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『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第六章 真のハーレムとは

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過去に遡って

 数日後、ギルドマスターに呼び出された。


 ソファに座ると、さっと紅茶が配られる。

 ギルド職員は給仕を終えると、入り口の方に下がった。


 一見無駄に見えるけれど、不正防止とか話し合いを記録に残すとか、役割があるんだろうな。



 ギルドマスターが一口飲んでから話し出した。

「この間はご苦労さん。

 おかげで、エレッサ支部のギルドマスターを逮捕できた。

 レスタール王国には、冒険者ギルド本部からトーマへの接近禁止を勧告した。

 強制力は無いが、次に何かしたら冒険者ギルドを敵に回すぞって釘も刺しといた。

 しばらくは身辺に気をつけながら、冒険者活動を再開してくれていいぞ」


 それを聞いて、ホッとした。

 ホテルの居心地はいいが、このままでは感覚が鈍りそうでうずうずしていた。早く、冒険者らしい生活に戻りたい。


「いい見世物になってたから、しばらくは酒場で肴にされそうだ」

 ルナは苦笑したが、それでも嬉しそうだ。訓練だけじゃ足りないよな。



「正直、ありがたいよ。

 国が絡んできてるから、もみ消されないように対策する必要がある。

 あの通りは、中堅どころの冒険者がうろついている。国際的に手広く小商いをやっている商人もいた。

 上流階級がいる通りだったら早々に静かにしろと言われるが、あそこなら程々に野次馬が集まっても大丈夫。おあつらえ向きのホテルだぜ」

 サァラとフォンが目を合わせて、ふふっと笑い合う。



「新聞記者もいたから、世論を味方につけられるといいな。

 下位の貴族も聞いていたらしいぞ。寄親や派閥に情報を流してくれることを期待しよう。

 冒険者ギルドが大きな組織だと言っても、国を相手取るのは簡単じゃねぇ。

 他の国や神殿の応援を取り付けられたら、逆にこっちが叩かれるしな」


 なるほど。言われてみれば、そうだよなぁ。

 厄介ごとをこの国に持ち込んで、申し訳ない。


 そんな俺の気持ちに気付いたのか、ギルドマスターは豪快に笑い飛ばした。

「トーマと『花猫風月』のおかげで、一つの支部の腐敗が明らかになったからな。

 立て直しのいい機会だ」


 それならいいか。他の冒険者たちのためにもなるなら……。



「そのことなんですけど、トーマが三年前のワイバーン討伐でちょっと気になることを言っていて……」

 フォンが言葉を挟んだ。


「そりゃまた、懐かしい話を。なんだ?」

「討伐で出た怪我人を、アーデンの私費で村に帰したそうなんです」


「剛剣のアーデンか。ギルドから先は、自分たちでなんとかすべきだろ?」

 ギルドマスターは何を言っているんだと、片方だけ眉を上げた。

 俺も、フォンが何を言いたいのかわからない。


「いえ、その前の話です。

 討伐現場からギルドまでは、搬送する義務がありますでしょう」

「当然だろ。ま、息のある奴だけになっちまうがな。

 通常の依頼とは違って、死傷者が続出するのが前提の招集だ。回復の見込みがある奴は、出した支部が責任持って……おい、なんだ? まさか――」


 ギルドマスターは俺の顔色を見て、嫌な考えが頭をよぎったのだろう。



 俺は、あまりのことに、頭の血管がガンガン騒ぎだすのを感じていた。

 指先が震えて、紅茶がズボンにシミを作る。太ももに生ぬるい、嫌な感触が落ちる。


 腐敗したギルドが義務を果たさず、助けるべき冒険者を見殺しにしていた?


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