勢い
声をかけてきた二人は、さっと同じテーブルについた。
ガルドもブルーノも上機嫌だ。
一人は綺麗なエルフ、もう一人はツインテールの魔女っ子。男の浪漫をかき立てるのは、わかる。
自分たちの注文を追えたエルフが、俺の顔をじっと見つめた。
「お主、ワイバーン討伐のときに活躍してたであろ」
「ん? ああ……あれか」
あのときに冒険者ギルドにいたのか。軽く受ける。
「え、こいつが?」
ブルーノが「まさか」と疑うような口調で、乗り出してきた。がたいが大きいから、壁のようだ。
「荷造りのときに画期的なアイディアを出して、絶賛されてたんだよぉ。ね?」
魔女っ子が俺の代わりに、自慢げに説明した。
初対面なのに、身内面というか……ぐいぐい来るな。
「ぷぷ、なんだ。戦闘じゃないのかよ」とブルーノ。
少し離れた街で、まったく関与できなかったお前に笑われる筋合いはないぞ。
「そうだよな。戦力になるわけがない」とガルド。
否定しないけど。否定はできないけども、言い方ぁ……。
なんだか、歓迎されていないみたいだから、飯食ったら帰ろうかな。
「ね、ね。英雄の帰還パーティーにも出たの?」
魔女っ子が目をキラキラさせている。
「いや、厨房で働いてたから」
目も合わせず、ぶっきらぼうに答えてしまった。
英雄目当てに声をかけてきたのか。直後はたくさんいたけど、久々に現れたな。
こういうのは、相手にすればするほど図々しくなる。
「英雄って、アーデンさんか?
なら、俺たちは同じクランにいたんだぜ。な?」
ブルーノがガルドの肩に手を回した。
「おう。なんか知りたいことがあったら、そいつより俺たちの方が詳しいぜ」
女の子たちにかっこつけたいのはわかるが……機密漏洩するなよ、ガルド。
「ええ、すっご~い!
……じゃあ、強いんだ?」
魔女っ子が上目遣いで二人を見る。
「まあな!」
ガルドが人差し指を鼻の下の当てて、自慢げな顔をした。
討伐するメンバーに選ばれなかったくせに。
――いかん、さっきのこいつらと同じレベルの僻みだぞ。冷静になるんだ、俺。
女の子たちの料理が運ばれたのをきっかけに、改めて俺たちから自己紹介をした。
それを聞いていた魔女っ子が、手を挙げて、勢いよく自己紹介する。
「はい、はい。後衛の私たち、ピッタリだと思いま~す!
あたしは魔法使いのヴェリー。火で攻撃できるよ」
「妾は弓使いじゃ。セリアと呼んでくれ」
ブルーノがそわそわしながら確認する。
「その耳……エルフ?」
「……半分な」セリアは目を伏せた。
「年齢のことは訊かないであげて~」
ヴェリーはセリアに横から抱きつき、庇うような体勢だ。
というか……さりげなくマウント取ろうとしていないか、魔女っ子が。
冒険者ランクの確認をしたら、セリアがCランク、ガルドとブルーノがDランク、俺とヴェリーがEランクだった。
「ランクが低い二人で、Dまであげてきなよ」とガルドが提案した。
「あ、そぉだね。トーマ君、よろしく。頑張ろ」
ヴェリーは俺の手を握り、小首をかしげて笑った。
あざといな、と反感を覚えつつ、頬が赤くなるのをとめられない。くそ、悔しいぞ。
冒険者のランクは能力の目安で、受けられる仕事もそれで決まる。
Eランクというのは初級だ。
Fランクの初心者よりは上。でも、一人前というのはDランク以上。
Cランクでようやくプロと認められる。
ワイバーン討伐は、Cランク以上でないと参加できなかった。
俺、加入をやめようと思ってたんだけど……だって、一度食事をしただけの相手だぜ。
実力も確認しないで組もうとしている同郷の二人が、とても危なっかしく見える。
俺は冒険者としては駆け出しだが、それなりに社会人経験を積んでいるのだ。
まあ、ここで見捨てるのも目覚めが悪いか……。
それに、もしかしたら……相性が悪くても英雄アーデンと村長の息子エドガーみたいに、ぶつかり合って支え合うような関係になれるかもしれない。
そんな憧れが捨てられず、つい、この流れに乗ってしまったのだった。




