三日目 心の傷の影響
分岐点で右と左のどちらに進むか。
話し合いで左の道を選ぶことになった。
決め手は、襲ってきた相手を殺したときに問題になるか否かだった。
右の道でこの土地の領主関係者に襲われた場合、迎撃して死亡させたら、領主から苦情が出る可能性がある。
弱みに付け込んで交渉しようと考えているかもしれない。
一方、左の道で、そちら側の他領から襲撃者が来たとする。生け捕りにできなくて殺してしまったとしても、その背後にいる者たちは騒ぎ立てられないだろう。
不当に物を奪おうとして他人の領地で暴れ、返り討ちにあったなど恥の上塗りだ。
話し合いの途中で冒険者パーティーのリーダー、ダルグが呼ばれて参加した。
「そりゃ、気を遣わずに戦えるほうが絶対に楽だ。
致命傷を避けて戦闘不能にするなんて、圧倒的に戦力差がある場合のお遊びだからな」
ダルグは苦笑いした。
ご令嬢を護衛する場合、そのような要望がよく出るらしい。
「こちらの領主は獣人です。
ご挨拶に寄りたいというようなご希望はないのかな?」
エリオットが質問した。
「いや、獣人は種族によって性質が違うから、不用意に近づかないようにしている。
東の方にある獣人国ってのも、国というより『獣人エリア』という感じだ。
それぞれの獣人の縄張りがある地域と考えた方がいい。国としてまとめようなんていう意識もない」
へえ、獣人国って、そういう感じなのか。
面白い話に惹かれて、聞き入ってしまう。
「ねえ、トーマ君。訓練しないの?」
メルティナが槍を持って立っていた。
「すみません。話し合いがとても勉強になるので……」
目が離せないというか、「耳が離せない」とでも言いたい状況だ。
「ふうん、そう」
と、気分を害したように背中を向けられた。
なんだろう……メルティナとはタイミングが悪いというか、些細なことですれ違っているな。
ああ、ルナたちは誰かが拗ねても、誰かが慰めるから上手く回っているのか。
「光牙の道標」のパーティーには慰め役はいないのか……あ、女性はメルティナだけ。
逆ハーレムパーティーじゃん――唐突に、それに気がついた。
次の馬車の配置を決めるとき、メルティナはわかりやすく機嫌が悪かった。
ベルーフが彼女に荷馬車の中の護衛を割り振った。
俺は屋根で護衛し、ベルーフが御者をする。
ベルーフが小声で、「商業ギルドの荷物係とおしゃべりでもして、メルティナの機嫌が直るといいな」と言った。
思わず、「頼りになる先輩だ!」と感謝しそうになった。不機嫌な女性って怖い。
見晴らしのいい場所を通るとき、少し警戒を緩めて、馬車の屋根と御者台で会話を交わす。
「メルティナは、ダークエルフということで一方的に嫌われることがある。
休憩中の訓練を断られて、それが理由かもしれないと落ち込んでいるんだろう」
「え、そんなつもりはないです。
ブロンズタートルの討伐のことを訊かれて、前のパーティーで殺されかけたのまで思い出して言葉が出なくなっただけで……」
「じゃあ、トラウマをつかれて苦しかっただけって言ってやってくれ。
連携に支障が出ると困る」
ベルーフはなんでもないことのように、さらりと言った。
自分の傷を抱えたままでいることで、他の人も傷つける……?
昼に近づき、陽ざしが強くなる。
馬車の上で太陽に焼かれ、じわりと汗が滲んだ。




