討伐の帰り道
ワイルドベアの討伐完了サインをもらい、翌日の早朝に一行は村を出た。
「起き抜けに温かいスープをもらえるとは思わなかったな」
「体の芯が目覚めて、朝からすぐに動けるにゃ」
早足で歩きながら、ルナとサァラが会話している。
「昨日の夜の、料理教室のおかげだわね」
フォンが俺を見て微笑んだ。
「いや、ワイルドベアの毛皮が綺麗な状態だったから、それのお礼も兼ねてるんじゃないか」
褒められるのがむずがゆくて、話を逸らしてしまった。
それに、俺たちに怪我がなかったから、療養が必要だった場合の滞在費用が浮いて太っ腹になったというのもあると思う。
「そういや、サァラ。久しぶりに本気で怒ってたな」
ルナがサァラをからかった。
「獣人の尻尾を触るのは、ホントに駄目って言ってるのに聞かないんだもん。
いつかワイルドベアの討伐に来たパーティーに獣人がいたら、ヤバイでしょ」
ああ、教育的指導も兼ねてたのか。
街では時々、獣人の尻尾を巡るトラブルが起きる。酔っ払いが無遠慮に触って、返り討ちに遭うのだ。
獣人の方が素面で、かつ戦闘に慣れていれば、相手の手をねじるくらいですむ。
だが、逆に普段大人しく街で暮らしていたり、酒が入った状態で本能的に反応したりした場合、爪で相手を傷つけてしまうことがある。
状況を調べて、尻尾を掴んだ方が悪いと判断された場合は、後遺症が残っても亡くなることがあっても自己責任となる。
「特に、村長の子どもたちがひどかったわね」
ハサミまで持ち出したので、フォンがウィンドボールで弾いたのだ。
尻尾の毛を刈ろうとしたのか……まさか、尻尾本体を切ろうとしたんじゃないと思いたい。
「不味い一角ウサギも久々に食ったな」
ルナが苦笑いした。
俺たちの一角ウサギの燻製を味見して、一角ウサギも美味いと認識を変えたらしい。
最終日に、近場で捕ってきたと見せられた。
従来通りの、あまり美味しくない肉になっていた。
サァラが血抜きの方法を教えようとしたのに、「やってくれ」と言ってきたので放置した。
子どもたちはそれに腹を立てていたのかもしれない。
「ああいう村だから、仕事を選べなくなった人族だけのパーティーしか行かないのよ」
フォンの声が冷たい。
「なるほど。獣人が珍しいわけねん」
身体能力の高い獣人が混じるだけでも、パーティーの戦闘力はアップする。
ルナが休憩にしようと号令をかけた。
小さい火をおこして、ショウガ入りの薬草茶を淹れる。その中に乾燥させたタマネギを散らした。
冷たい堅焼きのパンに、ハムを載せ、チーズは火で炙ってその上に削って載せた。
「トーマは、来年もあの村に行きたいと思うか?」
ルナが俺に尋ねる。
「思わないな。サァラの尻尾が心配だし」
茶化すように答えたが、村の雰囲気もジメッとしていて……不穏な空気とまでは言わないが、変な感じだった。
「ワイルドベアの討伐は毎年あるでしょう?
村と良い関係を築けた冒険者パーティーは、依頼が貼り出されたらすぐに受注するわ。
村の方が、依頼料が上乗せされてもパーティーを指名することもある。
残っているのは、どちらでもない村ということよ」
「村までの道が整備されていなかったり、もっと日数がかかったりしても、人気の村ってあるにゃ。
貧しくても、秋から準備して宴を開いてくれたり。その土地でしか採れない木の実とか。その気持ちが嬉しいよねん」
「毎年行けば、何が足りないかわかるでしょう? それを持っていって、良心的な値段で売る冒険者もいるわ。
ただであげるのは、長い目で見れば良くないから。
その冒険者が引退したら生活が成り立たなくなるようでは、困りますものね」
ちらっと、商業ギルドからクレームは来ないのかと考えてしまった。
フォンは、俺の視線に気付いたらしい。
「商人が行かない辺鄙な場所に限り……よ」
「そうそう。そういう場所に関しては、冒険者ギルドも推奨してる」
フォンとルナに重ねて言われた。
昔のパーティーで「金勘定ばかりしている」と嫌味を言われた記憶が、頭をよぎる。
二人の声に非難する含みは感じない。ホッと胸をなで下ろした。
「あすこは、村長が悪いよね。
冒険者を便利な使用人だと思ってる。
だから質のいい冒険者から避けられて、肉も革も上質なものを得られないんだ。
冒険者が来るのが遅いってことは、村人に犠牲者が出る可能性も高くなるん」
サァラが憤るように言う。
いつもなら、尻尾をびたんと叩きつける場面だろう。こんな屋外でやって小枝でも刺さったら大変だと、尻尾を掴んだ。
「にゃに?」
サァラがビクッと反応して、真っ赤になった。
「いや、怪我したら大変だと思って」
「大丈夫にゃ~」
「あらあら、過保護ねぇ」
「もふもふの毛がガードしてくれるから怪我しねぇよ」
一気に、空気が暖かくなった。あの村の閉塞感から、解放された気がした。
村人には気の毒だが、俺にできることはない。何かしてやろうという気も起きないしな。
そんなことを考えていたら、俺の手の中から、するりと温かい尻尾が抜けていった。




