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『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第三章 冒険者になる

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依頼C

 大きめのカエル型モンスターの討伐依頼を受けた。

 体表のぬめりが魔法攻撃を防ぎ、剣などの物理攻撃もいなされる。

 苦戦していると、長い舌で絡め取られてしまう。


 水辺の安全を脅かすデッドフロッグだ。



 今回はブルーノに使い捨ての小型の盾を複数用意した。

 弓を使うセリアには、魔力を吸収する棒で矢を作ってもらう。


 そして、ガルドには剣よりも長い、槍を使ってもらう予定だ。

 数日間、冒険者ギルドで槍の訓練を受けてもらった。

 ガルドは訓練を申し込むときに「モンスターにビビって接近できないヤツが使う武器だろ」と、とんでもない発言をした。


「違う! モンスターによって、最適な武器が異なるだけだ。

 剣で突き刺すのと、槍の場合の違いを覚えてくれればいい。たった数日の訓練で、槍の名手になれなんて、無茶は言わない」

 わざと周りに聞こえるように大声で言い返した。

 スキルが「槍」の人だっているだろう。馬鹿な発言で敵を作らないでくれ。




 デッドフロッグが居座って、通れなくなった橋に向かう。

 貸し馬車を俺が走らせ、後ろで銘々が準備をしていた。


「なんか、毎回装備とか準備にお金かけ過ぎじゃん?」

 魔法使いのヴェリーがブツクサ言い出した。


「この盾も冒険者の見習いが使うような、木製のオモチャだしな」


「冒険者ギルドに掛け合って、廃棄寸前のを安く買ったんだ。節約するところはしてるぞ」

 一応、抗議する。今の実力を考えて、じっくり練り上げた作戦だぞ。

「だったら、どんな作戦でいくつもりだ?」


「あたしの火力でバーンと焼いて、ガルドの剣でスパッと切ればいいじゃんか」

 ヴェリーはモンスターの特性を全く考慮していない。


「それは、俺がいないときに試してくれ」

 力押しで討伐できたら気持ちいいだろうが、そこまで圧倒的な魔力は持っていないだろうに。




 馬がモンスターに狙われないように遠くに止め、しばらく歩いて橋に向かった。


 水辺に近づくほど、空気がぬるりと重くなった。腐った藻の匂いに、酸っぱい生臭さが混じる。

 デッドフロッグが飛び回ったところは、土が泥に変わっている。そこを踏んでしまったら、靴底に泥がまとわりつく音がした。


 モンスターは橋の手前に陣取り、口と頬をクチャクチャと動かしている。

 何か捕らえて食べているようだ。

 どうか、待っていられなくなった旅人ではありませんようにと願う。



 セリアに合図を出し、魔力を吸収する矢をデッドフロッグの周囲に打ち込んでもらう。

 デッドフロッグが跳ねるたび、粘液が飛び散り、腐臭が漂う。思わず息を詰めた。


 何本も矢を放ち、他の四人が槍で牽制し、ようやく矢で作った囲いに追い込んだ。

 デッドフロッグは、ぐるりと濁った瞳を動かした。


 たくさんの矢でぐるりと囲まれたデッドフロッグは、異変を感じたらしい。

 口の中でもてあそんでいたものを、ゴクリと飲み下した。


 小さなデッドフロッグなら、魔力を吸収されると一日くらいで体表の粘液が乾燥する。

 だが、大きな個体だと、乾燥するまで何日もかかる。

 弓矢の棒の部分に触りたくないと思わせて、足止めをしているだけだ。



 俺が睡眠剤が入った袋をデッドフロッグに投げつける。

 ぬめった舌が閃光のように飛び出し、袋を巻き取って飲み込む。

「よし……食った!」


 これで、勝率はグッとあがったぞ。



 ガルドとブルーノが駆け寄る。盾をデッドフロッグの体に貼り付け、槍で刺し貫く。

 粘膜に邪魔されず、デッドフロッグの体も刺す。

 それを数カ所、繰り返した。



 その盾と槍をヴェリーが火魔法で燃やす。

 ファイアーボールで攻撃しても、粘膜に弾かれる。

 だが、ジリジリと木が燃えるのは防げない。



 睡眠剤が体に回るまで少し時間がかかる。


 弓矢の囲いの中から出ないよう、男たちは槍で牽制する。

 セリアは囲いを突破されたときのために、矢をつがえたまま待機。

 ヴェリーは火が消えないよう、集中していた。


 突然、べろんと長い舌の先が向かってきた。

 舌が迫る。空気が俺を押しつぶすように重くなる。

 次の瞬間、槍を体の前に出して、舌が俺の体に触れるのを防ぐ。

 生臭い唾液が顔を打つ。

 だが、長い舌は槍を絡め取って、本体に戻った。


 三人の中では俺が一番弱そうなのか。そうだろうな。くそ。


 デッドフロッグは槍の中央を咥える。

 バキリッ! 槍の軸が真ん中から裂けた。


 怪力で、人間の骨など簡単に折れると言わんばかりだ。

 あれが槍でなく、俺の腕だったらと考えるとゾッとした。

 慌てて、もう一本の槍を構える。


 ブルーノは舌で攻撃されても、本来の盾で華麗にさばいていく。


 そんな攻防戦を繰り返す。


 しばらくして、体が痺れてきたのか、デッドフロッグの動きが鈍くなってきた。

 刺さった槍から熱が伝わっているのだろう。

 焦げる臭いと、ぐじゅぐじゅと泡立つ音。

 燃える盾に押されて、デッドフロッグの粘膜が縮んで、地肌が露出していく。



 槍を抜こうとしたのか、長い舌をべろんと出した。だが、先ほどよりも動きが緩慢だ。


 そこを、ガルドが剣で一閃。


 攻撃手段を奪ったので近寄り、残りの槍を地肌が露出したところに突き立てていく。

 槍の穂先が肉を裂き、ぬるりとした手応えが腕に伝わる。

 まるで湿ったゴムを貫いたように、抵抗がしつこい。

 それでも力を込めて押し込む。



 ブギャ、グギャっと叫び声をあげる。


 体の表面から粘膜がなくなったところで、ヴェリーが火力で丸焼きにした。

 なんとも形容しがたい断末魔が聞こえた。



 槍を奪われたときは一瞬ヒヤリとしたが、危なげなく討伐できた……かな。

 心臓がバクバクしていた。


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