フォンの事情
ホテルに戻ると、フォンは大きなため息を吐いた。
「少しお話ししてもいいかしら」
「もちろん。逆に気になって、眠れねぇって」
ルナがフォンの背中を叩いた。
「酔い覚ましに……リラックスのカモミールとスッキリのミントがあるにゃ。どっちがいい?」
サァラがフォンに問いかける。
「え、そ、そうね……」
フォンが珍しく言いよどんでいる。あまり頭が働いてないのか。
「よかったら、俺がブレンドするよ」
お茶は専門家じゃないが、両方の効果があったら話しやすいんじゃないかな。
ハーブティーを淹れて戻ってきたら、ルナがフォンの髪の毛をくしけずっていた。
フォンは目を閉じて、されるがままになっている。
フォンはハーブティーを一口飲んでから、話し出した。
「先ほどは言葉を濁したけれど、妖精の国から追っ手が来てもおかしくないと思っているの。
ただ、それを聞いてしまったら、あなたたちにも追っ手がかかる可能性があるわ。そんなことになったら……」
まだ、心を決めかねている様子。どんな秘密を抱えているんだ?
「あれだろ、例えるなら穴に籠もるタイプのモンスターで、正体不明だけど討伐しないと危ない奴。
まずは、正体を知らないと良いも悪いも判断できないって」
ルナが気楽に考えろと言う。
サァラも、うんうんとうなずいた。
「話しても話さなくても、パーティーを組んでいたメンバーは『聞いているはず』と狙われるかもしれませんしね」
三人が、ギョッとした顔で俺を振り返った。
話しやすくなるように言ったつもりだが、失言だったか……。
「そ、そうね。今さらかもしれないわね」
フォンはこほんと咳払いをした。
「私の父はダンジョンの有効活用を研究していたの。その時に、ダンジョンがこちらの戦い方を学習していることに気がついた」
あ、俺も気がついたやつ。それで、フォンは「それ以上考えるな」って言ったのか。
で、口止めするように……むにゃむにゃ。今思い出すのは、やめよう。
「妖精族の国は、魔族の国と近いの。
『ダンジョンを閉鎖すべし』と主張して、ダンジョンに領地を持つ貴族に陥れられたらしいわ」
ダンジョンで栄えている都市なら、ダンジョンを閉鎖すべきなんて主張されたら困るだろう。死活問題だもんな。
「最初は、それ以上発言するなと脅された。そこで止めてくれればよかったのにと思うわ。
だけど父は、『世界のために黙っていられない』と主張を曲げなかったの。
研究所をクビになり、都にいられなくなっても、父は諦めなかった……」
「正義感の強い人だったんだね」
サァラが相槌のように言った。
「そう、世界のためにね。
でも、そのために家族の幸せを犠牲にしたわ。
『世界』の中に『家族』は含まれないとでも言うの? こんなことを考える私がひどいと思う?」
フォンは長いこと葛藤してきたのだろう。表情が、苦しい。まるで助けてと叫んでいるようだ。
「……ごめんなさい。話が逸れたわ。
つまり、このことを広められたくない妖精族が、私のことも消そうとしているのかもしれないということよ」
だから、俺たちも危険だという話か。




