表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第二章 三年目の下ごしらえ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/63

めちゃくちゃ

 村の出身者で作ったクランの本部に到着した。


 アーデンが大怪我をして戻ってこないと思っていた連中は、かなり好き勝手にしていたようだ。

 はぁ、これの後始末か。



 アーデンは自室に入り、休んでいる。動こうとするから、休ませたというのが正解。



 まず、各人の部屋を巡って、実績と今後の希望を訊いていく。

 村の自警団へのスカウトも兼ねているので、エドガーと二人で回った。


 汚い部屋が多いが、中には綺麗な部屋もあり……実力以上に豪華な品々がある、怪しい部屋もあった。



 大半がこの街で冒険者を続ける意向で、数人がアーデンと村に帰還したいとのこと。

 そして、アーデンが帰ってこなければクランを引き継げると思っていた男が、大騒ぎをした。


 腕っ節では敵わないので「このクランを引き継ぎたければ、この金額で一括購入してください」と突きつける。

 クランの建物の購入だけでも、それなりの金額だ。

 ジャラジャラ着飾っているのを見るに、貯金などしていないだろう。



 アーデンの部屋で夕食を取りながら、意見交換をする予定だ。


 その前に、空いている風呂に入ってしまおうと考えたら、脱衣所で声をかけられた。


 ムキムキの冒険者に比べたら細身なので、クランハウスでは襲われないように気をつけなきゃと思っていたのに、油断した。

 ……ある部屋で、嫌なものを見つけてしまったのだ。アーデンに報告すべきだが気が重い。

 そんなことを考えていて、注意が散るなんて失態だ。

 俺としたことが。



「アーデンを説得しろ。このクランは俺のもんだ」

 先ほど大騒ぎして「金がないだろう」と返り討ちにあったばかりなのに、こりないヤツだな。


「俺はエドガーさんの補助をしているだけです。

 お古をもらうのではなく、あなたが新たにクランを立ち上げてください。

 そのときに村の名前を使いたいなら、村長を説得して……」

 話している最中なのに、拳が飛んできた。


 反射的に、脱いだばかりの上着を片手でつかみ、その布で拳を受け流す。

 拳の軌道をずらしたので、背後の木棚に叩きつける形になる。


 ベキベキッと、拳が棚板にめり込む重たい音。

 力自慢の男は、拳がめり込んで動けない。無理に抜こうとしたら、木片でどこを傷つけるかわからないからだ。


 男の呻き声を背に、俺は一歩引いて息を整える。

 こうなれば、睨まれたとしても怖くはない。


 首元の急所に指先を軽く押し当てる。ほんの少し力を入れれば、息が止まる位置だ。


「あんまり舐めるなよ。

 冒険者相手の宿屋と貴族相手のホテルで働くのは、あんたが考えるより危険なんだぜ」


 モンスターとの闘いは経験が少ないが、人間相手の経験値はめきめき上がっていく。

 体格差を活かしたり、相手からの攻撃を利用して反撃したりするのはお手の物だ。


 これじゃ、冒険者じゃなく傭兵に向かってる感じだよなぁ。

 ため息を吐いて、胸元の笛を吹いた。



 エドガーと信用できる冒険者が来てくれたので、事情を説明する。

 エドガーたちが、男を捕縛してアーデンの前に連れて行った。


 俺は風呂に入り損ねたまま、服を着て後に続く。




 アーデンはベッドの上で、上半身を起こしている。

 その前に縛られた男がひざまずかされた。



 今の罪状は、せいぜいアーデンの客に対する脅迫と暴行容疑か。


 男は、このクランへの愛情を訴えかける。

 俺にはただの言い訳にしか聞こえないが、アーデンは黙って聞いていた。



 泣き落としに持ち込もうとする様子に、腹の底が冷えた。

 ……アーデンが「仲間」という情にほだされる前に、暴露しなければ。



「アーデンさんの元片腕の部屋、掃除もされずにそのままでした――」

 元宿屋の従業員としては、許せない怠慢だぞ。


「ベッドと壁の間に吐瀉物がありましたが、虫が湧いていませんでした。

 片目を失明し、片耳も聞こえなくなったんですよね。

 ロミ茸の特徴です。

 盛ったのは、あんただろう」


 アーデンが歯ぎしりをして、男の部屋を捜索するように指示を出した。


「おそらく、治癒師も共犯者だ」

 男の目が、一瞬逸れた。

 適切な治療をすれば、視力は落ちるが失明はしない。


 呼ばれた治癒師は、「俺だけじゃない!」とすぐに数人の名前を挙げた。

 みんな、ジャラジャラ豪勢に着飾っていた連中ばかりだ。

 横領していると、わかりやすく自己主張してたわけだ。……なんなの? バカなの?



 そして、アーデンの応接セットに積み上げられた帳簿。

 アーデンの片腕だった男が冒険者を続けられず、村に帰ってから白紙になっている。誰もつけていない。数年に一度のギルドの調査をどうするつもりだったのか。


 横領犯たちの部屋に転がっていた高額な品物の請求書を見ると、帳簿が白紙になってからの日づけになっている。すべてだ。

 目を光らせる人間を消して、好き勝手にやっていたわけだ。


 これは……クランの代表として、アーデンの責任も問われるだろう。



「アーデン。こいつらを冒険者ギルドに突き出すか、クラン内で処理するかはお前の権限だ。

 だが、村では受け入れない」

 エドガーが宣言した。



 俺たちは部屋を出た。

 明日、ワイバーン討伐の現場に村人を迎えに行く計画を立てようとエドガーに言われた。

 食事は自分の部屋で携帯食を食べ、鍵をしっかりかけて寝るように……とも。


 アーデンはどう決着をつけるつもりなのか……気にはなるが、俺は部外者だ。

 とりあえず、風呂に入ってこよう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ