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『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第三章 冒険者になる

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勢い

 声をかけてきた二人は、さっと同じテーブルについた。

 ガルドもブルーノも上機嫌だ。


 一人は綺麗なエルフ、もう一人はツインテールの魔女っ子。男の浪漫をかき立てるのは、わかる。



 自分たちの注文を追えたエルフが、俺の顔をじっと見つめた。

「お主、ワイバーン討伐のときに活躍してたであろ」

「ん? ああ……あれか」

 あのときに冒険者ギルドにいたのか。軽く受ける。


「え、こいつが?」

 ブルーノが「まさか」と疑うような口調で、乗り出してきた。がたいが大きいから、壁のようだ。


「荷造りのときに画期的なアイディアを出して、絶賛されてたんだよぉ。ね?」

 魔女っ子が俺の代わりに、自慢げに説明した。

 初対面なのに、身内面というか……ぐいぐい来るな。


「ぷぷ、なんだ。戦闘じゃないのかよ」とブルーノ。

 少し離れた街で、まったく関与できなかったお前に笑われる筋合いはないぞ。


「そうだよな。戦力になるわけがない」とガルド。


 否定しないけど。否定はできないけども、言い方ぁ……。

 なんだか、歓迎されていないみたいだから、飯食ったら帰ろうかな。



「ね、ね。英雄の帰還パーティーにも出たの?」

 魔女っ子が目をキラキラさせている。


「いや、厨房で働いてたから」

 目も合わせず、ぶっきらぼうに答えてしまった。

 英雄目当てに声をかけてきたのか。直後はたくさんいたけど、久々に現れたな。

 こういうのは、相手にすればするほど図々しくなる。



「英雄って、アーデンさんか?

 なら、俺たちは同じクランにいたんだぜ。な?」

 ブルーノがガルドの肩に手を回した。


「おう。なんか知りたいことがあったら、そいつより俺たちの方が詳しいぜ」

 女の子たちにかっこつけたいのはわかるが……機密漏洩するなよ、ガルド。



「ええ、すっご~い!

 ……じゃあ、強いんだ?」

 魔女っ子が上目遣いで二人を見る。


「まあな!」

 ガルドが人差し指を鼻の下の当てて、自慢げな顔をした。


 討伐するメンバーに選ばれなかったくせに。

 ――いかん、さっきのこいつらと同じレベルの僻みだぞ。冷静になるんだ、俺。



 女の子たちの料理が運ばれたのをきっかけに、改めて俺たちから自己紹介をした。


 それを聞いていた魔女っ子が、手を挙げて、勢いよく自己紹介する。

「はい、はい。後衛の私たち、ピッタリだと思いま~す!

 あたしは魔法使いのヴェリー。火で攻撃できるよ」


「妾は弓使いじゃ。セリアと呼んでくれ」


 ブルーノがそわそわしながら確認する。

「その耳……エルフ?」


「……半分な」セリアは目を伏せた。


「年齢のことは訊かないであげて~」

 ヴェリーはセリアに横から抱きつき、庇うような体勢だ。

 というか……さりげなくマウント取ろうとしていないか、魔女っ子が。



 冒険者ランクの確認をしたら、セリアがCランク、ガルドとブルーノがDランク、俺とヴェリーがEランクだった。


「ランクが低い二人で、Dまであげてきなよ」とガルドが提案した。


「あ、そぉだね。トーマ君、よろしく。頑張ろ」

 ヴェリーは俺の手を握り、小首をかしげて笑った。

 あざといな、と反感を覚えつつ、頬が赤くなるのをとめられない。くそ、悔しいぞ。



 冒険者のランクは能力の目安で、受けられる仕事もそれで決まる。

 Eランクというのは初級だ。

 Fランクの初心者よりは上。でも、一人前というのはDランク以上。

 Cランクでようやくプロと認められる。


 ワイバーン討伐は、Cランク以上でないと参加できなかった。



 俺、加入をやめようと思ってたんだけど……だって、一度食事をしただけの相手だぜ。


 実力も確認しないで組もうとしている同郷の二人が、とても危なっかしく見える。

 俺は冒険者としては駆け出しだが、それなりに社会人経験を積んでいるのだ。


 まあ、ここで見捨てるのも目覚めが悪いか……。


 それに、もしかしたら……相性が悪くても英雄アーデンと村長の息子エドガーみたいに、ぶつかり合って支え合うような関係になれるかもしれない。


 そんな憧れが捨てられず、つい、この流れに乗ってしまったのだった。


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