油断できない
「さて、どんな依頼があった?」
ルナがサァラに問いかけた。
「魔石減少の原因を調査するやつ。これは他のパーティーと合同で鉱山を手分けする感じ」
「坑道を調べるんじゃなくて?」
訊いた後に、ルナは揚げ芋を口に放り込んだ。
「採掘できる量が減るっていうのが普通でしょ? 前日に見かけて、明日採取しようと思っていたのが消えるらしいん」
「それは、盗掘されてるってことか」
俺は麦酒をくぴりと飲み、揚げた肉の余韻を流し込んだ。
「その可能性もある。人かモンスターか、それとも魔法が関係しているか……謎なんだにゃ」
こんな依頼は、さすがCランクだ。Dランクでは受注できないだろう。
「それから、ワイルドベアの討伐。今年は多いらしくて、募集枠は五パーティー。行き先も五カ所で、それぞれ別行動」
「場所は早い者勝ちなのかしら」
フォンが何かを考えながら訊いた。
「ん~、冒険者ギルドの方で、応募してきたパーティーを見て行き先を決めたいみたいだったにゃ」
サァラは照り焼きのタレがついた手を、ペロリと舐めた。
「おい、お前らワイルドベア討伐に名乗りを上げるのかよ」
突然、割り込んできた男たち。
かなり酔いが回っていて、ニヤニヤといやらしい目つきでこちらを見ている。
「いい女を独り占めっていうのは、ないよなぁ」
「こんな、ちんちくりんの兄ちゃんがよぉ」
「俺たちみたいな先輩に譲るのが筋ってもんだぜ」
「そーゆーの、聞き飽きてんだよね」
サァラが珍しく、突き放した冷たい言い方をした。こういう姿を見るのは初めてかもしれない。
「酔った勢いがないと声もかけられない小心者……そういう自己紹介かしら?」
フォンが不快感を露わにして、鼻で馬鹿にする。
こんな表情もするのか。女王様のようだ。
「見かけねぇ面だな。どっから来た?」
ルナの目が鋭く射貫くように光る。だが、席を立たずに、ゆったりと足を組んでいる。
男たちのうち一人が一瞬ピクリとしたが、他の男たちはヘラヘラと笑い続ける。
「俺たちに興味があるなら、ベッドの中でじっくり教えてやるよ」
「気持ち悪ぅ~い」
サァラが煽るように言った。
「気持ちよくしてやるって言ってんだろ」
リーダーらしき男が、ずいっと前に出た。
なんだか、違和感がある。冒険者の格好をしているが、本職は違うような……?
よくいるタイプなら、同じ台詞でも舌なめずりをするし、「なんだと?」と激高してすぐに殴りかかってくる。
それに、ルナの胸の谷間や太ももを見るんじゃなく、半月刀を見ているのも怪しい。
「トーマ。ここはあなたの出番じゃないかしら。
店に迷惑かけずに倒すなら、あなたが最適だと思うわ」
フォンが店中に聞こえるように言った。
ルナは流血、フォンはテーブルや椅子に被害が出る。サァラが殴りつけたら、他の客を巻き込むか。
「まあ、けっこう馬鹿にされたしな」
「思いっきりやれよ」
ルナに励まされて、腰から短剣をさやごと外した。
刃を出して切るのではなく、鞘で殴るか、急所の近くを突けばいいだろう。
でも、正直、こいつらの強さや戦い方の見当が付かない。
場数を踏んでいないのは、こういうときに不利だ。
フォンが作戦を耳打ちしてくれる。
さらに相手が魔法を使いそうになったら、風の魔法で邪魔してくれると。
酔っぱらいたちが、どちらが勝つかの賭けを始めた。
体格で負けているせいか、相手に賭ける人が多くて、ちょっとへこむ。
だが、フォンの作戦が見事に当たり、あっと言う間に三人を倒す。
サァラに習った柔軟性。低く屈んでスネを狙ったり、脇をすり抜けて背中を攻撃したり。
ルナが重量のある半月刀を遠心力で操るように、自分の手足に振りをつけて一撃に重さを加える。
振り抜ききったら店の備品を壊すので、効果があったらスッと手足を引っ込める。この戦い方は、技巧派と言われるかもしれない。
俺には、こういうのが合っている。久しぶりに戦っているという高揚感があった。
「こんなふうに叩きのめして大丈夫か?」
喝采と賭けに負けた連中の野次を聞きながら、汗を拭った。
やったのは俺なんだけど、フォンの指示で気を失うまでって言われたんだよ。ちょっと、やりすぎでは?
冒険者同士の喧嘩は、基本的に自己責任だ。そうはいっても、半殺しにしてしまうと罰金刑を課せられることもある。
「風の防音結界を展開していたのよ。単なる『身の程知らず』の冒険者じゃないわ」
フォンが、倒れている男たちに目も向けずに言い放った。
サァラが飲食代に上乗せして、「冒険者ギルドが引き取りに来るまで、預かっててくれる?」と店主に交渉していた。




