ワイルドベア二頭目
ワイルドベアは村の人たちの食料になるんだから、できるだけ内臓を痛めないやり方で仕留めたいと思う。
「フォン、風魔法で玉を作ることできるか? ファイアーボールの風版みたいな感じ」
「やったことないけど、試してみるわね」
村長の家を出て、庭で試してみる。
広場では、村人たちが一頭目のワイルドベアを本格的に解体していた。
「いつもは方向を決めて流す魔力を、曲げて循環させる? こうかな?」
ぶつぶつと呟きながら、魔法を繰り出していく。
その間に、ルナとサァラに小さな石を積んでもらった。
俺は木登りをして、飛び降りる練習をする。
「トーマは何をやってるにゃん」
「ん~? うまくいったら明日の作戦に加えようと思って」
無事に着地できたが、足がジーンとしている。
「トーマ、できたと思うわ」
フォンが弾んだ声をあげた。彼女の額に汗が滲んでいる。
「おお、すごいな。じゃあ、あの石に当ててみて」
「え? ああ、そういうことね」
フォンは俺が何をさせたいか理解したようで、視線を風の玉から積んだ小石へ移し、投げた。
一番上の小石だけ、ポロッと落ちる。
思わず拍手が出た。
「これの威力をあげて、ワイルドベアの足元に当てられたらいいなと考えたんだ」
「倒すには、威力が足りないわ」
フォンが悔しそうだ。
「いや、バランスを崩せばいいよ。それどころか、驚いて隙ができるだけでも楽になるはず」
「なるほどね。あたしが切るにしても、サァラが殴るにしても、相手の意識がよそに向いているってわけだ」
ルナが意図を読んでくれた。
「言われてすぐにできるって、すごいにゃ」
「ほんとだな。俺の思いつきだから、ダメ元だったんだけど」
フォンは真っ赤になって、「これくらい、当然よ」とそっぽを向いた。
夕方まで練習を続け、五段重ねの小石を跳ね飛ばすくらいになった。
もっと練習したいというフォンをルナが止めた。
「魔力切れして明日できなかったら、本末転倒だろ」と。
風の玉は、ウィンドボールと呼ぶことにした。
翌日、昨日討伐したワイルドベアの毛皮の端切れをもらってきた。それを待ち伏せる場所の中央に置き、匂いを風魔法で拡散する。
ほどなくして、鼻をひくつかせながら二頭目のワイルドベアが現れた。
毛皮の匂いを嗅ぐワイルドベアの鼻先に、刺激のある粉をフォンの風魔法で飛ばす。
俺たちは、それを嗅がないように、鼻と口を布で覆っている。
ワイルドベアが後ろ足で立ち上がり、前足で鼻を押さえた。そこで、足元にウィンドボールをぶつけてよろけさせる。
サァラがワイルドベアの膝裏に蹴りを入れる。
ワイルドベアが怒りの咆哮をあげ、サァラを追おうとしたところを、ルナが剣で牽制した。
突き出された手の先、爪を剣ではじき返して火花を散らす。
ルナとサァラが互いに攻撃と援護を繰り返し、ワイルドベアは苛立ってきているようだ。
俺は木の上で、じりじりとチャンスを待っている。
ワイルドベアの向こう側では、狩人が弓を構えている。俺が失敗したときには、援護してくれるよう頼んだ。
ワイルドベアが四つ足に戻った瞬間、俺はその背中に飛び降りた。すばやく首に短刀を押し込む。
背中からさっと飛び降りて距離を取り、ワイルドベアの様子をうかがった。
即死ではないが、もう思うように動けないようだ。
狩人がワイルドベアの目を弓で射った。それが頭蓋骨の中まで通り、ワイルドベアが倒れた。
「苦しませないのも、慈悲だら」
そう言って、静かに手を合わせた。
「肉も毛皮も無駄にはしません」と感謝の言葉を捧げている。
俺たちも、それに倣って手を合わせた。




