受付は大混乱
翌日、昼前に冒険者ギルドへ俺とルナの二人で行くことにした。
フォンとサァラは、買い物や甘い物を食べに行っている。
俺の殺人未遂の捜査は領主様に権限が移ったようだ。
個人口座の不正使用や三年前のワイバーン討伐の不正は冒険者ギルドの本部が調べている。
当事者だけど、もう遠くで話が進んでいる。
たぶん進捗状況を聞くだけだろう。
そう思って、ギルドに入ったところ……受付の周りに人だかりができていた。
ギルドマスターは片手を首の後ろに回して、盛大なため息を吐いた。
彼の目線を辿ると、一角ウサギの山。
思わず、入り口で立ち尽くす。
「ああ、トーマか。お前のせいだぞ」
ギルドマスターは本気で責めている訳じゃないけれど、少し本音が混じっている声音で、俺に話しかけてきた。
みんなの視線が一斉に俺に向く。怖っ。
「お、ルナじゃないか」
一角ウサギを獲ってきたらしきパーティーの中から、ビキニアーマーの熟女が声を上げた。
「師匠。なに、この山」
ルナが呆れたように指を指す。
「今朝、依頼を探しに来て、ぬいぐるみを見たんだよ。かわいいねぇ。
一角ウサギがあれば、作ってもらえるんだろ? 速攻で獲ってきたさ」
ニコニコと無邪気な笑顔で……返り血はついたまま。
「ちょっと、師匠。こんな胴体の真ん中をバッサリ切ったら使えないよ?」
「なんだよ。じゃあどうすんだい?」
「角をつかんで心臓を一突きか、四つ足をなぎ払って……」
ルナの説明を聞いて、ギルドマスターがハッと何かに気がついたようだ。
「おい、狩り場にいる連中を連れ戻せ。ただ、捕ってくるだけじゃ駄目だって」
それを聞いた職員が、走り出した。続いてギルドの裏手から馬のいななきが聞こえた。
「依頼ボードに、『一角ウサギの扱いが決まるまで討伐中止』と貼り出せ」
「はい!」
別の職員が事務室に駆けていった。
ルナの師匠という人がしょぼんと肩を落とした。
「なんだ、駄目なのかい」
「もう、早とちりして。それに素早く血抜きしないと食べられないよ」
ルナが師匠をつつく。
「こんな肉、食べんのかい?」
「それが、ばか美味なんだってば!」
師匠と弟子の会話は、途切れる気配がない。
「ガキどもを蹴散らして獲物を横取りするなんて、どういう了見だよ」
ギルドマスターが文句を言った。
「こんな可愛いの、欲しいじゃないか」
「気持ちはわかるぜ、師匠」
師匠と弟子が仲良く頷きあう。
「強い奴が配慮しなかったら、あっという間に弱肉強食の世界になるだろうが」
ああ、ここの支部の雰囲気がいいのは、ギルドマスターがそういうことに気を配っているからか。
ギルドマスターは頭をガシガシとかいた。
「しょーがねーなぁ。
トーマ、悪いが、ぬいぐるみを作った人を呼んできてくれねぇか。注文を出すより、こっちで作れる職人を増やした方が良さそうだ」
「呼びに行くのはいいですけど……。
一角ウサギの被害をぬいぐるみで補填できるって喜んでいたんで、どうですかね」
「商業ギルドで契約を作ってもらうか。指導料とかアイディア代とか、なんか払うようにして」
「そうですね。で、これは俺たちへの指名依頼と考えていいんですか?」
ギルドマスターがニヤリと笑った。
「そうだな。仕事はきちんと条件を確認しないといけない。
指名依頼で、連れてくることができたら成功報酬を上乗せ。どうだ?」
俺はふっと笑って見せた。
「ルナの講師料もお忘れなく」




