ギルドニュース
「最速昇格の噂──Cランク目前!若き冒険者たちの快進撃!」
ギルドニュースにそんな記事が載った。
冒険者ギルドだけじゃなく、いくつものギルドが後援して半年ごとに発行される情報誌だ。
取材されたのは、俺たち「鮮血の深淵」だ。
当日は、冒険者ギルドの会議室で取材を受けた。
冒険者ギルドから絵画ギルドに移籍したメグが、「かっこよく描きますからね」と張り切っていた。
工房の中では下っ端だが、冒険者をかっこ良く描けるので、親方から任されたそうだ。
「トーマさんは、私の運命を変えてくれる神です」
「それは言い過ぎ……」
部屋の隅でそんなやりとりをしている俺たちを、ガルドはジロリと見た。
「メインは俺だ。身の程をわきまえとけよ」
パーティーのリーダーだし、剣士がメインになるのは当然だ。言われなくても、わかってるさ。
だが、こういう器の小ささが、英雄になったアーデンに及ばないんだぜ。……心の中で悪態をつくのくらいは,許してくれ。
セレナは、目元を覆うマスクをつけた。エルフは誘拐されやすいから、顔を隠したいそうだ。
だが、長い耳を隠さないとバレると思うぞ。せめてフードをかぶれよ。
元受付嬢が、取材の場に飲み物を持ってきた。
「やっぱり、すごくなりましたね。私には、わかってましたよ」
飲み物を俺にだけ手渡して、ついでに手を握る。
職場でこれは、セクハラというヤツだろ?
男の職員がやったら問題になるやつ。
なんでお前は堂々とやってるんだよ。そういうことをするから、受付から裏方に外されるんだぞ。
ブルーノに、スゴイ顔で睨まれた。俺、被害者なんだけど?
取材が始まった。
緊張しすぎて、自己紹介でちょっと噛んだ。恥ずかしい……。
一角ウサギの討伐は、ブルーノのヘイト管理とヴェリーの火魔法が作戦の肝だった。
ブルーノは盾を持ち、そのときのポーズを再現してみせた。
ヴェリーは自分の火力がどれだけすごいかを、得意げに話す。あんまり手の内を晒すような話はしない方が……とハラハラしてしまった。
妬まれて襲われたとき、魔力量を把握されていたら、魔力切れを起こすような作戦を立てられてしまうぞ。
一角ウサギの食のブームを作ったことにも話が及んだ。
「冒険だけじゃなく、食文化にも興味が?」
食べるのには興味があっても、文化には関心がないメンバーには返事ができない。
ここは俺の出番かな。
「あれは、冒険者ギルドの資料室で百年前に流行っていたのを知って……」
「なるほど! それをご存じだったんですね。再流行とは面白い」
記者の手が、忙しく動いた。
ゴーレムの討伐は、他の坑道に出たヤツの依頼を受けた冒険者たちが失敗続きらしく、コツが知りたいそうだ。
ガルドが自分の活躍だけを話していると、記者から「そういう話じゃなくて……」という雰囲気が漂ってきた。おそらく失敗した冒険者たちは力任せに押そうとして、ゴーレムの腕力と巨体に力負けしているんだろう。
ちょっと出しゃばって、火魔法で逃げられないようにして、盾役が耐えて……と戦略を説明した。
「なるほどですね。そういう工夫が……」
ほら、参考にできるコツがほしいんだって。
記者が頷くたびに、ガルドの眉間にシワが寄っていく。
手本を見せたつもりが、ガルドに妬まれてしまったか?
お前がそういう話をしてたら、俺は後ろで黙って聞いていたんだぞ。
デッドフロッグはセリアの弓が大活躍した。
だが、セリアはあまり積極的に話そうとしない。
記者も困って、少ししらけた空気になった。
そんな中で、ガルドが俺を指差して「コイツが槍を使えとか言ってきてさぁ」と、文句を言いながら評判を下げようとしてくる。
ところが、記者はそれに食いついた。
「ほうほう。モンスターに合わせて、武器まで変えると。それが、効率的で怪我の少ない討伐に結びついているんでしょうか」
「資料室で、事前に情報を得るといいですよ」
記者の迫力に押され気味になり、俺はたじたじになった。
「地方の村の人たちも、街に来たときにギルドで情報収集すれば、モンスター討伐の効率的なやり方が得られます。
逆に、地方の人たちは、毎年出るモンスターに対応するために独自の技を編み出しているかもしれない。食文化も、街では気付かずに捨てている部位が、美味しく食べられている可能性もあります。
そういう情報交換の場があればいいですよね」
「それ、いただき! 半年後に、そういう記事を載せますよ」
俺ばかりしゃべってしまい、ガルドはイライラしている。気にはなったが、記者との会話を中断するのも変な話だ。
ガルドが話を遮って、突然言い出した。
「そいつ、ただの『下ごしらえ』だぜ」
腕を組み、人を見下すときの態度だ。俺の話は聞く価値がないと言いたいのか。
記者がギョッとした顔をした。
この人も偏見があって、俺との会話を切り上げるのかと、少し寂しく思う。
だが、本人の了承もなく、勝手にスキルをバラしたことに驚いたらしい。
記者は一瞬黙った後、こう言った。
「あの、お許しいただけるなら、スキルを記事に書いてもいいでしょうか。
地味なスキルをもらった子どもたちに、工夫次第で未来は開けると伝えたいです」
真剣な目で言われたら、断れないよなぁ。




