もう、死にたい俺
体が熱い。いや、寒い?
背中が痛い。腕も、腹も。
喉が熱くて、呼吸をするのもシンドイ。
「にょ。目が覚めた?」
……猫耳が見える。
俺、ベッドの中にいるな。
えーと、夢か?
夢ならこの激痛はなんだ。
ああ、殺されかけたんだっけ。
なら、ここは?
「ばあちゃーん、起きたよぉ」
猫耳は、扉の外に向かって呼びかけている。
ゆっくりと近づく足音がした。
現れたのは、背中に鳥の羽を生やした獣人だ。
ぐったりと動けない俺の腕を取ったり、目の下側の皮膚を引っ張ったりしていく。
爪が鋭くて、ちょっとチクチクした。
「傷口から、良くないものが入っちまってるね。獣人ならこの薬で治療できるんだが、人族だとたまに悪化する者がいるんだ。
どうするね?」
熱があるのか、頭がぼーっとする。
それ、人間でいうエリクサーみたいな万能薬のことじゃないか?
「……そ、んな金……ない……」
「あとねぇ、体にどんな影響が出るかわからないのさ」
俺の言葉が聞こえていないのか、鳥人は話し続ける。
「うまく利いたとしても、数日は高熱で苦しいかもしれないけどね。ケロリと治る人間もいるから、それも不思議だよ」
俺の目の前で瓶を振る。
「さて、どうするね?」
どう、と言われても。
体がシンドイ。ものを考えようとすると頭まで痛くなる。
治ってどうする。
殺されるほど憎まれていた。武器を向けられ、魔法で攻撃される。
敵を見るような目。獲物を狩るような視線。
……恐怖と絶望を思い出した。
もう、どこにも帰る場所がない。
俺なんか、生きてても意味がない……。
涙がこぼれた。
もう、どうでもいい。
「……生きて、いたく……ない」
べしりと頭をはたかれた。
「ふざけんなよ。
獲物を両手に、背中にあんたを背負って、山を越えたんだ。あたいの苦労を無にすんなっつーの」
猫耳娘は、俺がいなかったら背中にもう三匹背負えたとプンスコ怒っている。
ここで「俺が頼んだわけじゃない」と言ったら、ガルドたちと同類になってしまう。
「……それ、は、申し訳ない……」
しゃべるだけで疲れる。息が切れる。
猫耳娘は顔を歪ませた。
「そういうこと言ってるんじゃないんにゃ!」
猫耳娘は鳥人から瓶を奪うと、問答無用で俺の口に突っ込んだ。
「あの滝の裏の入り口はわかりにくいんにゃ。あそこに辿り着いたのは、死にたくなかったからだろが。
あんたの心が絶望してても、体は生きたいって言ってた。素直になるんにゃ」
猫耳娘は……たぶん、いいことを言っていたんだと思う。
だが、おれはそれどころではなかった。
苦い、エグい、喉が焼ける。妙な生臭さが、口から鼻にあがってくる。
鳥人間は、俺が吐き出さないように顔を押さえた。いわゆるアイアンクローだ。
ちょ、絶対に、人間の手のアイアンクローより、すごいぞ。
爪が後頭部までがっちりホールド……逃げられない。
苦しくて暴れようとしたら、猫耳娘に押さえつけられた。あ、ふわふわで気持ちいいぃ。
一拍おいて、ぐわーっと体中が発火するように熱くなった。
死ぬ、死ぬ、死ぬ。これ、駄目だろ。逆に、死ぬ。
――また、俺の意識が飛んだ。




