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『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第六章 ハーレム生活

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一角ウサギ騒動 sideギルドマスター

 俺は、ファルガン共和国トゥルメル支部でギルドマスターをやっている。


 先日、冒険者パーティー「花猫風月」から、ぬいぐるみを献上された。

 一角ウサギの毛皮にも使い道があると、知らしめたいらしい。


 冒険者ギルドの受付に置く許可が欲しいと、交渉に来た。

 二つあるぬいぐるみの片方を、見本として置いていった。


 家に持って帰って娘にあげるか、ギルドマスター室に置いておいて来客にもアピールするか悩んだ。

 まあ、受付に一体あるからいいだろうと持って帰る。



 娘は大喜び。

 妻もニコニコで、ギルドマスターになってよかったと一瞬だけ思ったんだ。

 緊急対応で家族との約束を何度も破るような、そんな仕事だが……。




 翌日、受付の一角ウサギの周りに人だかりができていた。

 力づくで奪おうとする現役の冒険者が出たため、ギルドマスター室に退避させた。


 なんだ、あの熱狂は。

 おかしな魔力でも滲み出ているのか。



 一角ウサギの依頼を、冒険者ギルド名義で出すか検討することにした。

 その会議が終わる前に、山のように一角ウサギが持ち込まれた。

 冒険者ギルドのトップランカーたちが、初心者向けの狩り場を荒らして狩りまくったのだ。


「お前ら、トップランカーとして恥ずかしくないのか! 駆け出しの奴らを導く立場でありながら、蹴散らして自分たちの欲を優先したのか」


 普段なら理性的なパーティーも、目の色が変わっている。

 少し粗野なパーティーは貴族から金をふんだくれると、俺の説教など右から左だ。


 くそ。

 トーマはなんでこう、騒動を引き起こすんだ。




 通常の買い取り価格に少し上乗せする程度に抑え、ペナルティとして初心者の「教場訓練」を五回以上行うことを約束させた。

「教場訓練」とは、依頼に初心者を同行させ、コツを指導してレベルアップの手助けをする制度だ。

 初心者が死亡することがないよう危険が少ない依頼を受ける――高ランクの冒険者にとって、それはかなりのストレスだ。

 しかも、好奇心いっぱいのヒヨコを連れて出歩くなんざ、ただの子守りみたいなもんだしな。



 本来は、後出しでペナルティを科すなんて、やってはいけないことだ。

 冒険者ギルドの信用を落とす行為でもある。


 だが、今回は特別だ。

 高ランクのパーティーが、大人げない行動をしたのだから。

 建前にしても、強者は人格者であることを求められているんだぞ。



「Cランク以上の者は、初心者たちが行けない場所に生息する一角ウサギのみ許可する」と張り紙を出した。



 職員から「このぬいぐるみがあれば、彼女を口説き落とせると思うんですよ」と強請られる日々。

「お前、あんな貢がれ慣れている女に渡したって、『ありがとう』の一言で終わるぞ」

「だけど、今ならワンチャンあるかもじゃないですか。そんな品物、滅多にないんですって」

 いつも控えめで、真面目に魔道具でサポートしてくれる職員が、とてもしつこい。



「ギルマス、ずるいなぁ」とまで言い出した。


「おうおう、そこまで言うなら、ギルドマスターを譲ってやってもいいぞ。

 山になっている本部からの書類を読んで担当者を決め、職員が作った書類の確認と決済、場合によっては差し戻し、冒険者からの苦情のうち受付で処理できなかった件の仲裁……。

 引き受けてくれるんなら、俺は冒険者に戻って教場訓練しながらのんびりと暮らすぜ」


 怪我で第一線を退いたが、下のランクの依頼を選べばまだ続けられた。

 だが、前任のギルドマスターに引退したいから引き継いでくれと言われたから、やっている。



 そこまで言ってもぐずぐず言っているので、心配になってきた。

 ぬいぐるみに「魅了」の呪いでもかかっているのか?


 鑑定させた結果は、異常なし。

 それについては安心できたのだが、なら、この狂乱はなんだろう。




 解体作業が追いつかないため、引退した職人に声をかけた。

 元のぬいぐるみを作った養鶏場のばあさまたちを呼び寄せ、高級ホテルに宿泊してもらって、服飾ギルドに指導してもらうことにした。


 こんなに、必死に体勢を整えたんだぞ。



 それなのに、貴族のお嬢様数名から、「わたくしのぬいぐるみを、今すぐ用意しなさい」と命令が来たのだ。

 大人も男女問わず、裏からこっそり要求が来る。

 領主様からも矢のような催促が……。

 

 領主様との関係が悪化したら仕事がやりにくくなる。できあがった中から一体だけ、献上した。

 だが、それだけではご満足いただけず、購入するから早くと急かされる始末。



 冒険者ギルドという後ろ盾があっても、俺は平民だ。

 貴族の横暴の盾になるのも仕事の内だが、一度に来る件数が多すぎた。

 このままでは、職員や協力してくれている職人たちの身柄も危ない。



 苦肉の策で、受付のぬいぐるみを国王陛下に献上して、国内の貴族を押さえてもらった。

「順番を守れ」と。

 冒険者に圧力をかけるな、作成している職人を引き抜くな――そういった通達をしてくださったらしい。

 違反者を通報する窓口も作ってくださった。


 その代わり、王女様の分は早急に納品するように耳打ちされたが。



 貴族からの申込みを国で取りまとめてくれる話になり、ようやく冒険者ギルドは落ち着きを取り戻した。

 と言っても、急かされていることに変わりはないんだが。




 とりあえず、娘には秘密厳守だと言い聞かせた。

 ここで取り上げたら、父親としての立場がなくなる。

「後でまたあげるから」と返してもらって、王妃殿下に献上するという道もあった。宰相に渡して、国内の整備を頼むという方法も考えた。


 組織の人間としては、そうすべきだったと思う。

 苦渋の決断だった。

 だが、ぬいぐるみが権力者たちに行き渡るまで、数ヶ月乗り切ればいいはず。


 娘の危機意識があがって、気配察知の能力が伸びた。

 ギルドマスターなんて仕事はどこで恨みを買うかわからないから、自己防衛は教えなきゃと思っていたんだ。




 しかし、ほんと、トーマって何者なんだ。

 あいつが隣国のエレッサ支部の腐敗を暴き出したから、冒険者ギルドの本部も大騒ぎなんだぞ。


 恐ろしいヤツ……。


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