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『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第三章 冒険者になる

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悪いのは誰だ?

 冒険者パーティー「鮮血の深淵」のメンバー四人は、酒場にいた。

 取材を受けた後、楽しく盛り上がれると思っていたのに、最低な気分だ。


「なにあれ?! 信じられないんですけど!」

 魔法使いのヴェリーがテーブルを拳で叩いた。


「あの野郎、目立ちやがって」

 剣士のガルドは剣呑な目で、ここにいないトーマを思い浮かべる。


「俺が耐えている間、周りをうろついてただけじゃないか」

 盾役のブルーノが、怒気を滲ませた。


「情報交換すればいいだなんて、一介の冒険者が言い出すの、おかしいわ」

 弓使いのセリアは、つけていた仮面をテーブルに置いた。



「なんだなんだ。荒れてるな。今日、取材だったんだろう? 期待のルーキーさんよ」

 なかなかCランクに上がれない冒険者が、一見、親しげに肩を叩いてきた。


「うちの『下ごしらえ』野郎が出しゃばりやがって、めちゃくちゃだぜ」

 ガルドが答える。



 それを上位クランのメンバーが聞きつけた。

「それは穏やかじゃないな。何があった?」


 取材で、おまけで入れてやった「下ごしらえ」が手柄を横取りし、間抜けな記者がそれを褒めそやした。

 そんなふうに、四人は説明をする。


「おお、それは許せないな」

 と、その冒険者はまるで理解者のような相槌を打つ。


 その実、頭の中ではトーマが「鮮血の深淵」から追い出されたら、今度こそ自分たちのクランに誘おうと考えていた。



 大規模討伐に参加するような大きなクランほど、トーマの重要性を理解していた。

 討伐の現場で、中身がわからない箱が何百と積み上がる状況が、彼によって改善されたのだ。


 腹が減っているのに、明けても明けても武器の箱という日があった。

 必要な武器が出てこず、苛立って食料の箱をひっくり返す者もいた。

 薬の箱がどれかわからず、諦めて仲間を見送ったあとで、薬の箱を発見するなんて珍しくもない。

 討伐が長期に及び、追加で必要な物資を問われても、誰も答えられない。とりあえず、食料で……と頼んで、武器が足りなくなることさえあった。


 箱に絵を貼るということは簡単に真似できる。だが、その発想力で、どれだけ闘いが楽になるか。彼に未知の可能性を感じた。


 だが、肝心のトーマは調理人を目指している。

 食材を自分で得ようとするほど熱心で、有名なホテルに勤めている彼が、不安定な冒険者の道を選ぶわけがない。

 ……そう信じて、疑わなかった。

 それなのに、ある日突然、駆け出しのパーティーに加入しているではないか。



 その新人パーティーは、無傷で依頼達成の実績を重ねている。


 トーマのサポートで快進撃をしていると理解している者たちは、自分たちならもっと活躍してみせるのにと歯がゆく思う。

 理解していない者たちは、ただ、目立つ新人パーティーに嫉妬している。

 また、攻撃系のスキルを与えられて地味スキルを下に見ていた者は、自分の立場を脅かされるような不安を覚えている。



 思惑は違っても、トーマの悪口を言って溜飲を下げ、仲違いすれば面白いと煽っていく。

 酒が入って気が大きくなり、無責任な意見が飛び交った。


 傲慢になった若者たちは、自分たちは正しいのだと確信を深めていく。

 悪いのは、身の程知らずのトーマだ。


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