした。
「トーマの件は……こっちも問題が山盛りだな、こりゃ」
苦笑いで、ため息を吐かれた。
俺のせいじゃないでしょうが。
「まず、口座の金を使い込まれた件な。
あの女、あっちのギルドマスターの愛人だったらしいな。二人の犯行か、他の職員も関わっていたかで、捜査の規模が変わってくる。
ギルドの面汚しだぜ、まったく」
苦虫を噛み潰したような顔になる。
「とりあえず今日までの金の動きは記録したから、これからは普通に使ってくれていい。
こっちのギルドも入金すべき報酬を一時保管したままなのも、なんだしな。
不便をかけて悪かったな」
「あ、いえ、こちらの支部には却ってご迷惑を」
エレッサ支部の犯罪を、俺がこっちに来たからトゥルメル支部で扱うことになったんだし。
まぁ、冒険者ギルドの腐敗が悪いわけだが、このギルドマスターが悪いわけじゃない。
「あのまま帰らずに、こっちの国に来て正解だな」
ギルドマスターはニッと歯を見せて笑った。
「あたいの手柄にゃ」
サァラが胸を張った。
思わず、頭をなでてしまう。文字通り、命の恩人だもんな。




