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『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第九章 ダンジョン

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向上心とは

 俺とフォンの組み合わせで動く。フォンが風魔法で鉱石スライムの動きをコントロールし、俺がボウガンで仕留める作戦にした。


 持ってきたボウガンは中型のものだ。大型のように貫通力はない。小型のように連射できるわけでもない。

 一射を確実に、狙いを定めて、素早く次を装填する。


 一人だと隙ができるが、その間はフォンにカバーしてもらえば、大丈夫だ。できる。


 深呼吸して、鉱石スライムの気配を探しながら歩いた。

 俺が前方に意識を向け、後方はフォンに任せた。ルナとサァラはその間を歩く。



 カツンコツンと音がした。

 ルナとサァラが後方に下がり、フォンと俺が待ち受ける。


 俺がボウガンで正面に一射。


 フォンがウィンドボールを構えている。

 鉱石スライムが縦に伸びたら、その腹を狙う。もし後ろに逃げようとしたら、進路にぶつけて足止めをするのだ。

 逃げようとしたので、フォンは後ろにウィンドボールを投げた。


 その間に充填したボウガンで俺は二射目を放つ。ガツンと音がして、少し表面が削れた。

 削れたところにウィンドボールを当てたら、破片が飛び散った。

 鉱石スライムがキィーと鳴き声を上げる。効いているんだ。


 この調子で繰り返せば……と手応えを感じたときに、それが来た。


 ラグラットがすごい勢いで向かってきたのだ。


「ネズミは任せな!」

 ルナの声が飛ぶ。


 一瞬焦ったが、二匹同時は想定内だ。

 落ち着いて対処すれば問題ない。


 そう思った。


 そのはずだったのに、石つぶてが飛んできた。


「あなたたち、何をしているの?」

 教場指導をしていた女性の冒険者が叫ぶ。

 子どもたちが俺たちに向かって……いや、フォンに向かって石を投げている!


 フォンの手にはウィンドボールがある。

 だが、これを人に向けたら大怪我をさせてしまう。



 俺は判断に迷ってしまった。

 目の前にモンスターがいる。だが、それに対峙している間に、石つぶてとはいえ急所にあたるかもしれない。接近されて致命傷を負わされることもあり得る。



 カツ、カツ、カツと、ナイフが石つぶてに当たり、落下した。このナイフはどこから飛んできた?

 小柄な人影が、子どもたちに容赦のない蹴りを入れた。


 鼠獣人のミナスだ。

「子どもだからって、なに油断してんのさ。冒険者タグを持ったら、もう一人前だろ」

 そう言いながら、子どもたちを縛っていった。


「ぼけっとしてないで、地上の職員に連絡入れなよ」

「あ、はい!」

 ミナスに怒鳴られ、教場訓練の引率者が共鳴石を取り出した。


 近くにいた冒険者たちが駆け寄ってきた。

 この冒険者は昨日から何度も見かけた顔だ。俺たちの護衛役なんだろう。


 一連の騒動に気を取られて、俺は鉱石スライムの一撃を食らってしまった。

 スネがものすごく痛い。

 骨折じゃなかったのが救いだ。




 俺たちは二層の退避スペースに早めに行くことにした。


「ポーション飲むか?」

 ルナに訊かれた。


「痛いけど折れてないからいい」

 打撲用の塗り薬で、一晩様子を見ることにする。

 ポーションはすごく高価だ。後で本当に必要になるかもしれないから、温存しておきたい。


「夕食まで休んでるにゃ」

 サァラに言われて、甘えることにした。

 あの子どもたちはなんだったんだろうと考えながら、寝てしまった。



 揺り起こされたときは、パンとスープが用意されていた。


 夕食時、ミナスはまるでパーティーメンバーのように近くに陣取ってきた。

 先ほど手助けしてもらったので、スープくらいはお裾分けしよう。


「うん、旨い。やっぱり、このパーティーならいい。入ってやるよ。

 あたしを入れたら、すぐにBランクに上がれるしさ」


「先ほどのお礼はしますが、加入はお断りしますわ」

 フォンが外向けの、仮面のような笑顔で返事をした。


「そういう、向上心がないの――感心しないなぁ」


 受け入れない俺たちが悪いかのように、言ってくるな。

「俺が昔いたパーティーは、DランクからCランクに上がろうと必死になってた」


「でしょう? 努力って大事だよね」

 ミナスが前のめりになった。


 だけど、違うんだ。

「それで無茶して、一瞬Cランクになったが、あっという間にEランクに下がったらしい。

 戦闘スタイルや実績を考えて、適切な依頼を選んでいればよかったんだ。人からの賞賛を求めて、道を誤ってしまった。

 どのランクだって、正々堂々と胸を張っていいはずだ」


「なに言っちゃってんの? 怠け者の言い訳じゃん」


 実績を重ねて得たランクと、人から評価されるためのランク上げ――結果は同じでも、得た後の人生が違ってくる。

 たぶん、ミナスとは話し合いが成立しない。


サァラとフォンを間違って書いていました。2026年5月13日訂正。

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