二日目 朝食
敵対的な、隣の領の領主の館では、兵士が交替で夜番をしてくれた。
その代わりに俺は朝早くから厨房に行く。
本来、厨房に他人を入れたりはしない。それこそ毒物を混ぜられる危険もあるからだ。
だが、昨日の夕食に腹下しのハーブが入っていたことを兵士がエリオットに報告した。
エリオットが監視役を厨房に立たせろと要求すれば、ここの領主が断れるわけもない。
それで、俺が指名された。
料理人たちから嫌な感じの視線が刺さる。
いやいや、お前たちが昨日変なことしたからじゃん。領主から指示があったかどうか、尋問されないだけ優しいと思えよ。
厨房には美味しい物が作られる場所が放つ、あの活気が感じられない。
衛生的な観点で見ても不安になるし、集中力が欠けているというか、適当にやっている雰囲気だ。
「あの、兵士たちの分は俺が作っていいですか?」
見張っているのが面倒くさくなってきた。俺が作った方が早いわ。
兵士と冒険者、商業ギルドの職員で二十名くらいだ。テキパキやれば一人でもできる。
使っていい材料をもらい、水を汲んでくる。
まずは作業台を拭いて、きれいにする。包丁やまな板、鍋を洗う。
それから野菜を洗って切って……ホテルで働いていた頃を思い出す。「下ごしらえ」のスキルが存分に発揮されたら、常人には神業としか思えない手際の良さだろう。
この屋敷の料理人たちは、ぽかんと呆けたように俺を見ていた。
「あの、かまどを使わせてもらっていいですか?」
声をかけたらハッとしたようで、かまどの前を空けてくれた。
ああ、俺がここで働いているなら、かまどの灰をかき出して整備したいところだ。そんな喧嘩を売るようなことはしないけどさ。
ちらっと油を見たら、とても使いたいと思えない状態だった。主人がケチだと、限度を超えて使い回すよな。
油を使う炒め物を避け、茹でる料理にするつもりだったからいいんだけど。
本当なら肉は別に表面を焼いてから使いたいけれど、ここの料理人の邪魔をしてはいけない。かまどの一つを貸してくれただけありがたいんだ。
楽しく料理しながら、パンを焼いている人たちを監視するのも忘れない。昨日叱られたのだから、変な物を入れないと信じたいが……。
あーあ、丸める前に手を洗ってない。
俺は持ってきた黒パンを食べようかな。
いや、この先の宿場町でも衛生管理は似たようなものかもしれないんだけどさ。
気にしたら負けだ。体を壊さなければいいと、開き直ろう。
ホテルで神経質な副料理長に叩き込まれた、俺の方が異端なのだ。
鍋からアクを取っていたら、何をしているのか訊かれた。
えぐみや雑味をとると説明したら感動された。
あのホテルの厨房では、跡取りになれない貴族も働いていた。だからいろいろな知識が集まって、俺の料理が幅広くなったのかしれない。
「コクを重視したり、香辛料をたっぷり入れたりする場合はやりませんけどね」
今回は塩で簡単に味付けするのと、何が入っているか目で確認しやすいように澄んだスープにしたいのだ。
神経を張り詰める仕事だから、食事くらいは安心して食べたいよな。
食欲をそそるスープができた。
余熱で味を染みこませる間に、ゆで卵を作る。油を使わず、異物混入される危険がなく、朝食で食べなかったら荷物に入れておやつに持ち歩ける。
ご機嫌で料理を作っていた俺は失念していた。
この朝食を食べられるのは半数で、携帯食を食べる順番の人たちに恨めしそうな目を向けられることを――。
さらに、領主と食事を取らざるを得なかったエリオットからも愚痴を聞かされた。
「ご飯の美味しさは、やる気を左右するよねぇ。そう思わないかい?」




