表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第三章 冒険者になる

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/64

手始めに

 俺たちがランクアップに励んでいた半年、他の三人は……パーティー名を決めていたそうだ。

 生活費を稼ぐくらいの依頼は受けていたらしいが、テクニックを磨くとか知識を学ぶとかいったことは、特にしていない。

 伸び盛りの半年を、無駄に過ごしたとか……正気か?


 今さら言っても、しょうがないかぁ。


 ――で、「鮮血の深淵」だって。


 まじかぁぁ?

 ええー。気合が入りすぎて、名乗るの恥ずかしいぞ?

 モンスターを大量虐殺して、深淵を覗き見しちゃう感じかよ。



 山猫亭のオヤジさんに知られたら、「おうおう、強そうでいいじゃないか」と生暖かい目でニヤッと笑われそうだ。

 いきがってる若僧って感じが満載だなぁ。

 こういうノリに、一緒にはしゃげないから、ときどき爺臭いと言われるんだろうけど。

 山猫亭で、ベテラン冒険者たちの愚痴をたくさん聞いたからな。「若い頃に、もっと○○しておけばよかった」って。



 なんとなく、リーダーは剣士のガルドっぽい雰囲気だった。

 まあ、言い出しっぺもガルドだから、それが自然かな。



 ちなみに、山猫亭はCランクの冒険者が多い、中堅どころの宿だ。

 EランクからDランクにあがろうとしていた俺は、もっと安い宿に泊まっている。


 他の四人は歓楽街に近い宿に泊まっていたが、俺は職人街に近い方を選んだ。

 協調性がないと非難されたけど、夜は静かに眠りたいんだ。




 冒険者ギルドで、パーティー登録をした。


 登録料はかかるが、いろいろな特典がつく。

 たとえば、武器や装備を整えるための借金ができるようになる。

 パーティーの拠点として借家を借りられる。

 その一方で、メンバーの危機を救わなかった場合にペナルティーがつく。


 ソロの冒険者同士だと自分の身は自分で守るのが鉄則なので、最悪、モンスターに返り討ちに遭ったときに見捨てることもある。

 そんなことを繰り返せば評判が悪くなり、組んでくれる相手もいなくなるが……。




「さあ、『鮮血の深淵』のパーティー初仕事だ。ドカンとでかい依頼をやっつけてやろうぜ!」

 ガルドが他の人に聞こえるように大声を出した。


 他の三人も、「おー!」とか声を合わせちゃってる。


「待ってくれ。

 お互いの力量とか癖とかわかってないと、連携が取れないじゃん。初めは、Eランク相当から選ぼう」


 すごく嫌な顔をされたが、命を無駄に散らしたくないぞ、俺は。

 だからプライドを捨てて、下手に出た。

「俺は経験が少ないから、一度、レベルが低い依頼で、様子を見させてくれ」


「やれやれ」、「仕方ないなぁ」みたいな空気を出されたが、お前らだって同じランクだからな。



 受付へ依頼受注すると伝えに行ったら、「さすが、山猫亭で鍛えられただけありますね。いい判断です」と受付嬢にこっそりサムズアップされた。

 そうだよな。俺は間違ってない。




 で、大きめのネズミみたいなラグラットの討伐だ。

 人の腰くらいの高さで、歯が黄色い。鋭い歯でかじられると指くらいは持っていかれるし、そこから炎症を起こす。


 収穫された穀物の倉庫街を荒らすし、弱った病人が狙われることもある。

 これを五匹以上討伐するという依頼。


 Eランクなら六人以上で受けられる依頼だ。

 Cランク一人、Dランク四人のパーティーなら、楽勝のはず。だからこそ、パーティーとしての弱点を観察する余裕があると踏んだのだ。




 結果、めちゃくちゃでした。


 連携って言葉、知ってるか? というレベル。


 剣士が勝手に剣を振り回し、他のメンバーのフォローに入ろうとしない。

 盾役は中途半端な位置で、自分の分だけ防ぐ。位置取りが悪いので、味方の弓矢が当たっていた。

 弓矢は刺さったけれど仕留めきれず、ラグラットは大暴れだ。

 魔法使いは、一撃で仕留められなかったモンスターが火だるまのまま建物に入りそうになって、俺が慌てて仕留めた。ちょっと火傷したぞ。



 討伐証明として、尻尾を切って持ち帰らなければいけない。

 ひとり一匹分を切り取ればすぐ終わるのに……。誰も動こうとしないのは、なぜだ。

 声をかけたが、無視かよ。


 全部で七匹討伐したので戦果としてはまあまあだが、Dランクのパーティーの戦い方ではないなぁ。



 さて、他のモンスターが死骸を食べに来ないように、焼かなければ。

 呑気に雑談をしていたヴェリーを呼んだら、ぶーぶー文句を言われた。


 冒険者にもマナーというものがあってな……って、ランクアップのために先輩たちのパーティーで勉強させてもらったじゃねぇか。

 何を見ていたんだよ。



 ここまでひどいと、逆に見捨てられないと思ってしまった。


 村長の息子エドガーなら、「情に流されるな」と言うところだったろう。

 この時の俺は、それに気付かなかった。



 こいつらを死なせないように戦略を考えるのが、自分の役目だと思ってしまったのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ