表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第五章 土下座されても戻らない

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

58/64

溶けた金

 怒りで息を荒くしているサァラ。

 ルナは彼女の肩に手を置いて、役割を交代した。


 サァラは息を整えて、警戒に入る。鼻と耳がピクピク動いた。


 ルナは腰に手をやり、仁王立ちして、窓から見下ろした。

「あんたたち、トーマからかすめ取った物や金、搾取してた分を返還する目処はついたのかい?」


 野次馬たちから「ひでぇな」と声が上がる。


 ガルドは声がした方を睨んでから、大声で俺を罵ってきた。

「ブロンズタートルはお前が言っていた金額で売れなかったぞ。そいつは、ほら吹きだ」


 最低でも……っていう値段で計算したはず。おかしいぞ。

「いくらだって?」


「……五千キンだ」

 ガルドがためらってから答えた。


 野次馬たちにどよめきが走る。

 高ランクの冒険者ならもっと稼ぐこともあるが、当時Dランクだったことを考えると破格の報酬だ。

 普通の市民だったら、その金額で一生働かなくても生きていける。


「じゃあ、単純に五等分したって、トーマに千キンは渡すべきだよな。まあ、立て替えた経費を考えたら、違ってくるだろうけど」


 俺はガルドたちの表情を見ていた。

 ガルドはギョッとして、ブルーノは不満そうに口をへの字にした。

 ……頭が悪いから気付かなかったんじゃなくて、わかっていて経費を俺に被せていたのか。

 ほんと間抜けだな、俺。



「今、いくら残ってんだよ」

 かなり浪費してそうだな。嫌な予感がする。



「賭けで溶かした」ブルーノが開き直る。

「馬鹿か!」

「増やそうとしたんだ」

「増えるわけねぇだろ」

 急に大金を手にした若僧なんか、その気にさせるのは簡単だったろうな。



「彫刻家が買わねぇって言い出したんだよ。お前が事前にちゃんと確認しなかったせいだろ」

 責めるようにガルドが言う。


「ブロンズタートルの腹の部分、最低でも二千キン。状態が良ければ上乗せしてくれるはずだ」

 掘るから多少の傷は気にしないって、言っていたぞ。


「そいつが買わねぇって言い出したんだ」

「てめえが手を回したのか?」

 ガルドとブルーノが次々に文句を言う。


「死にかけてて何ができんだよ。ぼけ。

 ……運び方が悪かったんじゃねぇの?」

 可能性が高いのは、品質が劣った場合か?


「あんな大きくて重いの、引きずるしかねぇだろ」

「ちゃんと、妖精シルクで巻いたんだよな?」

 ブルーノの腕力が頼りであったのは、間違いない。


「ドレスを仕立てるような布、もったいないってセリアが抱え込んでたよ」

 ガルドが何を当然のことを、みたいな顔で言う。


 心底呆れた。

「そんなことして、ブロンズタートル傷だらけにしたのか。

 妖精シルクで巻いて、丸い甲羅を下にして引っ張れって言っといただろ」

 丸い方を下にすれば数カ所の傷で済むが、腹を下にしたら、一面まんべんなく傷が入る。


 そりゃあ、創作意欲も消し飛ぶわ。さぞ、がっかりしただろうな。


 ちなみに、妖精シルクでセリアとヴェリーがドレスを仕立てたって。

 馬鹿か。二千キンで売れたら、その金で何着でも作れただろうが。



 実は「花猫風月」だと同じ作戦が取れない。時間があるときに、どんな作戦なら討伐できるか考えているんだけど、まだ思いつかない。

 それくらい「鮮血の深淵」はバランスがいいパーティーではあったんだ。快進撃と言われるのも納得できた。

 性格と頭が最悪で自滅してんだけどな、ははは。



「大体さぁ、準備にかかった経費を全部トーマに被せてんのがおかしいでしょ。

 その妖精シルクだって、トーマが払ったんだろ?

 せめて、そのドレスを売り払って返せよ」

 ルナが援護射撃をしてくれた。


「とっくに借金のカタに取られたよ」

 ガルドが怒鳴る。

 よく、セリアとヴェリーが手放したな。


「お前らと縁が切れて、ほんと良かったぜ」

 しゃべればしゃべるほど、気持ちが離れていく。

 殺されかけて憎しみに変わったと思っていたが、ほんの少しでも情が残っていたのかと、自分でも驚くわ。



「こんながめつい女、放っておこうぜ。

 俺たち、上手くやってたじゃないか」

 ブルーノが突然、おかしなことを言い出した。


「けっ。『うまくごまかされてた』の間違いじゃないのか?

 お前たちにとって、俺は仲間じゃないみたいだしな。

 ブロンズタートルの運搬方法だって、聞き流した結果、二千キンを稼ぎ損ねて。

 大作を掘るって意気込んでいた芸術家を落胆させて。

 それを楽しみに、大きな妖精シルクを苦労して調達してくれた商人に、無駄骨を折らせたんだぞ」

 聴衆たちに、こいつらの馬鹿さ加減を披露してやる。


「妖精シルクの商人、金が入ったらすっ飛んできて、百キンもぎ取っていったぜ」

 ブルーノが憤慨している。


「それは俺を信用して、一部後払いにしてくれたからだ」

 でも、残金七十のはずだけど。荷物の中にあった契約書をろくに見ずに払っちゃったのか。


 彫刻家が作品を作って売った場合の手数料がパアになったから、腹いせか……それとも、カモだと認定されて、ぼったくられたのか。



「あんたたちに、トーマはもったいないよ!

 もし戻ったとして、今までみたいに搾取してこき使えると思ったら大間違いだぞ」

 ルナが勝ち誇ったようにブルーノを指差して言った。

「そこの大きいの。焼け焦げた鎧を新調できてないんだろ。

 トーマが戻ったら、強請って買ってもらうつもりか?」


 ああ、火傷で鎧を着られないんじゃなく、持ってない可能性もあるのか。

 一度散財を覚えた奴は、立て直すの難しいよな。


 もともと、貯金とかしてなさそうだったし。



「一緒に組んでた二年半の経費。耳を揃えて返せるのか。

 それを精算してからじゃないと、話し合いのテーブルにはつかせないよ」

 ルナが保護者のように見えてきた。

「それから、Cランク目前のトーマとEランクに落ちたあんたたちなら、報酬は等分じゃおかしいよね。

 半分以上トーマの取り分にしても、足りないくらい」


「んな、馬鹿な!」

 ガルドが反論する。本気で、元に戻ると思っていたのか。


「能力を正当に評価するなら、それくらいだね。

 思ったより自分たちの実力が低くて、困ったから頭を下げに来たんでしょうが」



 野次馬たちは事情がわかってきたらしく、参加してきた。

「俺たちなら、その条件呑むぜ」

「一回でいいから、同行してアドバイスくれないか」

「大物倒して、がっぽり儲けたい」



 それらをルナは「仕方ないなぁ」と苦笑いで流し、ガルドには厳しい目を向けた。

「同郷だって言うんなら、トーマの家族に報酬とか遺品を渡すのが当然だろ?

 それを勝手に四人でわけてたら、どうかと思うよ。

 死人に口なし、か?」


 そう言えばそうだ。

 同郷と言って情に縋るというなら、そちらも情を見せるのが筋だろう。



「俺たちを見捨てるのかよ。お前は優しい奴だったろ」

「お前が贅沢を覚えさせたんじゃんか」


 泣き落としのつもりだろうか。微妙に俺のせいだと言われているようで、気分が悪いんだが。


「俺の報酬を使い込んでおいて、何言ってるんだ。

 自分たちが悪いとは、思わないのか?」



「馬車馬のように働いたって、Eランクじゃ、トーマに返すお金も稼げないじゃん。

 Eランクの一年分の稼ぎ、あたいたちなら二回の依頼で達成できるんだよ」

 サァラが口を挟んできた。

 そう、今までの恨みを脇に置いておいたとしても、戻るメリットはない。



「この籠手、トーマのアドバイスを入れて新調したんだ」

 ルナが突然、腕を見せて自慢した。

「あたいは、拳闘グローブを三種類。モンスターに合わせて、使い分けるん」

 サァラが両手を前にして、握ったり開いたりして見せつける。


 自慢げに……はは、まあ、似合ってますよ。

 金は浪費するんじゃなく、こうやって将来の投資に回すもんだろ。



 ふっと耳の横を風が通る。

 サァラが人差し指と中指に小石をはさみ、それをフォンが風魔法で飛ばしたらしい。

 野次馬の後ろの方の一人が、突然倒れる。その手から、投擲用ナイフが落ちた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ