ハーレムパーティー
女性三人のパーティー「花猫風月」と行動を共にするようになって一ヶ月が経った。
まだ、パーティーに正式加入するのは気が進まないが、「鮮血の深淵」から脱退する手続きだけはしておこうと決めた。
あいつら、初めてパーティーを組む俺を食い物にしていたんだ。
ガルドとブルーノが同郷だから、ひどいことはされないだろうと思っていた部分がある。
そこは、俺の甘さだ。
もう、絶対に戻らない。
殺人未遂容疑がかけられている状態で、冒険者活動ができるのかは知らない。
あいつらに「仲間内のちょっとした行き違い」なんて、責任逃れをさせるもんか。
パーティーメンバーの一人が指名手配犯だったし、俺の殺人未遂事件の捜査もあって、「鮮血の深淵」のパーティー情報は規制がかかっている。
パーティーは解散したのか、継続しているのか、俺は死亡時に自動的に脱退扱いになっているのか――それすらわからない。
ともあれ、申請だけはした。
気持ちの整理をつけるためにも、絶縁宣言をしたかった。
「すっきりした顔してるにゃん」
書類を提出した俺を見て、サァラが背中をポンと叩いた。
「で、あたいたちの仲間になるん?」
「いや、それは……」
冒険者ギルドの受付の近くで、この会話だ。
ぎりっと嫉妬の矢が飛んできてる。もう、一斉射撃の勢いだ。やめてくれ~。
そう思いつつも、他に頼れる人のいない隣国。
「花猫風月」の依頼に参加させてもらう日々が続いた。
しばらくして、ギルドマスターの部屋に呼ばれた。
「エレッサの支部が、パーティー脱退申請の取り下げを要求してきたぞ」
ギルドマスターは呆れたように、唇を片方だけあげた。
「どういうことですか?」
「冒険者ギルドのエレッサ支部より上――おそらくレスタール国が、お前を捕まえておきたいんだろう」
「冒険者を国に縛り付けることは、できないですよね?」
「そうだ。そのために冒険者ギルドがある。
だが、ブロンズタートルに味を占めたんだろうな。
国が欲しがるSランクやAランクの場合は、戦闘力的に縛り付けられない。他国からも横やりが入る。
お前がDランクだから、囲い込んで脅せばどうにかなると思ってんじゃねぇか」
普通のDランクは注目されないし、庇護してくれる権力とも繋がりがない。クランの発言力が強ければはねのけられるが、俺にはそれもない。
エレッサ支部には不信感を持ってしまったし、「鮮血の深淵」になんかこれ以上関わりたくない。
「エレッサ支部に戻って、使い込みの捜査に協力しろとも言っている」
ギルドマスターの声には、呆れが滲んだ。
「被害者の俺が行く意味がわかりません」
怪我で呻いている間に死亡扱いにされ、死亡手続きをしないで口座の金を使い込まれたんだ。
何か気がついたこととか、予防できなかった俺も悪いとか、そんなわけねぇだろ。
「そのまま身柄を拘束されるか、下級貴族の娘と既成事実でも作らされるかだろ」
ギルドマスターはゾッとするようなことを、しれっと言った。
「冗談じゃないです!」
ギルドマスターは、我が意を得たりというようにニヤッと悪巧みをするときの顔をした。
「そこで、提案だ。お前『花猫風月』に加入申請を出せ」
「前のパーティーを脱退しているか不明なのに、ですか?」
より一層、ややこしいことになるんじゃないか?
「お前が、自分の意思で『鮮血の深淵』と縁を切りたいと思っていると、他人にも見えるようにしろってことだ。
次の国際会議で、冒険者ギルドの本部とファルガン国から、抗議してやるよ」
また、更に話が大きくなってる!
「トーマは嫌なの? かなりいい感じのチームワークじゃん」
ルナがあっさり言う。そう思ってくれているのか。正直、嬉しい。
「私たちのパーティーに加入したら、Cランクに上がりやすいはずよ。そうしたら、隣国の横柄な態度も少し変わると思うわ」
フォンが冷静に利点を説く。
「ああ、そういう利点もあるな。Cランクのモンスターを討伐する機会が増えるわけだし、上の連中から学ぶと早いぞ」
ギルドマスターが上乗せしてくる。
「いや、それって、俺自身の実力じゃないですよね」
そんな、後ろ暗いのはお断りだ。
「単純な戦闘力だけじゃねぇぞ。
『コイツがいたら、このランクのモンスターを討伐できる』って目安なんだから、問題ない」
え、そういうことなのか……知らなかった。てっきり戦闘力の目安だと。
「何が引っかかってるん?」
サァラが口を尖らせた。
「あの、こういうの、ハーレムパーティーって言いません? 女性ばっかりに囲まれて。
なんか、軟派な感じが……ちょっと」
たまにいるけど、いけ好かないと思ってたんだよ。軟弱者め、冒険者の風上にも置けないって……。羨ましいとかじゃなくてさぁ。
「つべこべうるさい。加入申請を書くにゃ!」
「はい!」
「こんな……流された気がするんだが。いいのかな」
加入申請の書類にサインして、ギルドマスターに渡す。
「誰も反対してないだろうが。まあ、野郎どもには、やっかまれるだろうが。今だってそうだろ」
ギルドマスターはニヤニヤしている。そういえば、俺が絡まれているのを見かけても、同じ顔をしてたな。
「……ですね。改めて、よろしくお願いします」
腹をくくって、メンバーに頭を下げた。
「こっちこそ、よろしくな」
ルナが手を出したので、握手をした。
「じゃあ、加入を祝って飲みに行こう!」
「わーい。歓迎会だにゃ」
ルナが拳を突き上げ、サァラもそれに倣った。
フォンが俺の方を振り返った。
「今日はトーマの好きなお店にしましょう。どこがいいかしら?」
じんわりと、胸の中に温かいものが広がる。
俺、メンバーになったんだなぁ。今度こそ、ここが俺の居場所だ。
どこに行くか、わいわい話しながら冒険者ギルドを出たところで、声をかけられた。
「おい、待てよ」
もう顔も見たくない――ガルドだった。




