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『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第四章 ハーレム状態

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討伐のあと

 トレントの討伐証明部位は幹の中にある魔核だ。

 フォンの魔力が回復したら、幹を切り刻んで取り出してもらおう。


 全力を出し切って、連携もうまく噛みあったと思う。

 討伐を終えた後の達成感は、何度味わってもいい。「やったぞー」と叫びたくなる。



 しばらくぼーっとして一息ついたので、意地でも飯は作る。

 疲れているからこそ、食べた方がいい。

 簡単な物しか作れないが、とにかく筋力を回復するようなものを……。


「ポーションをかけるから、一度落ち着きなさい」フォンが厳しい声を出した。

 ん? 俺に向かって言っている?

 サァラを受け止めたときに勢い余って、木にぶつかったけど、擦り傷だぞ。


「いや、ポーションを使うほどでは……」

 背中の痛みより、足の疲労がすごくて座り込んでいたくらいだ。

 水を汲みに行くついでに、川で洗い流せばいいと思っている。


 ルナに鍋を奪われた。

「怪我人を働かせるほど、極悪人じゃねぇわ。

 簡単なものなら、今までだって作ってたんだし」


 あれ? 怪我したの俺だけか。

「サァラの具合は?」


「心配だから、二人は横になってな。フォンだって魔力が回復してきたら手伝ってくれるだろうし」

 ルナは空の鍋をぷらぷらと揺らした。



「鮮血の深淵」では、怪我を手当てするより先に飯を作れと言われて、それが普通だと思っていた。

 そうか。普通は、こんな感じなんだな。


 俺はうつ伏せになって、顔を隠した。


「はい、かけるわよ」というフォンの声がして、服を脱がされた。水をかけて小さな木片をとってからポーションをかけられる。

 皮膚が再生する感じがくすぐったい。


 こんなふうに、労られたことはない。

 俺は、嬉しいのか悲しいのかわからなかった。




 翌日、鉱山に寄って、責任者に依頼完了のサインをもらう。


 魔核の売却先は鉱山でも冒険者ギルドでも、俺たちが好きに選べる。

 今回は、鉱山側では買わないそうだ。

「この先もトレントが出たときのために、討伐依頼料を確保しないといけないんでな」と鉱山の責任者は笑った。


 余裕があれば買っておいて、いつか現れるかもしれない売却希望の人に売ることができる。

 ただ、そんな人がいつ出てくるかわからないので、今回は見送るとのこと。


「この魔核は傷もないし、高く売れるといいな」

 がははと笑って、鉱夫たちの弁当を四つ分けてくれた。


 それを持って、荷馬車の屋根に乗る。

 来るときは積み荷が少なかったから荷台に乗れたが、帰りは鉱石が満載なので場所がない。

 歩くよりは楽だからと屋根で揺られた。


 馬車の揺れが気持ちよくて、うつらうつらと船をこぐ。

 だが、急に馬車が揺れるので、ハッとして屋根を掴む。

 御者から「大丈夫かね~」とあまり心配していなさそうな声をかけられ、「冒険者ですから」と返す。

 笑い声が起きて、のんびりとした時間が流れていった。




 冒険者ギルドに依頼主の完了確認のサインを提出すると、依頼料と魔核の代金がどさりと置かれた。

 おお、Cランクだと依頼料もすごいな。



 ルナが代表でその袋を持ち、さっと廊下に面した小部屋に移動した。

 他の二人も当然のようについていくので、それに倣った。


 中央に木のテーブルがあり、椅子が六脚並んでいる。

 壁際にも椅子があるので、十人くらいの会議室か。



「さて、分配しよっか」

 ルナが袋からテーブルの上にじゃらりとコインを広げる。


 驚いている俺に、フォンが説明してくれた。

「報酬の分配でもめて、喧嘩になることもあるでしょう? 

 ギルドの中なら職員が止めに入って最悪の事態を防げるし、第三者として双方の言い分を審判をしてもらえる。だから、冒険者の話し合いのための小部屋があるのよ」

「酒場で山分けしていると、関係ない奴らが絡んでくるしねん」

 サァラも付け加える。


 なるほど、合理的だ。

 この小部屋は、全ての冒険者ギルドに作ってほしい。



「じゃあ、まず、トーマは今回の経費を取って」

 ルナがコインの山を指差した。


「え、俺から? あ、経費……」

 言われていることはわかるが、動けなくなってしまった。


「どしたん? 前のパーティーではやってなかったん?」

 サァラが「まさかね」とでも言うように、無邪気に問いかける。有り得ないと思っているようだ。


 だが、その、まさか……だ。


「……等分するだけだった。経費は俺の取り分に含まれてて」


 フォンが険しい顔をした。

「それは、フェアじゃないわね。

 前準備をした分、つまり真面目に働けば働くほど、トーマが損をする仕組みになっていた」


 ルナがドンとテーブルを叩いた。

「許せねぇな」



 俺は自分の間抜けっぷりに、ショックを受けていた。

 なぜ、指摘されるまで気付かなかったんだ。


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