依頼C
大きめのカエル型モンスターの討伐依頼を受けた。
体表のぬめりが魔法攻撃を防ぎ、剣などの物理攻撃もいなされる。
苦戦していると、長い舌で絡め取られてしまう。
水辺の安全を脅かすデッドフロッグだ。
今回はブルーノに使い捨ての小型の盾を複数用意した。
弓を使うセリアには、魔力を吸収する棒で矢を作ってもらう。
そして、ガルドには剣よりも長い、槍を使ってもらう予定だ。
数日間、冒険者ギルドで槍の訓練を受けてもらった。
ガルドは訓練を申し込むときに「モンスターにビビって接近できないヤツが使う武器だろ」と、とんでもない発言をした。
「違う! モンスターによって、最適な武器が異なるだけだ。
剣で突き刺すのと、槍の場合の違いを覚えてくれればいい。たった数日の訓練で、槍の名手になれなんて、無茶は言わない」
わざと周りに聞こえるように大声で言い返した。
スキルが「槍」の人だっているだろう。馬鹿な発言で敵を作らないでくれ。
デッドフロッグが居座って、通れなくなった橋に向かう。
貸し馬車を俺が走らせ、後ろで銘々が準備をしていた。
「なんか、毎回装備とか準備にお金かけ過ぎじゃん?」
魔法使いのヴェリーがブツクサ言い出した。
「この盾も冒険者の見習いが使うような、木製のオモチャだしな」
「冒険者ギルドに掛け合って、廃棄寸前のを安く買ったんだ。節約するところはしてるぞ」
一応、抗議する。今の実力を考えて、じっくり練り上げた作戦だぞ。
「だったら、どんな作戦でいくつもりだ?」
「あたしの火力でバーンと焼いて、ガルドの剣でスパッと切ればいいじゃんか」
ヴェリーはモンスターの特性を全く考慮していない。
「それは、俺がいないときに試してくれ」
力押しで討伐できたら気持ちいいだろうが、そこまで圧倒的な魔力は持っていないだろうに。
馬がモンスターに狙われないように遠くに止め、しばらく歩いて橋に向かった。
水辺に近づくほど、空気がぬるりと重くなった。腐った藻の匂いに、酸っぱい生臭さが混じる。
デッドフロッグが飛び回ったところは、土が泥に変わっている。そこを踏んでしまったら、靴底に泥がまとわりつく音がした。
モンスターは橋の手前に陣取り、口と頬をクチャクチャと動かしている。
何か捕らえて食べているようだ。
どうか、待っていられなくなった旅人ではありませんようにと願う。
セリアに合図を出し、魔力を吸収する矢をデッドフロッグの周囲に打ち込んでもらう。
デッドフロッグが跳ねるたび、粘液が飛び散り、腐臭が漂う。思わず息を詰めた。
何本も矢を放ち、他の四人が槍で牽制し、ようやく矢で作った囲いに追い込んだ。
デッドフロッグは、ぐるりと濁った瞳を動かした。
たくさんの矢でぐるりと囲まれたデッドフロッグは、異変を感じたらしい。
口の中でもてあそんでいたものを、ゴクリと飲み下した。
小さなデッドフロッグなら、魔力を吸収されると一日くらいで体表の粘液が乾燥する。
だが、大きな個体だと、乾燥するまで何日もかかる。
弓矢の棒の部分に触りたくないと思わせて、足止めをしているだけだ。
俺が睡眠剤が入った袋をデッドフロッグに投げつける。
ぬめった舌が閃光のように飛び出し、袋を巻き取って飲み込む。
「よし……食った!」
これで、勝率はグッとあがったぞ。
ガルドとブルーノが駆け寄る。盾をデッドフロッグの体に貼り付け、槍で刺し貫く。
粘膜に邪魔されず、デッドフロッグの体も刺す。
それを数カ所、繰り返した。
その盾と槍をヴェリーが火魔法で燃やす。
ファイアーボールで攻撃しても、粘膜に弾かれる。
だが、ジリジリと木が燃えるのは防げない。
睡眠剤が体に回るまで少し時間がかかる。
弓矢の囲いの中から出ないよう、男たちは槍で牽制する。
セリアは囲いを突破されたときのために、矢をつがえたまま待機。
ヴェリーは火が消えないよう、集中していた。
突然、べろんと長い舌の先が向かってきた。
舌が迫る。空気が俺を押しつぶすように重くなる。
次の瞬間、槍を体の前に出して、舌が俺の体に触れるのを防ぐ。
生臭い唾液が顔を打つ。
だが、長い舌は槍を絡め取って、本体に戻った。
三人の中では俺が一番弱そうなのか。そうだろうな。くそ。
デッドフロッグは槍の中央を咥える。
バキリッ! 槍の軸が真ん中から裂けた。
怪力で、人間の骨など簡単に折れると言わんばかりだ。
あれが槍でなく、俺の腕だったらと考えるとゾッとした。
慌てて、もう一本の槍を構える。
ブルーノは舌で攻撃されても、本来の盾で華麗にさばいていく。
そんな攻防戦を繰り返す。
しばらくして、体が痺れてきたのか、デッドフロッグの動きが鈍くなってきた。
刺さった槍から熱が伝わっているのだろう。
焦げる臭いと、ぐじゅぐじゅと泡立つ音。
燃える盾に押されて、デッドフロッグの粘膜が縮んで、地肌が露出していく。
槍を抜こうとしたのか、長い舌をべろんと出した。だが、先ほどよりも動きが緩慢だ。
そこを、ガルドが剣で一閃。
攻撃手段を奪ったので近寄り、残りの槍を地肌が露出したところに突き立てていく。
槍の穂先が肉を裂き、ぬるりとした手応えが腕に伝わる。
まるで湿ったゴムを貫いたように、抵抗がしつこい。
それでも力を込めて押し込む。
ブギャ、グギャっと叫び声をあげる。
体の表面から粘膜がなくなったところで、ヴェリーが火力で丸焼きにした。
なんとも形容しがたい断末魔が聞こえた。
槍を奪われたときは一瞬ヒヤリとしたが、危なげなく討伐できた……かな。
心臓がバクバクしていた。




