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『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第四章 ハーレム

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山の暮らし

 薬を飲んで三日ほど寝込んでいたらしい。

 高熱でうなされて、記憶はおぼろげだ。

 だが、かいがいしく面倒を見てもらったのはわかる。


 フクロウ獣人のばあちゃんが診にきてくれた。

「骨、筋肉、内臓は修復できたみたいだね。皮膚は再生できていないのか」


 背中の火傷や矢で削られた足の皮膚は、今も疼いている。腹の痛みは引いたが、青あざが青緑に変わり、我ながら不気味な色だと思う。


「タートル系のモンスターの皮膚が手に入らなかったからねぇ」


 ああ、先日倒したブロンズタートルはどうなったんだろう。


「いえ、ここまで治していただけたら、後は時間の問題だと思うので。

 ありがとうございました。

 ……ところで、お代の方なんですが、おいくらでしょう? 冒険者ギルドと商業ギルドに行けば多少の貯金はあるんですが、今は小銭しかなくて」

 正直に話した。

 ポケットに入っているのは、一食分くらいの小銭だ。


 ばあちゃんはヤマネコ獣人のサァラと顔を見合わせた。

「なんとも律儀な坊主だこと。

 ヒト族に利くか試したかったから、治る経過を調べさせてくれたらいいよ」

「あたいもちょっと手伝ってくれたら、食費くらいでいい。

 ――って、あんまり食べてないか。じゃあ、水代?」


 温かい。笑い飛ばしてくれて、涙が出てきた。


「まだ、完全に回復していないんだから、寝ておきな」


 ばあちゃんに言われて、そのままベッドに潜り込んだ。

 腕で目元を覆った。

 最近、泣いてばかりだ。

 でも、今日のは絶望の涙じゃない。




 数日経ち、食堂のテーブルに座って食事ができるまで回復した。


 サァラに、どうして滝の裏に逃げ込んだかを簡単に説明する。

「俺が戦闘系のスキルじゃないのに、注目を集めたのが気に入らなかったらしい。

 前準備とか野営の手配をしているのを認めてくれてなくて、役立たずに報酬を分けたくないって」

 言ってて、情けないな。から笑いをして、薬草茶を飲んだ。


「それって、仲間が殺そうとしたってこと? 野党に襲われたんじゃなくて」


 改めて言われると、胸がずきんと痛んだ。

「……そう、だな」


「許せにゃい。パーティーメンバーを裏切るなんて」

 サァラは毛を逆立てて、目を吊り上げて怒った。

「五日後、あたいのパーティーメンバーと街で待ち合わせてるんにゃ。

 一緒に来て、冒険者ギルドに訴えに行こう。

 それまでに、ばあちゃんに怪我の状態を書いてもらって、持っていくよ」


 サァラは両手をバンと机につき、立ち上がるなり駆けだしていった。


「は、速い……」

 口を挟む隙がなかったぞ。



 ありがたく思いながら、二人分のカップを洗った。


 開けっぱなしのドアから、ネコ獣人の男がのぞき込んできた。

「やぁ、サァラはいないんか?」


 濡れた手を振り、雫を飛ばしてから向き合った。

「今、ちょっと出かけてて」


「ふ~ん、そっか。……お前、今、サァラんちに泊まってんの?」

「あ、はい。えっと、すみませんが、お名前とサァラとのご関係を……」

 悪意は感じないが、俺はパーティーメンバーの憎悪に気付かなかったポンコツだ。

 質問されて、恩人の情報をペラペラしゃべるのも良くない。


「ん~、幼なじみ。まぁ、今回はお前なのか。わかった。邪魔したな」

 男は不思議なことをつぶやいて帰っていった。



 たかだかカップを洗っただけだが、疲れたので昼寝をすることにした。

 体力が落ちているのか、回復しきっていないのか。

 数日後に街に行くのだから、早くなんとかしないとなぁ。



「さて、明後日にはここを立つ。準備はいいか?」

 サァラが手を腰に当てて、ちょっと偉そうだ。尻尾がゆらゆらして、可愛い。


「準備と言っても、俺は持ち物が無いし。野営の道具と食材は、明日、再確認しよう。

 サァラの荷造りを手伝おうか?」


「違うにゃ! ばあちゃんの診断書と矢尻とブーツと胸当て。犯罪を暴く準備だにゃ」

 サァラは、実に面倒見がよかった。


「ああ。いろいろありがとな」

 彼女がいなかったら、俺はいまごろ生きていないかもしれない。


「ん。明日は、出発のために早く寝る。

 だから、ゆっくりできるのは今日だにゃん」

「……? そうだな?」


 サァラが、こちらへ身を乗り出してきた。

「あたいにお礼したいって言ってたよね?」

「おう。当然だ。何をすればいい?」

 世話になりっぱなしというのも、居心地が悪いものだ。恩返し、もちろん張り切って、させていただきますよ。



「今、あたい、発情期なんだにゃ」


 突然の暴露。……対応できずに固まった。


「お相手……してくれるかにゃ?」

 首をかしげて、上目遣い。

 あざとくて好きじゃないポーズだと思っていたけど、これは……勝てっこない。


「あ……はい」

 ようやく、それだけを絞り出した。


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