準備完了
翌日から、ヴェリーと二人で冒険者の掲示板を見るのが日課になった。
依頼が貼ってある掲示板の横には、冒険者募集のものが並んでいる。
依頼を受注するには、パーティーの人数が足りない場合。
火力がほしい依頼。これはヴェリーだけのときも、俺と二人で入れてくれるときもある。
商人の護衛の補助。……梱包の技術が必要って、ほぼ俺への指名じゃねぇか?
護衛は高ランクにならないとできないから、現場を見られるだけでも勉強になる。
でも、ちゃんと指名して、指名依頼料を払ってほしいぞ。
まだ、下っ端過ぎて、そういうことを言えないんだけどな。
当然、雑用も多く半人前扱いだ。
厨房では先を読んで動けたし、頼られることもあった。
だが、冒険者としては何もかもが手探りだ。
単独で初心者の依頼をこなして経験は積んでいるが、パーティーで何が必要かわからない。
予想がつかず、咄嗟に立ち回れない。失敗するたびに情けなくて、もどかしい。
それでも、やりたいことに繋がっていると信じて進むしかない。
村の宿屋で働き始めたころも、何もできなかった。
山猫亭に後輩が入ってきて「できなくて悔しい」と言っていたのを、「すぐにできたら、一年間の俺の経験が泣くぜ」と励ました。
そうだ。初めはできなくて当然だ。一つずつ身につけていくしかない。
頑張れ、俺。ここで、へこたれている場合じゃないぞ。
やりたい世界に入ったんだ。
自分を信じて、進むしかない。
そんな日々を重ね、少しずつ「お、助かるよ」と言ってもらえるようになった。
血で汚れた物をさっと洗うと感謝される。
食事が段違いに美味い。まあ、これは……当然ですね、ふふふん。一気に雰囲気が良くなる、食事って偉大だな。
荷物がコンパクトだと移動しやすい。これも喜ばれた。体力を消耗しないですむから、戦闘が楽になるって。
短剣を使う斥候や接近戦が得意な人から、コツを学ぶ。
モンスターの返り血を浴びない戦い方を身につけろとも言われた。
体液に毒を含むモンスターもいるし、なにより臭くなる。それから洗濯屋に出すときに、料金が高くなるそうだ。
大丈夫だ。俺は前進している。
ある日、ヴェリーが注意を受けていた。
「あんた、火力は充分だけど、火を吸収するのも覚えなさいよ。山火事を起こしたら、ランク降格だからね」
この依頼は岩場での討伐だったから、モンスター以外に燃える心配はなかった。
だから、純粋に将来を心配したアドバイスだったと思う。
「そんなことしない」
ヴェリーはむくれていた。
ん? そんなことって、「吸収する練習」と「山火事を起こさない」のどっちだ?
こいつ、危機意識が薄いな。要注意だぞ。
同じEランクといっても、上下がある。
Dに近いEランクもいるし、Fから上がったばかりのEランクもいる。
俺の方がヴェリーより下だから、ヴェリーが休む日にも細かい依頼を受けていた。
そんな生活を始めて半年、俺はヴェリーとほぼ同時にDランクになれた。
忘れていたが、俺はワイバーン討伐のときの貢献が評価されていたのだ。
「混乱の最中でとっさに判断し、適切な人を選んで指示を出せるのも、パーティーにとって大事な能力です。
期待していますよ」
と、顔なじみになった受付嬢に言われた。
一時期、俺にベタベタすり寄って来た子は、裏方に異動させられたらしい。
俺だけじゃなく、将来有望と思った男に付きまとい、複数の苦情が寄せられたとか。
鼻の下を伸ばした男たちからではなく、その恋人たちから……さすがに露骨にやりすぎだったよな。
懲りずに、奥の扉から手を振っている。……無視していいか?
それはさておき、頑張りを評価されて嬉しいと喜んでいたら、横から水を差された。
「ええ~、あんたズルい。闘ってないのに加算されるって、なに?」
今、受付嬢さんが説明してくれたの、聞いてなかったのかよ。
これでパーティーが正式稼働するんだから、喜んでくれないかなぁ。




