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『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第三章 冒険者になる

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依頼B

 一角ウサギの肉を大量に持ち帰ったことで、街はちょっとしたお祭り騒ぎになった。


 肉は美味いが、冒険者たちは面倒くさがって持ち帰らない。

 また、毛皮が取れるほどきれいに討伐する者が少ないのだ。


 金になると知れ渡ったので、これからは気を使って討伐する者も出てくるだろう。

 冒険者ギルドの資料室に、百年くらい前にも一角ウサギブームがあったと書いてあったんだけどな。


 ともかく、冒険者たちと居酒屋や宿屋に「鮮血の深淵」の名前が知れ渡った。

「いい獲物を教えてくれてありがとな」

「また討伐したら、肉をよろしく」

 そんなふうに声をかけられることもあった。


 順調すぎる走り出しと言っていいだろう。




 俺たちは、廃坑に出たゴーレムの討伐依頼を受けた。


 とにかく硬く、腕力があるパワータイプのモンスターだ。



 まずは、ガルドの剣に表面をざらつかせる薬液を塗った。

 ゴーレムにしっかりと傷をつける効果を狙う。


 この薬液は、職人街で鍛冶屋をしているドワーフからもらった。

 一角ウサギのブームの間、ずっと籠もりきりで仕事をしていたらしい。

「傑作を作っているあいだに、美味いものを喰い損ねた」

 居酒屋であまりに嘆くものだから、自分用に作った燻製でいいならやると言って慰めた。

 そのお礼に、即席でヤスリを作れる薬液をくれたのだ。



 次に、ブルーノの盾の持ち手をいつもより分厚く頑丈な革に変える。

 今回は、盾でゴーレムの攻撃を受け止め、上手くいなせるかが勝敗を決めるはずだ。




 現場までは鉱石を運ぶトロッコに乗っていく。

 途中までは活気のある光景だったが、途中から人の気配が消え、荒涼とした雰囲気が漂っていた。


 廃坑の入り口で野営をしていると、奥からガコッガコッと足音が聞こえた。

 ゴーレムのお出ましだ。


 鉱山で働く人たちは筋骨隆々としている。

 だが、戦闘の訓練はしていない。

 ツルハシで正面から殴りかかると、脇を殴られたり、蹴られたりする。

 数人で取り囲もうとすると、奥に逃げ込まれてしまう。坑道は枝分かれしているので、追いかけるのも危険だ。



 つまり、奥に逃げられないよう、ヴェリーが炎で壁を作ればいい。

「行っくよ~」

 魔女っ子らしい可愛いかけ声で、詠唱を始めた。


 盾役のブルーノは、ひたすらゴーレムの攻撃を受け止める。ガシッっと受け止め、ガツンと弾く。重たく激突する音が響く。

「ふっ」「うっ」と攻撃を受ける度に、声が漏れた。


 剣士のガルドは、ゴーレムの足を狙い、機動力を削ぐ。

 剣が当たっても獣のようには切れないが、ザラザラした剣は少しだけゴーレムの表皮に傷をつけていく。


 ゴーレムは盾と剣士を忌々しそうに見比べる。

 どちらを先に叩き潰すか、考えているのだろう。


 その隙に、俺がヤツの腕の関節を狙う。

 大きな釘のようなものだ。一撃では、少し表面を削る程度か。

 だが、不快感はあるらしい。


 ゴーレムは俺も攻撃対象に加えた。

 三人の中では一番、俺が弱そうに見えるだろう。



 俺に体を向けたゴーレム。その足首をガルドが狙う。が、弾かれた。

 そのまま膝裏を狙うと、ザリリっと音がして、火花が散り、剣がしなる。


 ヴェリーの炎が一瞬弱まる。魔力切れか? 

 坑道の奥に逃げ込まれたら、討伐失敗だ。

 嫌な汗が背を伝った。



 ヴェリーが小さな火球をゴーレムに投げた。


 想定外の攻撃に驚いているところ、ガルドがゴーレムのみぞおちに渾身の一撃を入れる。

 すかさず脇に避け、場所をセリアに譲った。


 セリアが弓を連射する。

 柔らかい目か口、あるいは急所のみぞおちに入ればいい。


 膝をついてうずくまるようなら、俺が背後から首を取る。俺は武器を斧に持ち替えている。

 薪割りの要領で、できるはずだ。

 立ったままなら、ガルドがみぞおちを突き刺す。ガルドを抱きしめて殺そうとしないよう、そのときは俺が腕を落とす。


 どちらに転ぶか、慎重に見極めなければ。

 手に汗を握る。

 どっちだ?



 目に矢が刺さり、みぞおちには刺さらないものの、何度も攻撃を受けて削られ、ヒビが入り始めている。


 セリアを攻撃したくても、ブルーノの盾の後ろから矢が飛んでくる状態。

 足元に落ちた矢が邪魔で、前に進むのをためらっているようだ。



 ゴーレムは吠えた。痛みを堪えて反撃しようとしたのだろうか。

 そこをガルドが体当たりするように、剣で貫いた。


 ズシーンと鈍い音を響かせながら、ゴーレムは仰向けに倒れた。

 土埃が舞う。

 キィーンと細い音を立て、動かなくなった。



「ふう、やったぜ」

 ガルドは晴れ晴れとした顔で、勝利宣言をした。

 狭い坑道で、圧殺されることなく討伐できた。


 ガルドはゴーレムのみぞおちに手を突っ込み、魔石を取り出した。

 この魔石が、討伐証明になる。



「あたしの火球が一番の功績じゃな~い?」

 ヴェリーが得意げに主張した。

 結果的には良かったが、勝手な判断で炎の壁を弱めたせいで、この討伐が失敗に終わったかもしれない。

 誰かの命が危険に晒されたわけでもない。少し時間がかかっていただけだ。


 それを説明したが、誰も真剣に聞いてくれなかった。


「勝ったからいいじゃん。ウザっ」

 ヴェリーは気分を害したように吐き捨てた。

 しまった。また、口うるさいことを言ってしまったか。



 さっさと帰ろうとするメンバーたち。

 俺は、ひっそりと片膝をついて、ゴーレムに手を合わせた。


 鉱山に出るゴーレムは、古代文明で開発されたモンスターだという説があるのだ。

 人の代わりに採掘をする道具として。

 主人たちは滅びたのに、何かの拍子に目覚めて活動しているとしたら……なんとも健気で、哀れではないか。


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