野営
三泊のうち中日は宿に泊まったが、初日と三日目は野営だ。
村長の息子さんに指示されて、水をくんだり薪を拾ってきたりはしたが、料理の段階で手伝いをやめてしまったのが数名。
冒険者希望のやつらと、村ではモテていたリリナだ。
お前ら、冒険者になるのに、野営で料理しないつもりか? これだって、練習になるだろうに。
リリナは何しに街に行くんだろう?
他の女の子たちは、親戚のところで修行するとか目的がはっきりしているけど。
三日目には、火の起こし方も野菜の洗い方も、初日より手際がよくなった。
「トーマ君、料理得意なんだね!」
職人に弟子入り予定の子が感心したように言う。彼の剥いている芋は身が少なくなっていた。
「まあ、『下ごしらえ』は得意だよ」
冗談めかして返したけど、心の中ではちょっと誇らしかった。
俺のスキルが、役に立つ場面だ。
「住み込みで働くなら、家事もやる必要が出てくるかもしれない」
「おかみさんがやってくれる職場とは限らないもんね」
「一人暮らしで、職場に『通い』ってこともあったりして?」
そんな話題になると、大丈夫そうな子と不安げになる子にわかれた。
一つ一つ覚えていくしかないよね、結局そんな話に落ち着くんだ。
俺は宿屋で働かせてもらったから、その点では心配がない。ありがたいことだ。
希望と不安を語りながら、それぞれの器にスープをよそっていく。
料理を手伝わなかった奴らにも声をかけ、食事が始まった。
「ようやくできたか。腹ぺこだぜ」
料理した人に対して、労いもお礼も言わないガルドにむっとしてしまう。
家で母親にもそう言っていたんだろうが、この場でその振る舞いはどうなんだ?
料理をした俺たちは、遊んでいた連中に対して、なんとなく面白くない気持ちになっていた。
村長の息子さんが間に入り、「料理を手伝わなかった分、片付けをやるように」と言ってくれた。
こちらに顔を向けて「わかってる」と言うようにうなずくので、毎年、こんな感じなんだろうな。
わだかまりも消え、楽しく食事をとることができた。
一方で、リリナは、食後も不機嫌そうにして、片付けを手伝わなかった。
靴擦れの痛みがまだ残っているらしい。
この期に及んで、お姫様気分はどうなのかな?
あ~あ、ガルドが面倒見てるわ。
「なんかあったら言えよ」って……言ったら解決できるんか?
お前、真っ先に水を切らして、息子さんにもらっていたじゃん。
村の中で頼りがいがあるように見えたガルドも、可愛いと思ったことがあるリリナも、村を出てから見方が変わってしまった。
なんかさぁ、子どものままじゃ、やっていけない気がするぞ。
ここから変わって、自分でやるって思わないといけないんじゃないかな。
まあ、スキルがわかってから俺の言うことは聞いてくれなくなったから、言わないけど。
翌日。
街の城壁が見えたとき、みんなが歓声を上げた。
俺も胸の奥が熱くなる。
ここからが本番だ。
城壁の手前で、村長の息子さんから村の出身証明書が手渡された。
「街に着いたら、それぞれの職場に行くか、俺が予約している宿の大部屋に着いて来い。
俺が滞在する三日間は相談に乗る。その間に仕事を見つけて、住む場所を決めるんだ。
仕事を見つけたら、それぞれのギルドで登録する必要があるから、そのときに出身証明書を提出するように」
緊張が走る。
俺は覚悟を決めて、荷物を背負い直した。
村の宿屋に書いてもらった紹介状と出身証明書をポケットに入れて、深呼吸する。
「出身証明書って、なくすとどうなるんですか?」
子どもの中から質問が出た。
「ギルドの登録料が倍になるぞ。うちの親父が心を込めて書いたから、なくすなよ」
今まで厳しい顔をしていた息子さんは、無事に街に到着したせいか笑顔を見せた。
村長の息子さんを先頭に、門番に出身証明書を見せて通してもらった。
「この街の住人になるんだな。歓迎するぞ」
迫力のある門番に、ガルドが肩を叩かれていた。ちょっと……いや、かなり痛そうだ。
「あたし、こっちだから。お互い、がんばろう」
「僕は……あっちかな。またね」
行き先がはっきりしている人から去って行く。
俺は街に来たのが初めてなので、どちらに進めばいいかわからない。
村長の息子さんに教えてもらい、道中のお礼を言ってわかれた。
リリナがちらりとこちらを見た気がするが、気のせいだろう。
ここから、新しい生活が始まるんだ。




