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『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第五章 土下座されても戻らない

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甘えん坊?

 ガルドが思い出したというように言う。

「あ、お前がいなくなって、セリアが会計をやるようになったんだ。

 分配する前に経費を取るようになったぞ」


 だからなんだ。安心して戻ってこいとでも言うつもりか。

 逆に、意図的に俺に経費を押しつけたって自白したようなものだぞ。とことん、馬鹿にしてるな。

 いや、馬鹿なんだ。


「それ、ほんとに経費か確認したのか?」

 嫌な予感がして、お節介を焼いてしまう。


「あ……なんか、あいつばっかり贅沢してたかも」

 ガルドが呆然とする。


「俺の盾を新調したいと言ったときに、高すぎると断っておいて!」

「お前のあれは、貴族が家に飾るやつだったからだろ」

 なんて頭の悪い会話だ。頭痛がしてきた。



「お前らクランに所属してたんだから、先輩たちに注意すべき点とか会計の基礎とか習ってないのかよ」

 クランの事情はよく知らないが、報酬の一部を上納して所属するんだ。それだけのメリットがあって然るべきだろう。


「そういうのは、弱い奴がやるんだ」

 堂々とブルーノが言い切った。


「そうそう。チマチマしたことをやる派閥と、漢らしい派閥に分かれてたんだ。

 事務仕事を手伝わないならって、便所掃除させられたな」


 あ、アホすぎる。


「庇護下に置いて、学ばせてもらっていたんだろ。下っ端なら、雑用をするのは当たり前だ。

 クランを畳むときに、経理担当していた人がいなくなってたから、部外者の俺が駆けずり回ったんだ。

 事務仕事の雑用をさせながら、パーティーを維持するための常識をつけようとしてくれた。それは先を見据えた厚意だ」

 書類から見えた、誠実な人柄。それを軽視して毒を盛った奴らの側にいたのか、こいつらは。


 ますます許せない。パーティーを組む前に、確認すべきだったな。


「クランの下っ端だったときは、便所掃除や、討伐後に料理を作らされた。

 今度はやらせる側になったっていいだろう」

 ガルドが悪びれもせずに言った。


「俺を『下っ端』だと思ってたのか?!」

 初めから、そのつもりで……? それは知りたくなかった。


「クランで戦い方や身の守り方を教えてもらう代わりに、労働力を提供してたんだろ。

 料理だって、複数で、怪我してない新人がやってたんじゃないのか。

 怪我人は治療優先だろうが。それを働かせるなんて、下っ端以下。奴隷よりひどい」

 ルナがはっきりと指摘した。



「自分より少しでも下の奴を見つけて、押しつけようって輩だぜ」

「いるいる、こういう奴。兄ちゃん、こんなとこに戻ったら駄目だ」

「こういう、人をこき使うことしか考えてない男と結婚しちゃ駄目だよ」

 どこかのオカミさんがツッコミを入れた。



 妙な応援に苦笑いした俺に、何を思ったのかガルドが猫なで声を出した。

「やっぱトーマは頼りになるな。戻ってきてくれよ」

 泣き落としに作戦変更かよ。気持ち悪いわ。


「戻らねえっつってんだろうが。

 俺の働きを認めてくれて、仲間だと喜び合える関係を知ったんだ。

 馬鹿にして利用するだけのお前たちのところに、戻るわけがない。絶対にごめんだ!」



「そりゃ、あんな別嬪さんたちに囲まれてたらなぁ」

「あやかりたいぜ」

 ちょっと、野次馬たちうるせぇ。黙れ。



「後悔したって遅いのよ。それに、まったく反省が見られないわ」

 フォンが冷静に指摘した。


「簡単に土下座して、なんとかなると思ったんだろ。

 戻ってきたら、こっちのもの。今までどおり、馬鹿にしてこき使う気満々ってか。

 そんなところに戻る馬鹿はいないって。あたしたちだって、手放せないし」

 ルナが中指を立てて、ポーズを決めた。

 下品だからやめなさい。


「こんな奴らに耳を貸しては駄目にゃ!」

 入り口の扉のところから、サァラが叫んだ。

 君の猫耳なら借りたいぞ……なんちゃって。


 ……俺、今、何て言った? は、恥ずかしい! 寒いオヤジギャグ。野次馬たちに感化されたんだ。そうだ。そうに決まってる。



「リーダーの役目は声がでかい奴じゃなくて、責任を取れる奴。

 お前、ガルドって言ったか? お前がリーダーなんて、そのパーティーは終わってる」

 ルナがリーダーとしてダメ出しをした。


「トーマが俺たちを甘やかして、駄目にしたんだろう。責任取れよ」

 ええ、そうくるか?

 なんでこの話の流れで、そうなるんだ?


「俺たちだって、努力してきたんだ。知ってるだろう」

 ブルーノも泣き落としをしようとしている? だが、どこに泣き所があるのか理解不能だ。

 誰だって努力はしているだろう。その努力が説得材料になると思っているのか?

 俺だって努力してきましたが? お前たちは認める気がないようだけど。


 そんで? どういう理屈だよ。俺の方が責任取るの?

 俺が甘やかしたとして、その前からすでに駄目な人間だったんじゃねぇか。


 だんだん何を話しているのかわからなくなってきた。

 はっきり言って時間の無駄だ、この不毛な会話。


 どう言ったら、諦めるんだこいつら。


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― 新着の感想 ―
高級な宿の前で言い合いを続けているのは周りにかなり迷惑では? 犯罪者なんですよね
頭の悪い会話が延々と……段々飽きてきました。
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