甘えん坊?
ガルドが思い出したというように言う。
「あ、お前がいなくなって、セリアが会計をやるようになったんだ。
分配する前に経費を取るようになったぞ」
だからなんだ。安心して戻ってこいとでも言うつもりか。
逆に、意図的に俺に経費を押しつけたって自白したようなものだぞ。とことん、馬鹿にしてるな。
いや、馬鹿なんだ。
「それ、ほんとに経費か確認したのか?」
嫌な予感がして、お節介を焼いてしまう。
「あ……なんか、あいつばっかり贅沢してたかも」
ガルドが呆然とする。
「俺の盾を新調したいと言ったときに、高すぎると断っておいて!」
「お前のあれは、貴族が家に飾るやつだったからだろ」
なんて頭の悪い会話だ。頭痛がしてきた。
「お前らクランに所属してたんだから、先輩たちに注意すべき点とか会計の基礎とか習ってないのかよ」
クランの事情はよく知らないが、報酬の一部を上納して所属するんだ。それだけのメリットがあって然るべきだろう。
「そういうのは、弱い奴がやるんだ」
堂々とブルーノが言い切った。
「そうそう。チマチマしたことをやる派閥と、漢らしい派閥に分かれてたんだ。
事務仕事を手伝わないならって、便所掃除させられたな」
あ、アホすぎる。
「庇護下に置いて、学ばせてもらっていたんだろ。下っ端なら、雑用をするのは当たり前だ。
クランを畳むときに、経理担当していた人がいなくなってたから、部外者の俺が駆けずり回ったんだ。
事務仕事の雑用をさせながら、パーティーを維持するための常識をつけようとしてくれた。それは先を見据えた厚意だ」
書類から見えた、誠実な人柄。それを軽視して毒を盛った奴らの側にいたのか、こいつらは。
ますます許せない。パーティーを組む前に、確認すべきだったな。
「クランの下っ端だったときは、便所掃除や、討伐後に料理を作らされた。
今度はやらせる側になったっていいだろう」
ガルドが悪びれもせずに言った。
「俺を『下っ端』だと思ってたのか?!」
初めから、そのつもりで……? それは知りたくなかった。
「クランで戦い方や身の守り方を教えてもらう代わりに、労働力を提供してたんだろ。
料理だって、複数で、怪我してない新人がやってたんじゃないのか。
怪我人は治療優先だろうが。それを働かせるなんて、下っ端以下。奴隷よりひどい」
ルナがはっきりと指摘した。
「自分より少しでも下の奴を見つけて、押しつけようって輩だぜ」
「いるいる、こういう奴。兄ちゃん、こんなとこに戻ったら駄目だ」
「こういう、人をこき使うことしか考えてない男と結婚しちゃ駄目だよ」
どこかのオカミさんがツッコミを入れた。
妙な応援に苦笑いした俺に、何を思ったのかガルドが猫なで声を出した。
「やっぱトーマは頼りになるな。戻ってきてくれよ」
泣き落としに作戦変更かよ。気持ち悪いわ。
「戻らねえっつってんだろうが。
俺の働きを認めてくれて、仲間だと喜び合える関係を知ったんだ。
馬鹿にして利用するだけのお前たちのところに、戻るわけがない。絶対にごめんだ!」
「そりゃ、あんな別嬪さんたちに囲まれてたらなぁ」
「あやかりたいぜ」
ちょっと、野次馬たちうるせぇ。黙れ。
「後悔したって遅いのよ。それに、まったく反省が見られないわ」
フォンが冷静に指摘した。
「簡単に土下座して、なんとかなると思ったんだろ。
戻ってきたら、こっちのもの。今までどおり、馬鹿にしてこき使う気満々ってか。
そんなところに戻る馬鹿はいないって。あたしたちだって、手放せないし」
ルナが中指を立てて、ポーズを決めた。
下品だからやめなさい。
「こんな奴らに耳を貸しては駄目にゃ!」
入り口の扉のところから、サァラが叫んだ。
君の猫耳なら借りたいぞ……なんちゃって。
……俺、今、何て言った? は、恥ずかしい! 寒いオヤジギャグ。野次馬たちに感化されたんだ。そうだ。そうに決まってる。
「リーダーの役目は声がでかい奴じゃなくて、責任を取れる奴。
お前、ガルドって言ったか? お前がリーダーなんて、そのパーティーは終わってる」
ルナがリーダーとしてダメ出しをした。
「トーマが俺たちを甘やかして、駄目にしたんだろう。責任取れよ」
ええ、そうくるか?
なんでこの話の流れで、そうなるんだ?
「俺たちだって、努力してきたんだ。知ってるだろう」
ブルーノも泣き落としをしようとしている? だが、どこに泣き所があるのか理解不能だ。
誰だって努力はしているだろう。その努力が説得材料になると思っているのか?
俺だって努力してきましたが? お前たちは認める気がないようだけど。
そんで? どういう理屈だよ。俺の方が責任取るの?
俺が甘やかしたとして、その前からすでに駄目な人間だったんじゃねぇか。
だんだん何を話しているのかわからなくなってきた。
はっきり言って時間の無駄だ、この不毛な会話。
どう言ったら、諦めるんだこいつら。




