面接
紹介してもらった宿屋は、冒険者たちが多くいる区域にあった。
一階が食事処、二階が宿になっている典型的な宿屋だ。
がたいのいいオヤジさんが、「おう、待ってたぞ」と迎えてくれた。
顔に傷があり、足を少し引きずっている元冒険者だ。
「よろしくお願いします!」
まずは元気に挨拶をして、好印象を残したい。
「元気だな。まあ、座れや」
座る前に、さっと紹介状を差し出す。
ざっと目を通すのをドキドキしながら待った。……なんて書いてあるんだろう。
「ふむ。こちらとしては、住み込みの従業員が欲しいわけだが。どうだ?」
もちろん、住み込みはありがたい。
だが、ここで自分の希望を伝えないと。
商人さんたちからも、後出しで要望を出すのは信用を落とすと聞いたし。
「はい、住み込みで大丈夫です。
ただ、希望というか夢がありまして」
緊張で頭に血が上り、声が震えてしまう。
「僕のスキルは『下ごしらえ』ですが、冒険者になってみたいのです」
言ってから、心臓がどくんと鳴った。
村では、なれるわけがないと二年間ずっと笑われてきた。
村の宿に泊まったお客さんだって、応援して一緒に考えてくれる人も、笑って酒の肴にするだけの人もいた。
「こちらで働かせていただいて、半年くらい経って効率よく仕事ができるようになったら、お客さんの少ない日に休ませてほしいのです。
その日は給料から抜いてもらって、冒険者として活動したく思います。
だ、駄目でしょうか?」
一気に早口でしゃべったので、喉が渇いて痛いくらいだ。
「いいぜ。
客の入りには波があるから、少ない日に給料なしでいいっていうのは、悪くねぇ。
まあ、半年で一人前になれれば……の話だぞ」
「ありがとうございます!」
オヤジさんはニヤリと笑った。
「じゃあ、夕方の忙しい時間になる前に、ギルドに登録に行くか」
従業員用の部屋に荷物を置き、少し離れた商人街のギルドに向かった。
オヤジさんは少し足を引きずっているが、体が大きいせいか歩くのが速い。
早足で一生懸命に追いかけている自分がいかにも子どもで、少し恥ずかしかった。
商業ギルドで発行されたタグを首にかけると、ぐっと大人になった気がする。カッコいい。
これは、遠回りになっても、冒険者への第一歩だ。