討伐のあと
トレントの討伐証明部位は幹の中にある魔核だ。
フォンの魔力が回復したら、幹を切り刻んで取り出してもらおう。
全力を出し切って、連携もうまく噛みあったと思う。
討伐を終えた後の達成感は、何度味わってもいい。「やったぞー」と叫びたくなる。
しばらくぼーっとして一息ついたので、意地でも飯は作る。
疲れているからこそ、食べた方がいい。
簡単な物しか作れないが、とにかく筋力を回復するようなものを……。
「ポーションをかけるから、一度落ち着きなさい」フォンが厳しい声を出した。
ん? 俺に向かって言っている?
サァラを受け止めたときに勢い余って、木にぶつかったけど、擦り傷だぞ。
「いや、ポーションを使うほどでは……」
背中の痛みより、足の疲労がすごくて座り込んでいたくらいだ。
水を汲みに行くついでに、川で洗い流せばいいと思っている。
ルナに鍋を奪われた。
「怪我人を働かせるほど、極悪人じゃねぇわ。
簡単なものなら、今までだって作ってたんだし」
あれ? 怪我したの俺だけか。
「サァラの具合は?」
「心配だから、二人は横になってな。フォンだって魔力が回復してきたら手伝ってくれるだろうし」
ルナは空の鍋をぷらぷらと揺らした。
「鮮血の深淵」では、怪我を手当てするより先に飯を作れと言われて、それが普通だと思っていた。
そうか。普通は、こんな感じなんだな。
俺はうつ伏せになって、顔を隠した。
「はい、かけるわよ」というフォンの声がして、服を脱がされた。水をかけて小さな木片をとってからポーションをかけられる。
皮膚が再生する感じがくすぐったい。
こんなふうに、労られたことはない。
俺は、嬉しいのか悲しいのかわからなかった。
翌日、鉱山に寄って、責任者に依頼完了のサインをもらう。
魔核の売却先は鉱山でも冒険者ギルドでも、俺たちが好きに選べる。
今回は、鉱山側では買わないそうだ。
「この先もトレントが出たときのために、討伐依頼料を確保しないといけないんでな」と鉱山の責任者は笑った。
余裕があれば買っておいて、いつか現れるかもしれない売却希望の人に売ることができる。
ただ、そんな人がいつ出てくるかわからないので、今回は見送るとのこと。
「この魔核は傷もないし、高く売れるといいな」
がははと笑って、鉱夫たちの弁当を四つ分けてくれた。
それを持って、荷馬車の屋根に乗る。
来るときは積み荷が少なかったから荷台に乗れたが、帰りは鉱石が満載なので場所がない。
歩くよりは楽だからと屋根で揺られた。
馬車の揺れが気持ちよくて、うつらうつらと船をこぐ。
だが、急に馬車が揺れるので、ハッとして屋根を掴む。
御者から「大丈夫かね~」とあまり心配していなさそうな声をかけられ、「冒険者ですから」と返す。
笑い声が起きて、のんびりとした時間が流れていった。
冒険者ギルドに依頼主の完了確認のサインを提出すると、依頼料と魔核の代金がどさりと置かれた。
おお、Cランクだと依頼料もすごいな。
ルナが代表でその袋を持ち、さっと廊下に面した小部屋に移動した。
他の二人も当然のようについていくので、それに倣った。
中央に木のテーブルがあり、椅子が六脚並んでいる。
壁際にも椅子があるので、十人くらいの会議室か。
「さて、分配しよっか」
ルナが袋からテーブルの上にじゃらりとコインを広げる。
驚いている俺に、フォンが説明してくれた。
「報酬の分配でもめて、喧嘩になることもあるでしょう?
ギルドの中なら職員が止めに入って最悪の事態を防げるし、第三者として双方の言い分を審判をしてもらえる。だから、冒険者の話し合いのための小部屋があるのよ」
「酒場で山分けしていると、関係ない奴らが絡んでくるしねん」
サァラも付け加える。
なるほど、合理的だ。
この小部屋は、全ての冒険者ギルドに作ってほしい。
「じゃあ、まず、トーマは今回の経費を取って」
ルナがコインの山を指差した。
「え、俺から? あ、経費……」
言われていることはわかるが、動けなくなってしまった。
「どしたん? 前のパーティーではやってなかったん?」
サァラが「まさかね」とでも言うように、無邪気に問いかける。有り得ないと思っているようだ。
だが、その、まさか……だ。
「……等分するだけだった。経費は俺の取り分に含まれてて」
フォンが険しい顔をした。
「それは、フェアじゃないわね。
前準備をした分、つまり真面目に働けば働くほど、トーマが損をする仕組みになっていた」
ルナがドンとテーブルを叩いた。
「許せねぇな」
俺は自分の間抜けっぷりに、ショックを受けていた。
なぜ、指摘されるまで気付かなかったんだ。




