表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/17

宿屋で働く心得

 一月経ったころ、いくつか物の置き場所を変えさせてもらった。

 仕事の流れを考えて、取りやすく、片付けやすい場所に。

 それだけで少し時間が短縮できて、効率よくなった。ほんの少しだけど。

「工夫して改善したい」というのを反対されなかったことで、この先に希望を持てたし、気持ちが楽になったのもある。


 従業員の昼飯どきに相談して、オヤジさんの了解を得てやったけど……先輩には「いい子ぶりやがって」と文句を言われた。

 うん、村にいたころも、「余計な面倒を増やすな」って言われた。今までどおりでいいって。


 でも、少しでも楽になった方がよくないか?




 オヤジさんに、宿泊客に誘われても寝てはいけないと釘を刺された。

 お客人に手を出すなと言うこともあるが、親しくない人間を気軽に誘う連中は誰にでも誘いをかける。どこで病気をもらうかわからないからだ――とのこと。


 それから、「かわいがれる男の子がいる宿」と情報が回ると、それを目的に泊まりに来る客が出てくる。男娼になりたくなければ止めておけ――とも。

 ダンショウって言われて、意味がわからなくて。そういう仕事があるって知って、驚いた。都会はスゴイ。


 でも、そんなこと、あるかなぁ……と、期待半分、いや半信半疑でいた。




 そうしたら、本当に、冒険者の女性が、わざと裸を見せてきた!

 風呂場とか部屋に呼んでおいて……服を着ていない。もう、わざとだろ。

 ドキドキしたり、目のやり場に困ったりしている俺を、からかって遊んでいるのがわかる。

 目を伏せて石けんを渡したり、シーツの取り替えをしたりして、逃げるようにその場を立ち去った。

 後ろで笑い声がした。

 恥ずかしくて悔しくて……こんなの、ラッキーとか嬉しいとか思えない。


 こっちがどうなるか知っていて、困るのを楽しんでいるなんて、意地悪で暇なオバサンめ!



 オヤジさんに報告したら「あいつは常習犯だ。絶対に毒牙にかかるな」と言われたよ。

 常習犯って……。



 何度かそういうことがあった。ひとりだけじゃなく、何人も。

 仕事中に粉をかけられても、だんだん腹が立つようになり、終いには「面倒臭い」と思うようになった。


 正直、頭の中で段取りを組みながら動いているから、それどころじゃないんだわ。


 まあ、それでも意識してしまうことはある。

 そちらを見ないようにすると、動きがぎこちなくなる分、仕事に時間がかかるし疲れるし……いいことなんか、ありゃしない。

 はっきり言って、迷惑だ。


 こんなこと思うの、男として枯れているのかなぁ。でも、どこか「単純な男」を舐めている気がする。

 誰が俺の初めてをいただくかとか、酒を飲みながらしゃべっているのを聞いてしまい、ゾッとした。



 ちらっと、聞いたんだけど――

 冒険者として仕事中に危険があって興奮したり、神経が高ぶっていたりして、誰でもいいから人肌で落ち着きたいってことがあるらしい。

 誰でもいいって……そういわれて相手をするのは、ちょっと嫌かも。




 街に来て三ヶ月経ったころ、村長の息子さんからオヤジさん宛に手紙が来た。


 街に行く用事があるので、訪問してもいいかということだった。

 可能なら、その夜、同郷の者たちで食事会をしたいとも書いてあった。



 オヤジさんは「面倒見のいい村だな」と感心して、了承してくれた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ