手始めに
俺たちがランクアップに励んでいた半年、他の三人は……パーティー名を決めていたそうだ。
生活費を稼ぐくらいの依頼は受けていたらしいが、テクニックを磨くとか知識を学ぶとかいったことは、特にしていない。
伸び盛りの半年を、無駄に過ごしたとか……正気か?
今さら言っても、しょうがないかぁ。
――で、「鮮血の深淵」だって。
まじかぁぁ?
ええー。気合が入りすぎて、名乗るの恥ずかしいぞ?
モンスターを大量虐殺して、深淵を覗き見しちゃう感じかよ。
山猫亭のオヤジさんに知られたら、「おうおう、強そうでいいじゃないか」と生暖かい目でニヤッと笑われそうだ。
いきがってる若僧って感じが満載だなぁ。
こういうノリに、一緒にはしゃげないから、ときどき爺臭いと言われるんだろうけど。
山猫亭で、ベテラン冒険者たちの愚痴をたくさん聞いたからな。「若い頃に、もっと○○しておけばよかった」って。
なんとなく、リーダーは剣士のガルドっぽい雰囲気だった。
まあ、言い出しっぺもガルドだから、それが自然かな。
ちなみに、山猫亭はCランクの冒険者が多い、中堅どころの宿だ。
EランクからDランクにあがろうとしていた俺は、もっと安い宿に泊まっている。
他の四人は歓楽街に近い宿に泊まっていたが、俺は職人街に近い方を選んだ。
協調性がないと非難されたけど、夜は静かに眠りたいんだ。
冒険者ギルドで、パーティー登録をした。
登録料はかかるが、いろいろな特典がつく。
たとえば、武器や装備を整えるための借金ができるようになる。
パーティーの拠点として借家を借りられる。
その一方で、メンバーの危機を救わなかった場合にペナルティーがつく。
ソロの冒険者同士だと自分の身は自分で守るのが鉄則なので、最悪、モンスターに返り討ちに遭ったときに見捨てることもある。
そんなことを繰り返せば評判が悪くなり、組んでくれる相手もいなくなるが……。
「さあ、『鮮血の深淵』のパーティー初仕事だ。ドカンとでかい依頼をやっつけてやろうぜ!」
ガルドが他の人に聞こえるように大声を出した。
他の三人も、「おー!」とか声を合わせちゃってる。
「待ってくれ。
お互いの力量とか癖とかわかってないと、連携が取れないじゃん。初めは、Eランク相当から選ぼう」
すごく嫌な顔をされたが、命を無駄に散らしたくないぞ、俺は。
だからプライドを捨てて、下手に出た。
「俺は経験が少ないから、一度、レベルが低い依頼で、様子を見させてくれ」
「やれやれ」、「仕方ないなぁ」みたいな空気を出されたが、お前らだって同じランクだからな。
受付へ依頼受注すると伝えに行ったら、「さすが、山猫亭で鍛えられただけありますね。いい判断です」と受付嬢にこっそりサムズアップされた。
そうだよな。俺は間違ってない。
で、大きめのネズミみたいなラグラットの討伐だ。
人の腰くらいの高さで、歯が黄色い。鋭い歯でかじられると指くらいは持っていかれるし、そこから炎症を起こす。
収穫された穀物の倉庫街を荒らすし、弱った病人が狙われることもある。
これを五匹以上討伐するという依頼。
Eランクなら六人以上で受けられる依頼だ。
Cランク一人、Dランク四人のパーティーなら、楽勝のはず。だからこそ、パーティーとしての弱点を観察する余裕があると踏んだのだ。
結果、めちゃくちゃでした。
連携って言葉、知ってるか? というレベル。
剣士が勝手に剣を振り回し、他のメンバーのフォローに入ろうとしない。
盾役は中途半端な位置で、自分の分だけ防ぐ。位置取りが悪いので、味方の弓矢が当たっていた。
弓矢は刺さったけれど仕留めきれず、ラグラットは大暴れだ。
魔法使いは、一撃で仕留められなかったモンスターが火だるまのまま建物に入りそうになって、俺が慌てて仕留めた。ちょっと火傷したぞ。
討伐証明として、尻尾を切って持ち帰らなければいけない。
ひとり一匹分を切り取ればすぐ終わるのに……。誰も動こうとしないのは、なぜだ。
声をかけたが、無視かよ。
全部で七匹討伐したので戦果としてはまあまあだが、Dランクのパーティーの戦い方ではないなぁ。
さて、他のモンスターが死骸を食べに来ないように、焼かなければ。
呑気に雑談をしていたヴェリーを呼んだら、ぶーぶー文句を言われた。
冒険者にもマナーというものがあってな……って、ランクアップのために先輩たちのパーティーで勉強させてもらったじゃねぇか。
何を見ていたんだよ。
ここまでひどいと、逆に見捨てられないと思ってしまった。
村長の息子エドガーなら、「情に流されるな」と言うところだったろう。
この時の俺は、それに気付かなかった。
こいつらを死なせないように戦略を考えるのが、自分の役目だと思ってしまったのだ。




