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『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第五章 土下座されても戻らない

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ふざけた話

 路地からガルドが出てきた。俺を待ち伏せしていたのか?

 後ろにはブルーノとヴェリーもいる。


 土地勘がないはずなのに、俺が通る道を予測できるのだろうか。

 殺人未遂の容疑はどうなったんだ?


 疑問ばかりが浮かんでくる。



「お、お前、困ってんだろ? 俺たちの『鮮血の深淵』に戻ってきてもいいんだぜ」

 ガルドが台本を読んでいるような、棒読みで言った。


 なに偉そうに上から目線なんだ、コイツ。ムカムカしてくる。


「戻るわけねぇだろ」

 思わず、低い声が出た。


 できるなら「人を殺そうとしておいて」と怒鳴りつけてやりたいが……捜査はどうなっているんだ?

 泳がせて尻尾を掴もうとしているなら、うかつなことは言えないぞ。



「金がねぇから帰ってこれないんだろう? 迎えに来てやったぞ」

 ブルーノが猫なで声を出す。キモっ。

 コイツ、本当にブルーノか? 変な物でも食ったんじゃないか。


 掲げて見せる財布が怪しい。

 ブルーノは手元に金があったら使ってしまう。ジャラリと音がする、重たそうな財布など似合わない。


 誰か、台本を書いている奴がいる。



「ねぇ、戻ってきたら、いいことしてあげるからさぁ」

 マジでなんなの? サブイボ出るわ。


「いらねぇよ」

 反射的に答えてしまった。

「あ、あたしがせっかく言ってあげてるのに!」

 やかましいわ。今となっては、頼まれてもごめんだね。



 フォンがサァラに小声で指示を出している。

「オリーブオイルじゃなく、ごま油の匂いのする人間を捜して」

「トーマを見つけたときの匂いねん」

 サァラが気配を消して、人混みに入っていった。


 俺の故郷のレスタール王国はごま油を料理に使い、山を挟んだこちら側はオリーブオイルが中心だ。

 そんな話を覚えていてくれたんだな、と胸が熱くなる。



 あいつらの「鮮血の深淵」にいた頃は、食材の話なんか誰も聞いちゃいなかった。

 肝心の討伐作戦だって聞き流されたり、とにかく不愉快な思い出ばかりだ。



「なに拗ねてんだよ。俺たち、幼なじみだろ?」

 ガルドが伸ばした手を、パッと振り払う。

 サァラに格闘術を教えてもらって、以前より様になっていると思う。

 ガルドが信じられないという顔をした。



 斜め後ろで、ルナが半月刀を抜きかけた、チィンという音がした。

 はは、豪勢な護衛だな。



「あれ、さっき『鮮血の深淵』っつったか? 一年前にギルド新聞に出てた奴じゃん」

 野次馬から声が飛んだ。

「ああ、ほんとだ。『便利』君のいるパーティーだろ。もうすぐCランクってやつ」


 ちょ、「下ごしらえ」だってば。

 ルナが吹き出したぞ。


「お前ら、情報が古いな。

 一瞬Cランクになったけど、すぐにDランクに降格して、連続五回失敗してEランクだ」

 お、山猫亭のオヤジからの手紙を届けてくれた行商人さんだ。


 なるほど。冒険者ギルドで情報収集できなくても、商人から色々聞けるじゃん。


 てか、え? Eランクかよ。


「そう言えば、ブルーノ。鎧を着てないんだな」

 討伐に行かない日でも着ていた鎧。盾役の象徴だとか、常に油断しないとか言っていたのに。


「お前には、関係ねぇ!」

 顔を真っ赤にして怒鳴られた。


「そうだな。関係ない。じゃあな」


「ま、待ってくれ!」

 ガルドが叫ぶ。


 そうして、悔しそうな顔のまま、地面に膝をついた。


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