三日目 昼食の後
昼休憩に、メルティナに訓練を頼んだ。
途端に明るい顔になる。
俺とペアを組むときに何を教えてあげようか考えてくれたそうだ。
ええ、そんな、気合いが入っていたのか。
槍の柄の長さをかいくぐる訓練をしようと提案された。
俺の武器は短剣だ。
半月刀を使うルナより、もっと相手の懐に入らなければいけないということだよな。瞬発力と体の柔らかさでは、ルナに敵わないというのに……いや、頑張ろう。
「槍が引かれるタイミングが狙い目だ!」
意図的にタイミングを半歩遅らせるって、難しい。歌や踊りでも難しいことを、戦闘中にやれと言われているのだ。
「柄を手で押す・払う・掴む!」
槍で攻撃してくる人の懐に飛び込むよりはやりやすいかと思いきや、細い柄を確実に掴むのは簡単ではなかった。手を弾かれたり、指を痛めた。
接近して脇腹を取った!と思った瞬間に、背中を叩かれた。
内臓に衝撃が走る。痛え!
昨日、ルナがやられてたな、これ。
昼飯の直後で、めちゃくちゃキツい。うげぇ。
ベルーフが、「午後の護衛に影響のない程度にしとけよ」と声をかけてくれた。
ありがとう! メルティナは夢中になって、加減を忘れていたと思う。
午後は俺が馬車の中で護衛することになった。
これは……眠気との戦いだ。
外で風に吹かれているほうが、目が覚めていいかもしれない。
ふいに周囲を警戒している兵の動きが忙しなくなった。
もしや、襲撃か?
「入り口の鍵は閉まっていますか?」と、同乗者たちに声をかけた。
「はい。大丈夫です」
「え、あ、締めました」
次にカーテンを閉めてもらう。
「馬車を高速で走らせるかもしれない。体を低くしてもらうかも。
指示が出たら速やかに従って」
早口で伝えると、青ざめながらうなずいてくれた。
天井をノックして、ベルーフに状況を尋ねる。
「今のところ、兵士が牽制している。
前方を偵察に行った奴が問題なしと言うなら、領主の馬車と一緒に駆け抜けるぞ。
準備しとけ」
「みなさん。舌を噛まないよう口を閉じて、どこかに掴まっていてください」
『駄目だ! 前方に倒木あり。馬車を停め、襲撃に備えろ』
領主軍の騎士、トゥランの声が馬車の中に響いた。
御者台のほうから馬にかける声が聞こえ、急停止した。
後ろ側の座席に座っていた人たちは体が浮かないよう、近くの取っ手にしがみついた。
今、どこからトゥランの声がしたんだ? 領主の馬車にエリオットと乗っているはずだろ。
俺が驚いていたら、商業ギルドの職員が教えてくれた。
「冒険者のオルドさんが、通信の魔法を四台の馬車に施してくださったのです」
なるほど。敵に悟られずに指示が出せるのは、すごく便利だ。
ベルーフが屋根から室内に声をかけてきた。
「俺たちが戦う。突破されたら、トーマが室内を守れ。短剣だから適任だ」
「ということです。みなさん、できるだけ体を丸めて、小さく蹲ってください」
俺は短剣を構え、馬車内の中央に陣取った。
膝を曲げて、いつでも動けるように。カーテンを閉めているから、周囲の音と気配に神経を尖らせる。
武器がぶつかり合う金属音。
かけ声と悲鳴、うめき。
荒々しい足音。
刺したり切ったり、争っている気配。
馬のいななき。
外が見えないから、どうなっているのか不安が募る。
ときどき、知り合いの声が聞こえる。
ダルグの咆哮。微かにルナの声も……。
手に汗が滲む。肝心なときに滑ったら大変だから、ズボンで手のひらの汗を拭った。
馬車が揺れた!
敵が迫ってきたのか? 馬車の中の緊張感が痛いくらいに増す。
すぐに、メルティナが馬をなだめる声が聞こえた。
馬の荒い息。足踏みの音と揺れる馬車。
驚いちゃったんだな。そりゃ、馬も怖いよな。
「だ、大丈夫。この馬車は貴重品用で、槍を通さないようになっているの。大丈夫よ」
商業ギルドの荷物係が、震えながらみんなを励ます。
「私たちが無事でも、ぬいぐるみが串刺しになったらお咎めがあるのでは?」
縫製担当の男性が、なよなよとした弱音を吐いた。
別の恐怖を植え付けるんじゃねぇ、この馬鹿が!
ばさーっ、どさっと、重たい音が聞こえた。
続いて、場違いな女の子の声。キンキンとした、ヒステリックなご令嬢らしき話し方だ。
「わたくしを、誰だと思っているの? 無礼者! 離しなさい!」




