三日目 襲撃のあと
剣劇の音がやんだ。馬車を襲ってきた連中を制圧したらしい。
馬車の外からベルーフに「カーテンを開けていいぞ」と声をかけられた。
馬車の中にいた俺たちは、緊張感から一気に解放された。脱力するようなため息とすすり泣きが聞こえる。
カーテンを開けると、窓越しに転がっている奴と捕縛された奴が見えた。
俺は後始末の手伝いをすべく馬車から降りた。
その途端に、ベルーフに気をつけろと注意される。
「こいつらが囮で、後始末している間に本体が来るかもしれない。
非戦闘員はこのまま馬車で待機。
トーマが出たら、また鍵をかけろ」
うわ、そうだよな。
不注意だった。経験不足が恥ずかしい。
ベルーフが引き続き馬車の警護をして、俺とメルティナが後始末に参加した。
メルティナが槍でつついて、死体か死んだふりかを確認していく。
死んだふりだった場合に備え、俺は短剣を構えてメルティナの護衛をする。
生きていたら手を挙げて兵士を呼んで、捕縛してもらう。
死んでいたら身分がわかりそうなものと武器を回収するように指示された。
緊張と血の臭い、生ぬるい空気に吐き気がこみあげる。
視界にフォンが映り、心底ほっとした。
無事だったんだという安堵と、殺伐とした空気の中に優しい日常の香り――
だが、聞こえてきたのは「この人、呼吸しています」という死んだふりの判定だった。
風魔法では、空気の僅かな動きも把握できる。
ほっとしている場合じゃないよな。俺も仕事に集中しよう。
こちら陣営の怪我人は、ポーションを飲んで回復を図っていた。
しばらくすると、重戦士のダルグと兵士が前方の倒木をどけて戻ってきた。
生きている捕虜の中から数人を選んで護送車にぶち込み、襲撃現場から速やかに撤収する。
護送車に入れるまで、令嬢には猿ぐつわをせずにしゃべらせていた。
うるさくてかんに障るが、情報をぺらぺらと漏らすので黙らせられない。
捕縛された一人が青ざめて、黙れと言いたそうだった。そちらには猿ぐつわをしているので、うーうーと呻いて体をよじるだけ。
世間知らずで利用しやすいと考えたんだろうが、考えなしだから口を閉ざす知恵もない。
令嬢はその男を睨み、ついに「あんたたちの教団になんか、協力しなければ良かったわ」と言った。
それを聞いたエリオットが「なるほど?」と凶悪な笑みを見せた。
「行動力のある馬鹿が家門を滅ぼす。
人の事業を横取りしようと、邪魔ばかりしてきたが……家庭を顧みなかった結果がこれか。
あの男は吠え面をかくだろうか。実に楽しみだ」
トゥランが顔をしかめた。
「お気持ちはわかりますが、不用意に本心をさらけ出さないでください」
エリオットは答えずに、片方の唇をあげた。
足を怪我した兵士が治療を受けたあとに、ぬいぐるみの荷馬車の御者をすると手綱を取った。
メルティナは彼と交替して馬に乗り、周囲を警戒する。
次の宿場町まで急ぐぞと号令がかかった。
「護送車があると便利だな。襲撃された場所で時間を取られなくてすむ」
馬車の上に乗ったベルーフが、感心したように言った。
「あの場所で捕虜の中から尋問する奴と現場に捨てていく奴の判別って、一仕事なんだ」
明らかに中心人物と思われる者は連れて行く。いかにも捨て駒という者は置いていく。
ベルーフが言っているのは、情報を持っていそうか判別が難しい者のことだ。今回は護送車に放り込んである。
「縛られたまま放置されたら、獣に襲われて死にませんか?」
この辺りにモンスターが出るかは知らない。ここの領内の情報は、冒険者ギルドにはあまりなかったんだ。
「おう。宿場町の警備担当が到着するまで無事でいられるか、運任せだな」
ベルーフは軽く言った。
次の宿場町に着いたら、襲撃されたことを伝える。その町から、襲撃場所に向かう人員を揃え、馬か馬車を用意する。
その人たちが到着するまで、ずっと怯えているわけか。それなりの罰になりそうだ。
敵に対して同情しない――これが護衛の専門家ということだろうか。
俺はモンスターを単独で倒せる体格ではないので、護衛をメインとする冒険者になることも考えた。だが、敵が「人間」という難しさもあるんだな。




