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『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第五章 土下座されても戻らない

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最上級の謝罪?

「頼む。戻ってきてくれ!」

 ガルドは地面に両手をついて、頭を下げた。


 それを見て、ブルーノも苦虫を噛みつぶしたような顔で膝をつく。

 怪我でもしているのか、動きがぎこちない。

「……お前が役に立つってことは、認めてやるから」


 はあ? そんな不承不承言われても、なに言ってるんだとしか思わないんだが。


 ガルドは両手をついたが、頭は下げていない。

 ヴェリーは嫌々、地面に膝立ちになっただけだ。膝上のスカートが汚れないように気にしている。


 東方の謝罪、土下座というやつを聞きかじってやっているんだろうか。

 こいつらに、そんな知識があるとは思えない。


 何を考えている。こんな往来で。



「あらまあ、どうしたんだい。喧嘩はだめだよ」

 夕飯の買い物帰りらしいオバサンに声をかけられた。


 ほう、周りを味方につけようというのか。


「誤解ですよ。

 役立たずとパーティーを追い出されたのに、戻ってこいと命令されたんで断っているだけです。

 奥さんだったら、そんな旦那の元にもどりますか?」

 他人事だと寛容になる人には、自分事にしてもらおう。


「ああ、余計な口出ししてごめんよ。そんな亭主の元に戻ったって、元の木阿弥だぁね」

 奥さんはスタスタと立ち去った。


 宿屋や厨房で、奥さんたちの愚痴をさんざん聞かされてきたんだ。

 これを夫婦喧嘩に見立てれば、どう言えばいいかがわかってくる。


「お前たち口先だけじゃん。

 戻ったら、今まで通りにこき使えると思ってんだろ」


「トーマが支払った経費を、全然払わなかったやつ。繰り返そうとしてるのか?」

 ルナがにらみを利かせた。


 ガルドがさっと青ざめた。

 そのつもりだったんだな。しかも、バレていると思わなかったと。

 とことん、舐められてるな俺。



「まず、今までの経費を精算して、ブロンズタートルのトーマの取り分を払う。

 その用意は、当然あるんだよなぁ?」

 ルナはお金のことをきっちり、きれいにしておきたいタイプだ。


「そうだよな。五人で分けたら二割のところを、四人で分けて二割五分。

 ずいぶんと懐が豊かになったんじゃねぇの?」

 俺の発言で、野次馬たちがざわついた。


 単なる内輪もめじゃないと伝わって、金額の大きさを嗅ぎ取った感じかな。

 報酬でもめて刃傷沙汰ってのも、よくある話だ。



「そんなお金、もうないわよ」

 ヴェリーがふてぶてしく言った。

「装備を一新したし、拠点も構えたら、あっという間になくなったわ」


「返す気も反省する気もないんだな。

 なんで、わざわざ会いに来たんだよ」

 ほんと、不思議だ。


「そ、それは……。

 もう一度、仲間に入れてあげるって言ってんでしょ。素直に戻ってきなさいよ」


「命令できる立場か、よく考えてみろ。

 金だけじゃないぞ。俺の荷物はどうした。

 山猫亭のオヤジさんからもらった特製の火打ち石、使い込んだ包丁……俺の財産だ」

 思い出と誇りが染みこんだ、掛け替えのない物たち。


「古道具屋で二束三文にしかならなかったぞ。お前の自己満足だろう」

 ブルーノが唾を吐いた。

 やっぱり、もう、無いのか。殺したと思ってたんだもんなぁ。

 ……蹴り飛ばしていいかな、コイツ。


 ルナが俺の肩に手を置いた。

 冷静になれ、俺。

 ここで殴って「お互い様」なんて、情状酌量の余地を作ってはいけない。

 それが奴らの作戦かもしれないぞ。



 そんな俺の耳に、とんでもない一言が飛び込んで来た。


「あ、あんたの恋人になってあげても、いいわ」

 一瞬、きょとーんだ。


「お断りだね」

 即断、即決。迷う隙など無い。


 周囲がどっと湧いた。

「お嬢ちゃん、そんなちんちくりんで、『花猫風月』と勝負する気か」

「俺なら相手にしてやってもいいぜ」



 いつの間にか戻っていたサァラも含めて、三人が俺の後ろに立っている。


 ヴェリーは顔を真っ赤にして立ち上がった。

「なんなの、それ?!」


「まさか、お前、全員食ったのかよ」

 ガルドが下品なことを口走る。


「全員とか、してねぇわ!」

 反射的に怒鳴り返す。嘘ではない、一応。


「まとめて三人とは、なんと贅沢な……」

 ブルーノが青筋を立てている。


「お前たちと一緒にするな。

 野営で俺に見張り番をさせて間に、四人でナニしてたんだよ。

 風魔法の防音結界が使えるわけじゃねぇのに、アホか」

 おっと、つい、暴露してしまったぜ。


「いやぁああー」

 と叫んで、ヴェリーが逃げ出した。


 気付いてないとでも思っていたのか?

 俺が防音の魔道具がほしいと言ったときに、無駄遣いだと却下したのを思い出したのか?



 野次馬たちは好き勝手にしゃべっている。

「うん、四人? あともう一人は男か? 女か? ぎゃははは」

「ハーフエルフの女だよ。ギルド新聞に載ってた」

「はぁ、羨ましいこって」



 ガルドがヴェリーを追いかける。

 ブルーノは、ずいぶんゆっくりと立ち上がった。


「お前、怪我してんのか」

 つい、声をかけてしまった。


「ヴェリーにファイアーボールを当てられて、鎧の中で蒸し焼きだ」

 俺を横目で見て、自嘲するように言う。


「それで、まだ、一緒にいるつもりなのか」

「お前の時と違って、わざとじゃないしな。それに、もう、他の奴らは組んでくれないだろう」

 それで、必死にパーティーを維持しようとしているのか。


 もう、俺の知ったことではないけど。

 それに、これ、謝罪じゃないよな? 自分たちの言いたいことだけ喚いて行きやがって。


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