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『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第四章 ハーレム状態

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秘密は隠せない

 俺の生存は、冒険者ギルドの上層部にだけ知らせることになった。

 一般の冒険者たちは知らない状態で、泳いでもらう。


「あ、商業ギルドにも口座があるんで、そちらにも生存を伝えたいのですが」

「ん? ああ、アーデンの凱旋の時にホテルで働いてたんだっけか。お前、万能だな」

 ワイバーン討伐の時は、こちらの冒険者ギルドからも冒険者を派遣したそうだ。


「目立たずに手続きした方がいいな。うちの職員を一人つければ話が早いか。

 おい、今からこのトーマと行ってこい」

 ギルドマスターは、魔道具を片付けようとしていた職員に声をかけた。



「じゃあ、終わったらさっきの食堂に集合な」

 剣士のルナが、戸惑っている俺に向かって言った。



 パーティーメンバーでもない自分が、どこまで一緒に行動していいのかわからない。

 迷惑じゃないか気になっていた。


 しばらくは、仲間として行動していいってことだよな?


「はい。では、またあとで!」

 なんだか、嬉しくなって、声が弾んでしまった。


 知らない街どころか、知らない国だ。自覚はなかったが、そうとう心細くなっていたらしい。




 商業ギルドの方は、しっかりと死亡手続きが取られていた。

 ここでも魔道具で本人確認された。

 ただ、経緯を報告して、外国にあるギルド本部の審査を通らないと口座凍結は解除できないと言われる。


 商業ギルドでは、街道で襲われて死亡手続きをしたあとに、本人が生還することがあるそうだ。

 一方で、他人がなりすますこともあるので、審査は慎重に行われるという。



 冒険者ギルドの職員が、商業ギルドの職員に事情を説明して協力を求めた。

「お恥ずかしい話ですが、冒険者ギルドの冒険者と職員の不正を調査中です。

 泳がせて尻尾を掴みたいので、トーマ君の生還という情報は上層部だけで留めてください」


「そうですか。

 トーマ氏には、ブロンズタートルの素材を理想的な状態で確保する方法を考案した功績があります。

 重要保護対象として扱うことに、反対意見は出ないでしょう。

 むしろ、この街に拠点を移していただくために、便宜を図ります」


「ああ、それはいいですね。

『鮮血の深淵』が拠点にしているエレッサの冒険者ギルドは、依頼を失敗する率が減って、生還率が上がったんですよ。何か、知恵を授けていたんでしょうね、きっと」


 二人の目が、ギラリと光った気がする。

 ……俺は、獲物でも取引材料でもないですよ?




 便宜を図ってもらえてありがたいが、精神的に疲れた商業ギルドを出た。


「しばらくは、ルナさんたちのお世話になるしかないか」

 商業ギルドでもお金を下ろせなかったのだ。

「羨ましいですよ。

 ああ、恩返しなら、彼女たちが依頼を受けたときに『下ごしらえ』でサポートすればいいんじゃないですか?」

 冒険者ギルドに帰る道すがら、職員さんに言われた。


「そっかぁ。そういうやり方もありですね」




 そのまま二人で、冒険者ギルドのギルドマスターの部屋に行った。


 軽く報告をしてから、待ち合わせ場所に行けばいい。

 そんなことを考えて、少し浮かれていたかもしれない。



 ノックして部屋に入ったら、ギルドマスターが頭を抱えていた。

 残った方の職員は、別の魔道具を操作している。


「ああ、戻ったか。

 商業ギルドの口座は使えたか?」

 ギルドマスターがぎこちない笑みを、無理矢理作った。


「もう、恥かきましたよ。

 あちらは死亡手続きも口座凍結もしっかりしていて」

 職員が、くだけた口調になった。


「エレッサ支部に苦情を入れておくか。ちゃんと処理しろって。

 まあ、今回は本人が生きてたから、取り消し手続きをしないで済んだが……。

 そんなことより、大昔の指名手配案件が浮上してきたぞ」

 ギルドマスターは頬杖をついて、面倒くさそうに言った。


 魔道具を操作していた職員が、そこから出てきた紙をギルドマスターに渡す。


「弓使いのセリア、ハーフエルフって言ってたんだよな?」

 その紙を睨みつけながらギルドマスターに訊かれた。

「え……ええ、はい」

 突然の話題に対応が遅れる。



「ハーフエルフじゃなく、エルフだとしたら、五十年前に花嫁と花婿を殺して逃げた指名手配犯だ。エルフの森に近い冒険者ギルドから、照会が来た」

 本部に来た照会を転送してもらったと、受け取ったばかりの紙をひらひらと振った。


 魔道具の職員が、トーマに説明する。

「ハーフエルフは立場が弱いので、エルフと偽証することがあります。そちらはチェックが厳しいのですが……。

 逆にするメリットがないので、ハーフエルフと自称した者を調査することはありません」



 トーマが育った村も、山猫亭がある街も人間が主体の田舎だった。

 地方都市のエレッサで初めてエルフを見たので、エルフとハーフエルフとの違いがわからない。


 職員はそこを詳しく説明する気はないらしく、話を進めた。

「ブーツと矢を研究機関に送りました。抽出したマナが指名手配犯と一致したら、トーマ君の件とは関係なく捕縛します」


 研究機関、マナと知らない言葉が出てきた。


 ついて行けていないトーマに気付いたらしく、一緒に商業ギルドに行った職員が説明してくれた。

「普段は意識しないと思いますが、生物はマナというエネルギーをまとっています。

 一人一人違うので、マナで人を判別する技術は冒険者タグにも使われていますよ。

 犯罪者のマナは研究機関の犯罪部門に登録されているんです。冒険者以外の分もまとめて」


 すごい。そういう仕組みだったのか。


 ふと、思い出した。

「……そういえば、ためらわずに撃ってきたかも」

 ブルーノでさえ、一瞬ためらった気がする。それをセリアが煽っていた……!


 取材の時に仮面をつけたり、目立つことを嫌っていたりしたのは、そのせいだったのか。

 いろいろなことが繋がって、納得できてしまった。



「人生、辛いことや困難なことは何度も起きる。

 人を殺して逃げるなんて安直な方法を一度でも取ったら、解決のために努力するより繰り返す方が楽なんだ」


 ギルドマスターが見せてくれた手配書には、「セリウィエラナ」という犯人の名前と結婚式に乱入して多数の死傷者を出したと書いてある。

 似顔絵は……セリアにしか見えなかった。


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