重要事項は何か
俺は、宿泊代代わりに一角ウサギの他の料理を作る。
淡泊な肉だから、何にでも合うんだよな。パサパサになるのだけ、気をつければいい。
普段食事を作っている人たちが、助手のように手伝ってくれる。
わいわい料理するのも楽しいな。
ホテルの厨房のように、殺伐とした空気じゃないのがいい。
肉に小麦粉をまぶし、溶き卵にくぐらせて焼いた黄金焼き。
焼いている横からつまみ食いをする人が続出で、防御するために頭を使った。子どもたちも油断ならない。こうやって、逞しく育つんだな。
こんなにたくさん卵を使えるのは、養鶏場ならではの贅沢だ。
甘いトマトのソースかピリッとした辛子のソース、蜂蜜をかけるのもいい。
廃業の危機が去っただけでなく、大儲けのできる未来がちらついている。浮かれた空気に満たされていた。
街に行くのは、養鶏場の主人の母親、グレタばあさんに決まったそうだ。
「養鶏場の本業に影響が出ないよう、それでいて、富を横取りされないよう、がっちり契約を結んでくるからね」
本業を忘れるなと釘を刺されて、数名がハッとした表情になった。
「こういう時は、抜け駆けしようとする貴族や冒険者が接触を図ってくるもんだ。
うまいこと言って、利用するだけして、ポイ捨てされるからね。
お前たち、気ぃ引き締めるんだよ!」
挨拶というより、演説だ。聞いている皆の顔が引き締まってきて、子どもたちまで真面目に聞いている。
「おう!」
養鶏場の人たち全員が拳を突き上げた。
その迫力に、思わず圧倒される。
「うわ~。かっこいいにゃ」
「ほんとだな」
モンスターが出る環境で生き抜いてきた人たちの、芯の強さを感じた。
翌朝、ぬいぐるみを渡された。
フォンはそっと壊れ物のように受け取り、サァラはぎゅっと抱きしめた。
そこに、グレタばあさんが現れた。その後ろで、養鶏場の主人が大きな荷物を抱えている。
「野宿できるように、毛布と食料だ。母ちゃんをよろしくな」
と、息子の顔で荷物を馬車に積み込んだ。
「急げば今日中に着きますけど?」
俺たちでも半日はかからないし、養鶏場の従業員なら日帰りする道のりだ。
「あんなスピードで飛ばされたら、腰をいわすわ(痛める)」
とグレタばあさんが言う。
今回の最重要人物がそう言うので、途中で野宿することに決定した。
「がたがた揺れなきゃ、縫い物をするんだけどね。久しぶりに里を出たから景色でも楽しむか」
傍若無人というか、実にマイペースだ。
「そっちのベッピンさんは、どうしたね。なんか悩み事かい」
フォンは少しためらって、膝の上のぬいぐるみをなでた。
そして、子どものころに両親が捕まり、乳母が逃がしてくれた話をした。
だが、先日、父親は権力者に不都合な真実を掴んで消されたのではなく、過激な主張で人を害したから罰を受けたと聞いた。
どちらを信じていいのか、わからない……そんなことをぽつりぽつりと話す。
ばあちゃんはフォンの両手を握って、向き合った。
「開拓団はいろんな経歴の人間がいたよ。それこそ、すねに傷を持つ人間もね。
過去は過去って、割り切ってもいいんだよ。親と子どもは別の人間だ」
フォンは黙って聞いている。
「どっちかわかったら、あんたの人生が変わるんかい?
今の生活に影響がないんなら、好きにしたらええ」
「……そう、ですね」
フォンはびっくりした顔で、なんとか相槌を打った。
そして、静かに笑い出した。
「くく、ふふ、そうですね」
目尻を指先で拭くと、久しぶりに晴れ晴れとした笑顔を見せた。
「トレントの小さいのがいる。どうする?」
御者台のサァラが、慎重に小声で訊いてくる。
「急ぎだから、やり過ごしましょう」
フォンが風魔法で遠くに飛ばした。
ちらっと、ルナがいないから仕留められないな、と思った。俺たち三人では、決定打に欠けるのだ。




