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英雄になった男(前編)

 糊の受付嬢だけでなく他の女性にも、ほのかな好意や積極的なアピールをされるようになってきた。

 初めは嬉しかったが、傷つけずにあしらうというのも気を遣う。

 申し訳ないが、うっとうしく感じることも出てくる。


 ろくにしゃべったことがないのに、どこに惹かれたというんだろう。

 緊急事態に活躍したことで、頼りになる英雄のイメージでも重ねているんだろうか。

 不躾な視線に苛つく日もある。



 箱に貼る絵を描いてくれた姉弟の冒険者とは、仲良くなった。

 孤児院出身で冒険者になるしかなかったけれど、姉はあれから絵を依頼されることがあるそうだ。

 もしかしたら、絵の工房の下働きになれるかもしれないと目を輝かせている。


「絵の工房は、一度断られているだ。こんな風にチャンスをもらえるなんて、夢みたい」

「姉ちゃんは鈍くさいから、そっちの方がいいよな」

「トーマさん、ひどいと思いません?」

 小型のモンスターが出る狩り場に向かう間に、仲のいい姉弟のやりとりが心地よかった。




 遠い街のワイバーン討伐など、すっかり過去のものになっていた。



 討伐から一ヶ月経ったころ、ホテルに俺宛の手紙が届いた。


 村長の息子さんからだ。

「村出身の冒険者がワイバーン討伐で負傷し、村に連れて帰る。

 そちらの街を通るので、怪我人が泊まれる宿屋を紹介してほしい」ということだった。


 到着予定は三日後。

 今日の下働きの分を急いで片付けて、何軒かの宿屋と交渉しに行けばいいかと考えていたら、オーナーが厨房に来た。


 ワイバーン討伐で活躍した英雄がこの街に来るなら、このホテルに泊まってもらうと。



 田舎の無名の冒険者が大活躍したと、評判になっているそうだ。

 しかも、再起不能の怪我を負ってしまうというドラマチックな冒険譚として。


 無責任な貴族や金持ちたちが、本人不在のまま盛り上がっているらしい。

 確かに、レストランで「英雄」の話を耳にしたが、自分の知り合いだとは思わなかった。


 俺自身も「へー、すごい冒険者がいるんだな」と憧れまじりで聞いていたのに、村人だと知った途端に怪我を心配するんだから、無責任な人間のひとりか……。




 三日後に出迎えた英雄は、片足を失っていた。

 村長の息子エドガーさんが、ボロい馬車で登場する。


 ピカピカの綺麗な服を着たオーナーと、ほこりまみれの二人の差がエグい。

 英雄だともて囃しながら、金持ちたちは誰も帰路の心配をしないことが、悔しくて切ない。



 微妙な空気のまま、二人は客室に案内されていった。


 厨房に戻ったが、オーナーに呼び出される。二人が滞在している間の世話を仰せつかった。

 その方が、ホテル側もあの二人も気が楽になるんだろうな。



 客室に行くと、湯浴みをしたいと言われた。

 幸い部屋に風呂がついているので、エドガーさんと二人がかりで風呂に入れる。

 汚れすぎて泡立たないが、長湯は弱った体によくない。

 ざっと湯を流して、バスローブやシーツが多少汚れてしまうのは目をつぶってもらうことにした。


 明日、また風呂に入れば、綺麗になるだろう。



 オーナーが服を何着か持ってきた。

 明日、パーティーを開くので出席してくれないかという相談を持ちかけてくる。


 討伐と旅の疲れが溜まっているのと、汚れが落としきれていないことをエドガーさんが説明する。

 滞在期間を五日間に伸ばし、四日目にパーティーをすることに落ち着いた。



「パーティーで二時間ほど我慢したら、こんな高級ホテルに五日もただでいられるんだ。

 仕事としちゃ、とんとんだろ」

 オーナーが去ったあと、元冒険者が豪快に笑った。


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