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『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第三章 冒険者になる

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ギルドニュース

「最速昇格の噂──Cランク目前!若き冒険者たちの快進撃!」


 ギルドニュースにそんな記事が載った。

 冒険者ギルドだけじゃなく、いくつものギルドが後援して半年ごとに発行される情報誌だ。


 取材されたのは、俺たち「鮮血の深淵」だ。



 当日は、冒険者ギルドの会議室で取材を受けた。

 冒険者ギルドから絵画ギルドに移籍したメグが、「かっこよく描きますからね」と張り切っていた。

 工房の中では下っ端だが、冒険者をかっこ良く描けるので、親方から任されたそうだ。


「トーマさんは、私の運命を変えてくれる神です」

「それは言い過ぎ……」


 部屋の隅でそんなやりとりをしている俺たちを、ガルドはジロリと見た。

「メインは俺だ。身の程をわきまえとけよ」

 パーティーのリーダーだし、剣士がメインになるのは当然だ。言われなくても、わかってるさ。

 だが、こういう器の小ささが、英雄になったアーデンに及ばないんだぜ。……心の中で悪態をつくのくらいは,許してくれ。



 セレナは、目元を覆うマスクをつけた。エルフは誘拐されやすいから、顔を隠したいそうだ。

 だが、長い耳を隠さないとバレると思うぞ。せめてフードをかぶれよ。




 元受付嬢が、取材の場に飲み物を持ってきた。

「やっぱり、すごくなりましたね。私には、わかってましたよ」

 飲み物を俺にだけ手渡して、ついでに手を握る。


 職場でこれは、セクハラというヤツだろ?

 男の職員がやったら問題になるやつ。

 なんでお前は堂々とやってるんだよ。そういうことをするから、受付から裏方に外されるんだぞ。


 ブルーノに、スゴイ顔で睨まれた。俺、被害者なんだけど?



 取材が始まった。

 緊張しすぎて、自己紹介でちょっと噛んだ。恥ずかしい……。



 一角ウサギの討伐は、ブルーノのヘイト管理とヴェリーの火魔法が作戦の肝だった。

 ブルーノは盾を持ち、そのときのポーズを再現してみせた。

 ヴェリーは自分の火力がどれだけすごいかを、得意げに話す。あんまり手の内を晒すような話はしない方が……とハラハラしてしまった。

 妬まれて襲われたとき、魔力量を把握されていたら、魔力切れを起こすような作戦を立てられてしまうぞ。


 一角ウサギの食のブームを作ったことにも話が及んだ。

「冒険だけじゃなく、食文化にも興味が?」

 食べるのには興味があっても、文化には関心がないメンバーには返事ができない。


 ここは俺の出番かな。

「あれは、冒険者ギルドの資料室で百年前に流行っていたのを知って……」

「なるほど! それをご存じだったんですね。再流行とは面白い」

 記者の手が、忙しく動いた。



 ゴーレムの討伐は、他の坑道に出たヤツの依頼を受けた冒険者たちが失敗続きらしく、コツが知りたいそうだ。


 ガルドが自分の活躍だけを話していると、記者から「そういう話じゃなくて……」という雰囲気が漂ってきた。おそらく失敗した冒険者たちは力任せに押そうとして、ゴーレムの腕力と巨体に力負けしているんだろう。


 ちょっと出しゃばって、火魔法で逃げられないようにして、盾役が耐えて……と戦略を説明した。

「なるほどですね。そういう工夫が……」


 ほら、参考にできるコツがほしいんだって。

 記者が頷くたびに、ガルドの眉間にシワが寄っていく。

 手本を見せたつもりが、ガルドに妬まれてしまったか?

 お前がそういう話をしてたら、俺は後ろで黙って聞いていたんだぞ。



 デッドフロッグはセリアの弓が大活躍した。

 だが、セリアはあまり積極的に話そうとしない。


 記者も困って、少ししらけた空気になった。


 そんな中で、ガルドが俺を指差して「コイツが槍を使えとか言ってきてさぁ」と、文句を言いながら評判を下げようとしてくる。


 ところが、記者はそれに食いついた。

「ほうほう。モンスターに合わせて、武器まで変えると。それが、効率的で怪我の少ない討伐に結びついているんでしょうか」

「資料室で、事前に情報を得るといいですよ」

 記者の迫力に押され気味になり、俺はたじたじになった。


「地方の村の人たちも、街に来たときにギルドで情報収集すれば、モンスター討伐の効率的なやり方が得られます。

 逆に、地方の人たちは、毎年出るモンスターに対応するために独自の技を編み出しているかもしれない。食文化も、街では気付かずに捨てている部位が、美味しく食べられている可能性もあります。

 そういう情報交換の場があればいいですよね」

「それ、いただき! 半年後に、そういう記事を載せますよ」


 俺ばかりしゃべってしまい、ガルドはイライラしている。気にはなったが、記者との会話を中断するのも変な話だ。


 ガルドが話を遮って、突然言い出した。

「そいつ、ただの『下ごしらえ』だぜ」

 腕を組み、人を見下すときの態度だ。俺の話は聞く価値がないと言いたいのか。


 記者がギョッとした顔をした。

 この人も偏見があって、俺との会話を切り上げるのかと、少し寂しく思う。


 だが、本人の了承もなく、勝手にスキルをバラしたことに驚いたらしい。


 記者は一瞬黙った後、こう言った。

「あの、お許しいただけるなら、スキルを記事に書いてもいいでしょうか。

 地味なスキルをもらった子どもたちに、工夫次第で未来は開けると伝えたいです」



 真剣な目で言われたら、断れないよなぁ。


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