表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第二章 三年目の下ごしらえ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/63

出立する背中

 ホテルに向けて出立する前の晩、山猫亭のオヤジさんに声をかけられた。


 外国の視察団が去ったら、どうするつもりか――と。

 俺は臨時の応援として、厨房で働いているのだ。

 山猫亭に戻ってくるのか、どうか……はっきりさせなければ。



 忙しくてお嬢さんと話す時間もなかった。

 温かい笑顔を懐かしく思うし、正直、まだ胸は痛む。

 けれど、切なさに泣いたりはしなかった。


 毎日ではないが、婿に来る男が宿屋で修行しているのも目にしている。

 俺が書いた手順書を、真剣に読み込んでいた。後輩に質問する姿は、誠実な青年なんだと思えた。



「あちらの街で、冒険者ギルドで働くのもいいかと思ってます」

 専業の冒険者をするには、戦闘力が足りないだろう。クランハウスで調べ物をしていて、それがよくわかった。


「そうか。何かあったら、相談しろよ」

 と、優しいオヤジさん。


 だが、情に篤いのも、善し悪しだ。

 アーデンが鼻つまみ者を追い出せずに、クランを崩壊させたみたいに。


 オヤジさんも、昔の冒険者仲間の息子を雇って、お嬢さんを危険にさらした前科があるんだからな。



 ……山猫亭は、オカミさんがいるから大丈夫だろうけど。

 実は、山猫亭に来てすぐに「気まずかったら、他の宿を紹介するけど。大丈夫かい?」と気遣ってくれた。

 そのときに近況をいろいろと聞いて、自分はどうしたいか何日もかけて考えたのだ。



 絵が上手な冒険者に、新しい道を示せたのも面白かったし。

 英雄を利用しようとする人と、振り回されないように守る者の攻防。その中で、こちらも利を得られるように知恵を絞る日々は、大変だったけれど刺激的でもあった。



 その一方で、ホテルのオーナーや金持ちたちには何度も幻滅させられたな。

 利益や話題になるものを露骨に追い求めて、「情」がないにもほどがあるというか……ホテルの厨房に骨を埋めたいとは思わない。


 厨房で威張っている、貴族の跡継ぎになれなかった人たちも癖者だしな。

 オーナーや客には媚びて、下っ端の俺たちを人間扱いしないし、意見を言うことも許さない。

 下働きだから気付くこともあるのに。

 きっと、職場環境は十年経っても二十年経っても、変わらないだろう。




 そんな思いを抱えながら、数日間、冒険者たちと旅をした。

 ワイバーンが出た村に向かう彼らは、途中の村で薬草や軟膏を買ったり、添え木になりそうな木材や包帯を準備していく。

 野営料理も手慣れていて、食材を現地調達するのも見事だ。



 あまりにも楽しくて、俺だけ途中で抜けるのが悔しくなった。


「正式なパーティーメンバーにはできないけど、たまに書類仕事とか出発前の準備とか手伝ってほしいくらいだ」

 お世辞もあるかもしれないが、別れ際にそんなことを言われた。


「クランが存続してたら、常勤の職員になってもらえたのにな」

「それだ! ほんと、惜しい才能だぜ」


 そんな賛辞の言葉を残し、彼らは先を進んでいく。


 いつか、彼らと肩を並べて歩ける日がくるだろうか。




 まずは、近いうちにあちら側の世界に行けるよう、自分で考える。


 絵の得意な子が工房への道を見つけたように、やりたいことを口にしたら、チャンスが手に入ることだってある。

 無理だと笑う人はいるけれど、そいつらを気にして諦めるなんて、もったいない。



 俺は決意を新たに、ホテルに戻る。


 道は、自分で作るんだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ