冒険者ギルドの片隅で
冒険者ギルドで薬草採取の依頼を受けた。
この地域のことを知るいい機会だ。
昼過ぎには街に戻り、どこか食事処を探して知らない料理を食べてみたい。
そんなことを考えながら戻ると、ギルドは大騒ぎだった。
ワイバーンが出た?
B級以上の冒険者には、討伐参加の命令が出た。
情報交換や準備で、気が立っている冒険者たち。
前線への支援物資でごった返すフロア。
自分で考えて動ける人間と、最優先事項の指示を出す人間はいる。
だが、こまごました采配を振るう人間がいなくて、手伝う気はあるがどうしていいかわからない人間もいる。
新人らしき、うろうろしているギルド職員と、隅で小さくなっている冒険者を見つけた。
「あの、後方支援を手伝いたいんですけど」
職員に声をかけて、様子をうかがう。
「私だって、何をやっていいかわからないわよ。殺気立ってて、話しかける隙もないし」
こちらも、そうとう苛立っているようだ。
「なら、提案なんですけど、支援物資に目印を付けませんか?
箱詰めした中身が一目でわかったら、現地で必要な物をすぐ取り出せますよね」
「そんなことして、なんになるのよ」
職員に噛みつくように返された。
宿屋の倉庫でやった方法なんだけど、そのまま言っても「宿屋と冒険者を一緒にするな」と怒られて終わりかもしれない。
どう説明するか考えていたら、冒険者が会話に加わった。
「なるほど。武器、食料、医療品……一刻を争うときに箱を開けて『違った』となるのが、防げるわけだ」
「そういうことなら……」と職員が納得した。
ベテランたちが駆け回る横で、新人たちが小さなことを始めた。
職員は小鍋で小麦粉に水を加えてよく混ぜ、糊を作る。捨てる予定の紙を切って、数枚に分ける。
冒険者の中で絵がうまいヤツに、その紙に剣や野菜の絵をペアで描いてもらう。
糊を冷ましている間に、物資担当のベテラン職員を捕まえて、説明をした。
新人職員と最近顔を出すようになったばかりの冒険者を、胡散臭そうに睨みつける。
実績もない人間が、緊急事態にうろうろするのが不快なのはわかる。
それどころじゃないんだろうが、現場が楽になるんだから……と食い下がろうとしたとき。
「あ! お前、山猫亭の小僧じゃねぇか」と指を指された。
宿屋の常連だったA級冒険者だ。
顔見知りに会うのが、こんなに心強いとは。しぼみかけていた気力が、パッと充電された気がする。
「お久しぶりです」
「こんなとこで会うとはなぁ。こいつ、すごいっすよ。梱包させたら、ピカイチの腕前」
肩を組んで、紹介してくれる。
評価してくれていたことが、とても嬉しい。
今なら、バリバリ働いてみせるぞ。
「じゃあ、さっきの案やってみな」と一転、許可が出た。
内容より誰が言うかに影響されるのか。少しムッとするが、それどころではない。
この人に認められるのが目的ではなく、現場の冒険者の役に立つのが大事なんだから。
見本に、箱の上と側面に中身と示す絵を張ってみせた。
「こんなふうにしておけば、現場での混乱が減るかと」
「なるほどな」
後は手分けして、貼っていく。
他にも、手持ち無沙汰にしていた人たちが手伝いに来る。
俺はさっきの冒険者に呼ばれて、補充の武器が入った箱を詰め直した。
かなり隙間ができたので、追加の武器を入れていく。
あたりがすっかり暗くなった頃に、ようやく荷造りが終わった。
ギルド職員に、今日の働きは「ギルドへの貢献」として実績に加えると言われる。
俺たちは、小さく歓声をあげた。
「これで、朝一で出発できるよ。ありがとな」
打ち合わせをしているテーブルから、冒険者が声をかけてくれた。
「ご武運を!」
この、活気が好きだ。
みんなでやり遂げる雰囲気がいい。
温かくなった胸に拳を当てて、にやけそうな顔を隠しながらホテルに戻るのだった。




